判例紹介

各項目ごとに判例をご紹介いたします。
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保険金受取人の指定のないときは被保険者の相続人に支払う旨の約款のある保険契約の保険金請求権は、保険契約の効力発生と同時に相続人たるべき者の固有財産となり、被保険者の遺産とはならない。(最判昭和48年6月29日)

【判旨】
「保険金受取人の指定のないときは、保険金を被保険者の相続人に支払う。」旨の条項は、被保険者が死亡した場合において、保険金請求権の帰属を明確にするため、被保険者の相続人に保険金を取得させることを定めたものと解するのが相当であり、保険金受取人を相続人と指定したのとなんら異なるところがないというべきである。
そして、保険金受取人を相続人と指定した保険契約は、特段の事情のないかぎり、被保険者死亡の時におけるその相続人たるべき者のための契約であり、その保険金請求権は、保険契約の効力発生と同時に相続人たるべき者の固有財産となり、被保険者の遺産から離脱したものと解すべきである。」

相続財産が全くないと信じ、かつ、そう信じることがやむを得ない事情があると認められるときは、相続放棄や限定承認ができる期間(熟慮期間)は、相続財産の存在を認識し、又は通常認識できる時から起算する。(最判昭和59年4月27日)

【判旨】
民法九一五条一項本文が相続人に対し単純承認若しくは限定承認又は放棄をするについて三か月の期間(以下「熟慮期間」という。)を許与しているのは、相続人が、相続開始の原因たる事実及びこれにより自己が法律上相続人となった事実を知った場合には、通常、右各事実を知つた時から三か月以内に、調査すること等によって、相続すべき積極及び消極の財産(以下「相続財産」という。)の有無、その状況等を認識し又は認識することができ、したがって単純承認若しくは限定承認又は放棄のいずれかを選択すべき前提条件が具備されるとの考えに基づいているのであるから、熟慮期間は、原則として、相続人が前記の各事実を知った時から起算すべきものであるが、相続人が、右各事実を知った場合であっても、右各事実を知った時から三か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかったのが、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって、相続人において右のように信ずるについて相当な理由があると認められるときには、相続人が前記の各事実を知つた時から熟慮期間を起算すべきであるとすることは相当でないものというべきであり、熟慮期間は相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時から起算すべきものと解するのが相当である。

共同相続人らから1人に対して、自己には相続分が存在しない旨の相続分不存在証明書及び印鑑登録証明書が交付されている場合には、共同相続人の1人が遺産を全部取得する旨の分割協議が成立したものと認めるのが相当である。(東京高判昭和59年9月25日)

【判旨】
亡Aの本件遺産については、遅くとも、第一審被告次男に対し、第一審原告及び亡C(Aの三女)の相続人らが、自己には亡太郎の相続については相続分が存在しない旨の相続分不存在証明書及び各人の印鑑登録証明書を交付した昭和四九年五月一〇日ころまでに、本件遺産を亡B(Aの長男)が単独相続したこととする旨の分割協議が亡Aの相続人ら間で成立し、亡Bの相続人らの間においても、亡B所有の本件遺産は第一審被告次男がこれを全部取得する旨の分割協議が成立したものと認めるのが相当である(「相続分不存在証明書」は、遺産分割協議の結果本件遺産を第一審被告次男が取得したことの登記の手続上、右の協議書の提出に代え、これを用いたものと解される。)。

重い老人性痴呆の被相続人を10年間にわたり看護してきた相続人に寄与分を認めた事例(盛岡家昭和61年4月11日)

【判旨】
認定事実によれば,申立人は,大次郎死亡後,20年余にわたり病弱で老齢の被相続人と同居して扶養し,殊に被相続人の痴呆が高じた昭和46年以降その死亡に至るまでの10年間は常に被相続人に付添って療養看護を要する状態となり,申立人がこれに当ってきたのであり,少なくとも後半の10年間の療養看護は,親族間の扶養義務に基づく一般的な寄与の程度を遥かに超えたものというべく,被相続人は他人を付添婦として雇った場合支払うべき費用の支払を免がれ,相続財産の減少を免がれたことは明らかであり,従って申立人には,被相続人の療養看護の方法により被相続人の財産の維持につき特別の寄与があつたものというべきである。
そこで,申立人の寄与分の額について算定するに,・・・申立人の寄与分の総額は1213万円である。

死亡退職金の支給規程のない財団法人が、死亡した理事長の妻に支給した死亡退職金が、相続財産に属さず妻個人に属するものとされた事例(最判昭和62年3月3日)

【判旨】
死亡退職金は、Aの相続財産として相続人の代表者としてのYに支給されたものではなく、相続という関係を離れてAの配偶者であつたY個人に対して支給されたものであるとしてAの子であるXらの請求を棄却すベきものとした原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。

共同相続人の一人が遺産分割協議において負担した債務を履行しないときであっても、他の相続人は遺産分割協議を解除できない。(最判平成元年2月9日)

【判旨】
共同相続人間において遺産分割協議が成立した場合に、相続人の一人が他の相続人に対して右協議において負担した債務を履行しないときであっても、他の相続人は民法五四一条によって右遺産分割協議を解除することができないと解するのが相当である。けだし、遺産分割はその性質上協議の成立とともに終了し、その後は右協議において右債務を負担した相続人とその債権を取得した相続人間の債権債務関係が残るだけと解すべきであり、しかも、このように解さなければ民法九〇九条本文により遡及効を有する遺産の再分割を余儀なくされ、法的安定性が著しく害されることになるからである。

相続財産の共有者の一人が死亡し、相続人の不存在が確定し、相続債権者や受遺者に対する清算手続が終了したときは、その持分は特別縁故者に対する財産分与の対象となり、この財産分与がなされないときは、他の共有者に帰属する(最判平成元年11月24日)

【判旨】
特別縁故者に対する財産分与に関する法九五八条の三の規定は、「本来国庫に帰属すべき相続財産の全部又は一部を被相続人と特別の縁故があった者に分与する途を開き、右特別縁故者を保護するとともに、特別縁故者の存否にかかわらず相続財産を国庫に帰属させることの不条理を避けようとするものであり、そこには、被相続人の合理的意思を推測探究し、いわば遺贈ないし死因贈与制度を補充する趣旨も含まれているものと解される。」
「共有持分も特別縁故者への財産分与の対象となり、右分与がされなかった場合にはじめて他の共有者に帰属すると解する場合には、特別縁故者を保護することが可能となり、被相続人の意思にも合致すると思われる場合があるとともに、家庭裁判所における相当性の判断を通して特別縁故者と他の共有者のいずれに共有持分を与えるのが妥当であるかを考慮することが可能となり、具体的妥当性を図ることができるのである。」
「したがって、共有者の一人が死亡し、相続人の不存在が確定し、相続債権者や受遺者に対する清算手続が終了したときは、その共有持分は、他の相続財産とともに、法九五八条の三の規定に基づく特別縁故者に対する財産分与の対象となり、右財産分与がされず、当該共有持分が承継すべき者のないまま相続財産として残存することが確定したときにはじめて、法二五五条により他の共有者に帰属することになると解すべきである。」

寄与分を定めるにあたっては、他の相続人の遺留分を侵害する結果となるかどうかについても考慮しなければならない。(東京高決平成3年12月24日)

【判旨】
寄与分の制度は、相続人間の衝平を図るために設けられた制度であるから、遺留分によって当然に制限されるものではない。しかし、民法が、兄弟姉妹以外の相続人について遺留分の制度を設け、これを侵害する遺贈及び生前贈与については遺留分権利者及びその承継人に減殺請求権を認めている(一○三一条)一方、寄与分について、家庭裁判所は寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して定める旨規定していること(九○四条の二第二項)を併せ考慮すれば、裁判所が寄与分を定めるにあたっては、他の相続人の遺留分についても考慮すべきは当然である。確かに、寄与分については法文の上で上限の定めがないが、だからといって、これを定めるにあたって他の相続人の遺留分を考慮しなくてよいということにはならない。むしろ、先に述べたような理由から、寄与分を定めるにあたっては、これが他の相続人の遺留分を侵害する結果となるかどうかについても考慮しなければならないというべきである。

娘が暴力団員と婚姻し、父母が婚姻に反対なのに父の名で披露宴の招待状を出すなどして、父母に多大な精神的苦痛を与えたときに、娘を推定相続人から廃除できるとされた事例(東京高決平成4年12月11日)

【判旨】
「民法第八九二条にいう虐待又は重大な侮辱は、被相続人に対し精神的苦痛を与え又はその名誉を毀損する行為であって、それにより被相続人と当該相続人との家族的協同生活関係が破壊され、その修復を著しく困難ならしめるものをも含むものと解すべきである。
本件において、・・・前科のある暴力団の中堅幹部である乙山夏夫と同棲し、その挙げ句、同人との婚姻の届出をし、その披露宴をするに当たっては、抗告人らが右婚姻に反対であることを知悉していながら、披露宴の招待状に招待者として乙山の父乙山松夫と連名で抗告人甲野太郎の名を印刷して抗告人らの知人等にも送付するに至るという行動に出たものである。そして、・・・右家族に対する帰属感を持つどころか、反社会的集団への帰属感を強め、かかる集団である暴力団の一員であった者と婚姻するに至り、しかもそのことを抗告人らの知人にも知れ渡るような方法で公表したものであって、相手方のこれら一連の行為により、抗告人らが多大な精神的苦痛を受け、また、その名誉が毀損され、その結果抗告人らと相手方との家族的協同生活関係が全く破壊されるに至り、今後もその修復が著しく困難な状況となっているといえる。」

非嫡出子の相続分を嫡出子の二分の一とした民法900条4項は、合理的理由のない差別とは言えず、憲法14条1項に反しない。(最決平成7年7月5日)

【判旨】
「相続制度をどのように定めるかは、立法府の合理的な裁量判断にゆだねられているものというほかない。」
「本件規定を含む法定相続分の定めは、右相続分に従って相続が行われるべきことを定めたものではなく、遺言による相続分の指定等がない場合などにおいて補充的に機能する規定であることをも考慮すれば、本件規定における嫡出子と非嫡出子の法定相続分の区別は、その立法理由に合理的な根拠があり、かつ、その区別が右立法理由との関連で著しく不合理なものでなく、いまだ立法府に与えられた合理的な裁量判断の限界を超えていないと認められる限り、合理的理由のない差別とはいえず、これを憲法一四条一項に反するものということはできないというべきである。」
「本件規定の立法理由は、・・・民法が法律婚主義を採用している以上、法定相続分は婚姻関係にある配偶者とその子を優遇してこれを定めるが、他方、非嫡出子にも一定の法定相続分を認めてその保護を図ったものであると解される。」
「右のような本件規定の立法理由にも合理的な根拠があるというべきであり、本件規定が非嫡出子の法定相続分を嫡出子の二分の一としたことが、右立法理由との関連において著しく不合理であり、立法府に与えられた合理的な裁量判断の限界を超えたものということはできないのであって、本件規定は、合理的理由のない差別とはいえず、憲法一四条一項に反するものとはいえない。」
(反対意見)
本件規定が「非嫡出子の法定相続分を嫡出子の法定相続分の二分の一と定めていることは、憲法一四条一項に違反して無効であ」ると考える。
「婚姻を尊重するという立法目的については何ら異議はないが、その立法目的からみて嫡出子と非嫡出子とが法定相続分において区別されるのを合理的であるとすることは、非嫡出子が婚姻家族に属していないという属性を重視し、そこに区別の根拠を求めるものであって、前記のように憲法二四条二項が相続において個人の尊厳を立法上の原則とすることを規定する趣旨に相容れない。すなわち、出生について責任を有するのは被相続人であって、非嫡出子には何の責任もなく、その身分は自らの意思や努力によって変えることはできない。出生について何の責任も負わない非嫡出子をそのことを理由に法律上差別することは、婚姻の尊重・保護という立法目的の枠を超えるものであり、立法目的と手段との実質的関連性は認められず合理的であるということはできないのである。」

共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の建物で被相続人と同居してきたときは、特段の事情のない限り、被相続人が死亡し相続が開始した後も、遺産分割により右建物の所有関係が最終的に確定するまでの間は、同居していた相続人に無償で使用させる旨の合意があったものと推認される。(最判平成8年12月17日)

【判旨】
共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは、特段の事情のない限り、被相続人と右同居の相続人との間において、被相続人が死亡し相続が開始した後も、遺産分割により右建物の所有関係が最終的に確定するまでの間は、引き続き右同居の相続人にこれを無償で使用させる旨の合意があったものと推認されるのであって、被相続人が死亡した場合は、この時から少なくとも遺産分割終了までの間は、被相続人の地位を承継した他の相続人等が貸主となり、右同居の相続人を借主とする右建物の使用貸借契約関係が存続することになるものというべきである。けだし、建物が右同居の相続人の居住の場であり、同人の居住が被相続人の許諾に基づくものであったことからすると、遺産分割までは同居の相続人に建物全部の使用権原を与えて相続開始前と同一の態様における無償による使用を認めることが、被相続人及び同居の相続人の通常の意思に合致するといえるからである。

遺言書を破棄隠匿しても、相続に関して不当な利益を目的としないときは、相続欠格事由に該当しない。(最判平成9年1月28日)

【判旨】
相続人が相続に関する被相続人の遺言書を破棄又は隠匿した場合において、相続人の右行為が相続に関して不当な利益を目的とするものでなかったときは、右相続人は、民法八九一条五号所定の相続欠格者には当たらないものと解するのが相当である。けだし、同条五号の趣旨は遺言に関し著しく不当な干渉行為をした相続人に対して相続人となる資格を失わせるという民事上の制裁を課そうとするところにあるが、遺言書の破棄又は隠匿行為が相続に関して不当な利益を目的とするものでなかったときは、これを遺言に関する著しく不当な干渉行為ということはできず、このような行為をした者に相続人となる資格を失わせるという厳しい制裁を課することは、同条五号の趣旨に沿わないからである。

不動産の死因贈与の受贈者が贈与者の相続人であって限定承認をしたときは、死因贈与に基づく所有権移転登記が相続債権者による差押登記よりも先にされたとしても、信義則に照らし、限定承認者は相続債権者に対して不動産の所有権取得を対抗することはできない。(最判平成10年2月13日)

【判旨】
不動産の死因贈与の受贈者が贈与者の相続人である場合において、限定承認がされたときは、死因贈与に基づく限定承認者への所有権移転登記が相続債権者による差押登記よりも先にされたとしても、信義則に照らし、限定承認者は相続債権者に対して不動産の所有権取得を対抗することができないというべきである。ただし、被相続人の財産は本来は限定承認者によって相続債権者に対する弁済に充てられるべきものであることを考慮すると、限定承認者が、相続債権者の存在を前提として自ら限定承認をしながら、贈与者の相続人としての登記義務者の地位と受贈者としての登記権利者の地位を兼ねる者として自らに対する所有権移転登記手続をすることは信義則上相当でないものというべきであり、また、もし仮に、限定承認者が相続債権者による差押登記に先立って所有権移転登記手続をすることにより死因贈与の目的不動産の所有権取得を相続債権者に対抗することができるものとすれば、限定承認者は、右不動産以外の被相続人の財産の限度においてのみその債務を弁済すれば免責されるばかりか、右不動産の所有権をも取得するという利益を受け、他方、相続債権者はこれに伴い弁済を受けることのできる額が減少するという不利益を受けることとなり、限定承認者と相続債権者との間の公平を欠く結果となるからである。

内縁の夫婦が、共有不動産を共同で使用してきたときは、特段の事情のない限り、その一方が死亡した後は他方が不動産を単独で使用する旨の合意が成立していたものと推認される。(最判平成10年2月26日)

【判旨】
共有者は、共有物につき持分に応じた使用をすることができるにとどまり、他の共有者との協議を経ずに当然に共有物を単独で使用する権原を有するものではない。しかし、共有者間の合意により共有者の一人が共有物を単独で使用する旨を定めた場合には、右合意により単独使用を認められた共有者は、右合意が変更され、又は共有関係が解消されるまでの間は、共有物を単独で使用することができ、右使用による利益について他の共有者に対して不当利得返還義務を負わないものと解される。そして、内縁の夫婦がその共有する不動産を居住又は共同事業のために共同で使用してきたときは、特段の事情のない限り、両者の間において、その一方が死亡した後は他方が右不動産を単独で使用する旨の合意が成立していたものと推認するのが相当である。ただし、右のような両者の関係及び共有不動産の使用状況からすると、一方が死亡した場合に残された内縁の配偶者に共有不動産の全面的な使用権を与えて従前と同一の目的、態様の不動産の無償使用を継続させることが両者の通常の意思に合致するといえるからである。

共同相続人の間で成立した遺産分割協議は、詐害行為取消権行使の対象となり、債権者はその取消を裁判所に請求できる。(最判平成11年6月11日)

【判旨】
共同相続人の間で成立した遺産分割協議は、詐害行為取消権行使の対象となり得るものと解するのが相当である。けだし、遺産分割協議は、相続の開始によって共同相続人の共有となった相続財産について、その全部又は一部を、各相続人の単独所有とし、又は新たな共有関係に移行させることによって、相続財産の帰属を確定させるものであり、その性質上、財産権を目的とする法律行為であるということができるからである。

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