2022.04.27

文書の成立の真性を争ったら過料に?民事訴訟における過剰主張に対するペナルティの紹介(民事訴訟法230条)

弁護士 亀井 瑞邑
 

1. 文書の形式的証拠力と制裁規定

民事裁判において、客観的な資料が裁判所の判断に際して重要であることはいうまでもありませんが、その中でも文書は、まず、「文書の成立の真正」(民事訴訟法228条1項)として、文書の作成者であると挙証者が主張する者の意思に基づいてその文書が作成される必要があります。このように、その記載内容が文書作成者と主張されている者の思想表明であると認められることを「形式的証拠力」といい、他方、その文書がどの程度の証拠価値があるか(裁判官の心証形成に与える証拠価値・信用性のこと)を「実質的証拠力」といいます。
 
民事裁判においては、時として双方当事者の対立が激しく、「形式的証拠力」も含めて、相手方の主張の全てを否認することを希望される方がいます。しかし、代理人としてはこのような希望を叶えることは出来ません。弁護士職務倫理など、様々な理由がありますが、今回は、民事訴訟法230条が定める過料の制裁規定を紹介します。
 

(文書の成立の真正を争った者に対する過料)
230条1項
当事者又はその代理人が故意又は重大な過失により真実に反して文書の成立の真正を争ったときは、裁判所は、決定で、十万円以下の過料に処する。

 
このように、「当事者」又は「その代理人」(=弁護士)が真実に反して文書の成立の真正を争った場合、民事訴訟法上、過料(行政罰)の制裁がなされる可能性があります。

2. 民事訴訟法230条の内容(弁護士に対する過料の可能性)

民事裁判において、仮に当事者が真実に反して否認したとしても制裁の規定がないにもかかわらず、文書の成立についてだけ過料の制裁規定が定められている趣旨は必ずしも分かりませんが、文書が重要な証拠方法であるところ、これが争われることにより訴訟の遅延が生じかねず、これに対する制裁の意味はあるといえます。
 
ところで、同条は、「当事者」だけでなく「その代理人」、すなわち、弁護士に関しても、「真実に反して文書の成立の真正を争ったとき」は、10万円以下の過料に処すると定めています。弁護士は、「当事者」の代理人であり、当事者の意に反する訴訟活動は原則として出来ないのですが、たとえ弁護士が「当事者」の意思をそのまま取り次いで文書の成立の真正を争ったとしても、僅かな注意を払えば文書が不実であることが明らかであるような場合(文書作成者本人に確かめればたやすく分かるのに本人に確かめないで直ちに否認する場合など)には、過料の制裁がなされる可能性があるのです。
 
すなわち、ここにいう「故意又は重大な過失により」とは、①文書が真実に成立していることを知った上で(=「故意」)、あるいは、②「当事者」「代理人」が通常求められる合理的な調査を行えば容易に文書作成者の意思に基づいて作成されたことが分かるような場合(=「重大な過失」)をいいます。そのため、文書作成者との関わりがあまりない「代理人」が文書の成立の真正を争ったとしても、必ずしも同条の適用がなされるとはいえませんが、「重大な過失」の認定がなされる危険は、なお存在します。

3. 過料の決定がなされてしまった場合

なお、万が一過料の決定がなされたとしても、訴訟の係属中その文書の成立が真正であることを認めたとき、すなわち、文書の成立を争っていたそれまでの主張を改めてその成立を認めたときは、裁判所は過料の決定を取り消すことが出来ます(民事訴訟法230条3項)。
 

230条3項
第一項の場合において、文書の成立の真正を争った当事者又は代理人が訴訟の係属中その文書の成立が真正であることを認めたときは、裁判所は、事情により、同項の決定を取り消すことができる。

 
とはいえ、訴訟の進行上、当事者としても、また代理人である弁護士としても、このような過料の決定がなされている中で訴訟活動をすることは難しいでしょう。
弁護士としては、文書の真否は慎重に判断した上で、成立の真正について争うかどうかを判断する必要があり、当事者としても、場合によってはこのような制裁がなされることがあることをふまえて、訴訟対応を行う必要があります。

4. 民事裁判における弁護士と当事者(依頼者)

民事訴訟は往々にして感情的な対立が存在します。当事者としても自身の代理人に対して、相手方の主張の全てを否定することを希望される方がいます。しかし、同条の存在からも明らかなように、民事裁判手続きにおいてはそのような対応は問題があり、代理人としても、たとえ依頼者であっても、このような要望に応じることは出来ません。
訴訟や交渉においては、たとえ感情的な対立があるとしても、他方で冷静に、かつ慎重に、相手方の主張のみならずご自身の主張も検討する必要があります。
 
ご自身の意見をある程度客観的に指摘できる代理人・弁護士と共に、問題の解決を目指しませんか?一度ご相談をお聞かせ下さい。より良い解決に向けて、お力添えできるやもしれません。
 
 
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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