2021.05.10

相続放棄しつつ、家を残す

自宅の所有者が亡くなったとき、その方の債務が多額だと、残された遺族は、選択を迫られることになります。すなわち、相続して自宅を手に入れつつ債務も引き受けるか、相続放棄をして債務は免れるものの自宅を失うか。
ただ、こういった場合に、一定の支出は伴うものの、債務を免れつつ自宅を残すことができる第3の方法がありうるので、今回はその方法を紹介します。

事例

普通の選択

事例の場合、そのまま相続することを選択すると、自宅だけでなく債務も相続してしまうので、債務1,000万円をも引き受けることになります。そうすると、慣れ親しんだ自宅に住み続けることはできるものの、単純に財産価値の差額である600万円(= 1,000万 – 400万)ぶんがまるまる損です。それに、400万の価値があるとされる自宅も売却して換価することができないため(住みたいのですから当然ですよね)、自宅以外から債務1,000万円の原資を捻出しなければならず、なかなか負担が大きいです。
かといって、単純に相続放棄を選択するだけだと、債務1,000万円を引き受ける必要はなくなるものの、自宅に対する権利も失いますのでそのうち自宅を出ていかなければいけません。

第3の選択

債務を免れつつ自宅を残すには、
1. まずいったん相続放棄しておき
2. 次に裁判所に対して遺産を管理する「相続財産管理人」を選任するよう申し立て
3. 最後に選任された相続財産管理人から自宅を買い取る交渉をする
という方法をとっていくことになります。
こうすると、相続放棄したことで債務を免れることは確保しておきながら、債務とは関係なく自宅に相当する金額を支払うだけで自宅を取得することができます。
ただ、この方法を実際に行うにはいくつか注意点がありますので、以下、順に解説していきましょう。

1. 相続放棄

相続財産管理人を選任しうる状態にするには、相続人が誰もいない状態にする必要があります。相続人には優先順位が定められており、第1順位(夫、子)の相続人が相続放棄をすると相続人の地位が第2順位(両親)に移ることになります。そして、第2順位の相続人が相続放棄をすると、今度は第3順位(兄弟)へと、順次移っていきます。
事例の場合でも、第1順位である妻と子が相続放棄をすると、相続人の地位が第2順位の夫の両親や第3順位の夫の兄弟に移転してしまうことになります。そのため、この方法をとる場合には、そういった方々にもアナウンスをして順次相続放棄をしてもらう必要があります(そうでないとその方々が負債を抱えてしまう)。疎遠になっていた遠い親族に連絡しなければならなかったり、ご高齢だと理解を得るのが大変なこともありますので、ご注意ください。

2. 相続財産管理人の選任申立て

相続財産管理人とは、相続人がいない状態の相続財産を管理する役職であり、裁判所が選任します。ただ、裁判所は勝手に選任してくれるわけではないので、ご遺族の方がご自身で申し立てる必要があります。申立権者は法律上「利害関係人」とされていますが、ここには財産管理者も含まれますので、事例の場合では、妻が相続財産である自宅に居住していることを理由に申し立てることができます。
この点、相続財産管理人の選任に際しては裁判所に「予納金」という金銭を納める必要があります。これは最終的には遺産から回収できるものの、いったんは立て替える必要があり、事案によりますが数十万円は必要です(事例の場合だと40万円というところでしょうか)。予納金の負担が辛い場合には、債権者である金融機関に申立てをするよう促すことも考えられます。

3. 相続財産管理人からの買取交渉

選任された相続財産管理人は、相続財産を管理しながら順次換価していき、債権者に対して換価した金銭を公平に分配していくことになります。そして、ご遺族の方は、この相続財産の換価の段階で、相続財産管理人から自宅を買い取ることができるわけです。
自宅を買い取る金額は画一的に決まっているわけではなく、相続財産管理人との交渉次第となります。時価よりあまりに安い金額では裁判所が許可してくれませんが、そうでなければ相続財産管理人は相談に乗ってくれることが多いです。通常、中古物件の場合は第三者に売却すると解体費(さらに言えば立退費用)が必要になりますが、遺族がそのまま住む場合にはそういった費用がいらないこと等を説明してなるべく値下げしてもらいましょう。事例の場合だと、更地価格が400万円であれば、350万円程度まで粘れるかもしれません。

まとめ

以上、架空の事例を題材に、相続財産管理人を利用した、債務を免れつつ自宅を残す方法を見てきましたが、いかがだったでしょうか。
世の中の相続に一つとして同じ事案はなく、その相続ごとに固有の問題があり、最適な解決方法も異なってきます。ご自身では考えつかなかった解決にたどり着ける場合もございますので、まずは弁護士にご相談ください。
 
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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