2021.07.28

遺産分割をしたいのに連絡がとれない相続人がいる

弁護士 長谷川 周吾

1. 遺産分割協議は全員で行うことが必要

相続が発生すると、各相続人は、相続財産を遺産共有することになります(遺言によって遺産分割方法の指定がなされている場合は除きます)。この遺産共有状態を解消し、相続財産を具体的に分配するためには、「遺産分割」の手続きを経る必要があります。
 
そこで、まずは各相続人が遺産の分け方について話し合い(遺産分割協議)を行うことになりますが、遺産分割協議は「相続人全員」で行う必要があり、相続人が一人でも欠けている状態でなされた遺産分割協議は無効です。
 
もっとも、全く面識のない親戚が共同相続人になることもあり、各相続人の「連絡先がわからない。」ということもあります。また、共同相続人の仲が悪く、一部の相続人が「連絡を無視する。」こともあるかもしれません。しかし、このような場合であっても、遺産分割協議は「相続人全員」でしなければなりません。
 
遺産分割においては、遺言の効力、相続人の範囲、遺産の範囲ないし評価、特別受益、寄与分、分割方法など、様々な争いが生じることがありますが、今回は、その前提問題として、「連絡が取れない相続人がいる場合、どうしたらよいか」について説明いたします。

2. 相続人の住民票上の住所の調査

連絡の取れない相続人の住所を調査するために、まずは戸籍謄本を取得します。この点、連絡の取れない相続人の本籍地が不明であっても、被相続人の戸籍謄本の記載から各相続人の本籍地を追うことが可能です。
 
そして、連絡がとれない相続人の本籍がわかったら、本籍地の役所で戸籍の附票を取得することにより、住民票上の住所を特定することが可能です。
 
戸籍謄本や戸籍の附票の取得はご自身で行うことも可能ですが、重要な記載を見落としてしまった結果、「実は他にも相続人がいた」という場合もあります。他に相続人がいることに気づかずに遺産分割をした場合、その遺産分割は無効となってしまいますので、専門家に依頼することが確実です。

3. 住民票上の住所を特定した後について

住民票上の住所宛に文書を送付し、本人から回答があれば、協議を進めることができます。
しかし、住民票上の住所に、実際に本人が住んでいない場合もありますし、その他、様々な理由によって本人から回答が得られない場合があります。
このような場合に、どのように手続きを進めるべきかについて、以下、詳述します。

(1) 不在者財産管理人の選任申立て

住民票上の住所に、連絡の取れない相続人が居住していないと思われ、転居先も明らかでない場合には、家庭裁判所に「不在者財産管理人」の選任を申し立てます。その上で、不在者財産管理人との間で遺産分割協議を行うこととなります。
なお、不在者財産管理人は、当然には遺産分割協議を行う権限を有しておりません。家庭裁判所からの許可を得ることにより、遺産分割協議を行う権限が与えられます。

(2) 失踪宣告

長期間に渡って連絡が取れない相続人がいる場合には、失踪宣告の利用が考えられます。不在者について、その生死が7年間明らかでないとき(普通失踪)、または、戦争、船舶の沈没、震災などの死亡の原因となる危難に遭遇しその危難が去った後その生死が1年間明らかでないとき(危難失踪)は、家庭裁判所に対し、失踪宣告の申立てをすることができます。
失踪宣告がされると、その対象者は、法律上、死亡したとみなされます。そのため、連絡が取れない相続人を死亡したとみなして、遺産分割協議を進めることになります(死亡宣言を受けた者に相続人がいる場合には、その者が代襲相続人として遺産分割協議に参加することになります)。

(3) 遺産分割調停を申し立てる

住民票上の住所に、連絡が取れない相続人が居住していると思われるものの、連絡を無視された場合は、当該相続人を相手方として遺産分割調停を申し立てることとなります(不在者財産管理人の選任申立てや失踪宣告の要件を満たさないので、前述(1)(2)の手続きをとることができません)。
当該相続人が調停手続きにも参加しない場合には、遺産分割審判または調停に代わる審判を得て、遺産を具体的に分割することが可能です。

4. おわりに

遺産分割について争いがなくとも、「連絡の取れない相続人」がいるだけで、手続きが複雑になり、遺産分割が完了するまでに半年~1年以上の時間がかかることもあります。遺産分割は、相続開始後いつまでにしなければならないというルールはありませんが、放置していると、その間に二次相続が発生し、相続人の人数が増え、話し合いによる解決も困難になっていきます。そのため、早い段階で専門家に相談し、早期迅速な解決を図ることが重要です。
 
遺産分割は、遺産を「貰う側」の問題ですが、いずれは自分が遺産を「遺す側」になります。自らの死後、相続人間で争いが生じないよう、また、スムーズに遺産を分割することができるようにするためには、専門家に相談した上で遺言書を作成しておくことが望ましいと言えます。
 
当法律事務所は、1972年の設立以来遺産相続問題に注力しており、情報やノウハウについて長年の蓄積があります。また、家庭裁判所に務めていた元裁判官の弁護士や公正証書遺言作成を多く扱ってきた元公証人の弁護士など遺産相続問題に極めて造詣の深い弁護士が所属しており、その経験・知識・ノウハウを共有しながら事件解決にあたっています。そのため、伝統と専門性に裏打ちされた質の高いサービスを、自信をもってご提供いたしております。
 
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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