2020.09.07

重婚的内縁関係者は遺族年金を受給できるか

弁護士 小栁 知子
 

 

 
現代社会は男女関係、夫婦関係の在り方も多様化しています。行政や司法もそのことを反映し、戸籍の届け出がない事実婚関係も種々の面で保護しています。
では、内縁関係にあった配偶者が死亡したとき、遺族厚生年金は受給できるのでしょうか。
厚生年金保険法59条1項は、「配偶者、子、父母、孫又は祖父母であって、被保険者等の死亡の当時、その者によって生計を維持したもの」について年金受給資格を認め、同3条2項は、「配偶者」には婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含むと定めています。したがって内縁関係者でも生計維持関係にあった者であれば、遺族厚生年金受給資格が認められることとなります。
そして、「生計維持関係等の認定基準及び認定の取り扱いについて」(平成23年3月23日年発0323第1号厚生労働省年金局長通知)において、内縁関係者が年金受給資格のある生計維持関係者と認定される要件が明らかにされています。
ここで内縁関係とは具体的にどういった場合をいうのでしょうか。内縁関係が認められる要件は次のとおりです。

Q.1 内縁(事実婚関係)にある者とは

 

 
婚姻の届出こそしていないものの、お互いに婚姻の意思をもって共同生活を送っている場合、上記の1) 、2) の要件を満たします。そして、上記の要件を満たす内縁関係者と被保険者との間との間に生計維持関係にあると認められれば、年金受給資格が認められます。
では、上記の要件を満たすものの、他に法律婚の配偶者もいる重婚的内縁関係者も遺族厚生年金を受給できるのでしょうか。
前述の厚生労働省年金局長通知6には、「届出による婚姻関係にある者が重ねて他の者と内縁関係にある場合の取扱いについては、婚姻の成立が届出により法律上の効力を生ずることとされていることからして、届出による婚姻関係を優先すべきことは当然であり、従って、届出による婚姻関係がその実体を全く失ったものとなっているときに限り、内縁関係にある者を事実婚関係にある者として認定するものとすること。」と記載されており、原則は法律婚が優先され、法律婚が実体を全く失ったと認められるとき重婚的内縁関係者に受給資格が認められることとなります。重婚的内縁関係で法律婚が優先される理由ですが、法律婚の配偶者と離婚して内縁関係者と再婚する場合は離婚の段階で財産分与がなされることを考えれば、重婚関係にない内縁者と扱いが異なることも理解しやすいかと思います。
では、「届出による婚姻関係が実体を全く失ったものとなっている」場合とは具体的にどのような場合なのでしょうか。上記通知6には次のように定義づけられています。

Q.2「届出による婚姻関係がその実体を全く失ったものとなっているとき」とは

 

 

上記1)の要件に、法律婚の当事者が「夫婦としての共同生活を廃止している場合」とあります。具体的にはどのような場合でしょう。これについても前記厚生労働省年金局長通知6上に明らかにされています。具体的には以下のとおりです。

Q.3「夫婦としての共同生活を廃止していると認められる」場合とは

 

 
上記の3つの要件を端的にいうと、1) 別居中、2) 法律婚配偶者に生活費の仕送りなどはしていない、3) 手紙、メール、電話のやりとりはなく訪問などもない関係です。言い換えれば、法律婚関係が全く形骸化しているような場合、重婚的内縁関係者が遺族厚生年金を受給資格が認められます。
 
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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