2021.10.04
代表者が存在しない法人を相手方とする訴訟について
弁護士 石垣 尚之
第1 事例
第2 一時取締役の選任
1 法律の規定
Y会社は、法律で定められた取締役の員数を欠いている状態です。
このような場合、裁判所は、利害関係の請求によって一時取締役を専任することができます。(会社法346条2項、代表取締役について351条2項)一時取締役の選任については、次の二つの要件が必要になります(会社法346条2項)。
(1)役員が欠けた場合又は会社法若しくは定款で定めた役員の員数が欠けた場合に当たること(役員が欠けた場合等)。
(2)選任する必要があると認められること(必要性)。
2 申立て手続き等について
申立ての管轄は、会社の本店所在地の地方裁判所です(会社法868条1項)。
裁判所は、一時取締役を選任する必要性について審理して決定します。一時取締役が選任されたときは、登記する必要があります。一時取締役には、会社の負担で報酬を与えることができ、報酬の額は、裁判所が決定をもって定めます。
選任された仮取締役への報酬・費用等の支払を担保するため、次のとおりの基準で予納金の納付が必要となる場合があります。具体的な金額は、個々のケースで異なります。
(1)次期役員の選任が見込める場合
次期取締役が選任されるまでの間の報酬等の支払を担保し得る額
(2)予定された仮役員の事務が終了した段階で選任取消しが可能な場合
選任取消決定がなされるまでの間の報酬等の支払を担保し得る額
(3)次期取締役の選任も見込めず、選任取消しをすることもできない場合
長期の就任を想定し、かつ、その間の報酬等の支払を十分に担保し得る額(相当高額となると見込まれます。)
第3 特別代理人選任の申立て
1 法律の規定
Y社に対して取り得る手段として、他に特別代理人の選任方法があります。Y社に裁判をする件についてのみY社を代表するものを相手にすれば足りる場合、上記の仮代表取締役の選任の手続きは、まわりくどく、緊急の処理に間に合わないおそれがあります。
そのため、訴訟提起を行いその手続きにおいて特別代理人の選任を申請することができます。(民事訴訟法35条1項)。特別代理人選任の申立てがあった場合に裁判長は、適当な者を特別代理人に選任する命令を発します。特別代理人には報酬を支払うのが通常です。実務では、特別代理人を選任するものが費用を予納し、特別代理人を選出した裁判長が特別代理人と会社との関係、事件の性質、難易その他の事情を考慮して支払うかどうか、その額はいくらにするかを決めています。
2 特別代理人と一時取締役選任の違い
特別代理人の職務は当該裁訴訟限りであるのに対して、一時取締役では、株主総会の招集、新取締役の選任、取締役会の開催、新代表取締役の選定までもしなければなりません。
そのため、紛争が当該訴訟限りで完結する場合には、特別代理人の選任を選択した方が時間と費用の点から有利となります。また、特別代理人の選任が可能な場合には上述一時取締役選任の必要性が否定される可能性があります。
もっとも、特別代理人は、当該訴訟限りでY社を代表するものであり、訴訟が終了となった場合には、特別代理人も終任となります。そのため、事件の実質的な解決のために訴訟終了後にもYを代表するものが必要な場合には、特別代理人を選任するだけでは不適切となる可能性もあります。
例えば、上記の例でいえば、Y社の防災工事の要望の意思表示は判決によって達成することができます。しかし、実際に工事を行うにあたり、県との関係で工事のために県とのY社所有の土地の賃貸借契約を締結することが必要となったり、防災工事の要望の手続きを行った後に工事の完了までの間にY社においても複数の申請の手続きを行う必要があると考えられます。そのため、都度、Y社を代表する者が必要となる可能性があります。そのような事件を特別代理人の制度を利用して解決するとしたら、都度、意思表示を求める訴訟を提起して特別代理人を選定のうえ意思表示に代わる判決を得る必要があり、現実的ではありません。事件の実質的な終了に訴訟終了後も会社を代表するものが必要である場合には、特別代理人ではなく、一時取締役の選任申立てをせざる得ないと考えられます。
上記のような事例では、最終的に一時取締役の選任が必要だといえます。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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