2021.06.18

第三者からの情報取得手続の留意点~預貯金債権等に関する情報取得について~

1. 手続の概要

令和元年の民事執行法改正によって、執行裁判所が、債務名義を有する債権者の申立てにより、債務者以外の第三者に対して、債務者の財産に関する情報提供を命ずる決定をし、この決定を受けた第三者が、執行裁判所に当該情報の提供をする制度が創設されました。この手続を「第三者からの情報取得手続」といいます。(財産開示手続とは異なります。)
これにより、債権者代理人の立場からは、密行性に限界があるとはいえ、債務者の財産をある程度広く調査することが可能となりました。

2. 種類

 
本コラムでは(3)の金融機関からの情報取得手続の注意点について触れたいと思ます。

3. 改正前後の比較

(1) 改正前の実務

従来、いくつかの弁護士会と銀行との協定に基づき、債権者が債務名義を有する場合、弁護士法23条の2第2項に基づく弁護士会照会によって、債務者の同意を得ずに、債務者名義の預貯金口座の有無、支店及び残高等の回答を受けることができました。
東京弁護士会では、三菱UFJ、SMBC、みずほ、みずほ信託、ゆうちょ銀行と協定を締結していましたが、照会可能先が限定されているという問題がありました。

(2) 改正後の実務

法207条は、この一部の銀行のみならず、各種金融機関を含めた「銀行等」が保有する預貯金の情報及び証券保管振替機構及び日本銀行並びに銀行及び証券会社といった金融商品取引業者である「振替機関等」が保有する国債や上場株式といった「振替社債等」の情報を得ることが可能となりました。

4. 要件(民事執行法207条)

(1) 執行力のある債務名義の正本を有する金銭債権の債権者の申立てによること
 
(2) 民事執行法197条第1項各号のいずれかに該当すること(いわゆる不奏功要件)

A. 強制執行または担保権の実行における配当等の手続・・・において、申立人が当該金銭債権の完全な弁済を受けることが出来なかったとき
 
B. 知れている財産に対する強制執行を実施しても、申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得られないことの疎明があったとき

 
(3) なお、債務者の不動産に関する情報取得と、給与債権(勤務先)に関する情報取得手続においては、財産開示手続を前置していることが申立ての要件ですが、預貯金債権等に関する情報取得手続においては不要です。

5. 申立ての際の予納金について

預貯金に関する情報と、上場株式、国債等に関する情報については、1件5,000円であり、第三者が1名増えるごとに4,000円ずつ加算されます(情報を提供する金融機関への報酬(1か所2,000円)も含まれます)。

6. 情報提供決定及び決定後の手続

預貯金に関する情報と上場株式、国債等に関する情報取得手続の申立ての場合には、申立書と添付書類から要件が満たされていると判断された場合、情報提供命令が発令され、第三者に対し、情報提供命令正本が送付されます。それと同時に、申立人に対し、情報提供命令正本が送付されることになります。

7. 裁判所から債務者への通知

第三者から執行裁判所に情報提供書が届くと、執行裁判所は、債務者に対し、情報提供命令に基づいて財産情報が提供された旨を通知することになります。
当該通知書は、第三者から(第三者が2人以上いる場合は、最後の)情報提供書が提出された後1か月が過ぎた時点で、事件ごとに1回送付されることになるので、裁判所から債務者に通知が行く前の1か月の間に、速やかに強制執行申立てを行うことが肝要です。

8. 第三者から情報提供を受けるまでの期間

(1) 第三者は、執行裁判所から情報提供命令正本の送付を受けた場合には、書面で、債務者の財産情報の提供をしなければなりません。
 
(2) 提出期限の定めはありませんが、東京地裁民事21部執行センターでは、第三者に、情報提供命令正本が届いてから2週間以内に送付するよう協力を求めているようです。

9. 情報提供をしないことへの制裁

(1) 情報提供を命じられた第三者による情報提供の拒絶や虚偽の情報の提供に対して、改正法は特段の罰則を設けていません。
 
(2) ただし、債権執行の第三債務者の陳述催告の手続において、執行裁判所の裁判所書記官からの陳述の催告を受けた第三者が、故意又は過失により陳述をしなかったときや、不実の陳述をしたときは、これらによって生じた損害を賠償する責任を負うとされています(民事執行法147条)。
 
この規定は不法行為上の当然の理を定めたものと解されるので、第三者からの情報取得手続においても、金融機関が、債務者の利益を図る目的で、執行裁判所に対し回答をせず、又は虚偽の回答をするなどした結果、債権者が債務者の財産に対する強制執行をする機会を失い、それにより債権者に損害が発生した場合には、不法行為に基づく損害賠償責任を負う可能性はあります。
 
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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