2020.05.12

新型コロナウイルス感染症に関連した労務トラブルQ&A

弁護士 与能本 雄也
 

1. 新型コロナウイルスに関連した自宅待機における賃金支払について

Q. 新型コロナウイルスに関連して従業員を自宅待機させた場合、賃金を支払わなくてはならないでしょうか。
 
A. 労働基準法上、「使用者の責めにきすべき事由」による休業の場合、使用者は、休業期間中の手当(平均賃金100分の60以上)を支払わなくてはならないとされておりますが(労基法26条)、不可抗力による休業の場合は、「使用者の責に帰すべき事由」に当たらず、使用者に休業手当の支払義務はありません。
そして、不可抗力による休業の場合といえるためには、①その原因が事業の外部より発生した事故であること、及び②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であることの2つの要件を満たす必要があると解されています。
具体的には、以下のケースに分類して考えられます。
 
a. 感染した者が休業する場合
厚生労働省は、「新型コロナウイルスに感染しており、都道府県知事が行う就業制限により労働者が休業する場合は、一般的には「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当しないと考えられますので、休業手当を支払う必要はありません。」との見解を示しています(厚生労働省Q&A問2)。
但し、熱の出ている従業員を会社の命令で出社させたことにより、感染してしまった他の従業員に関する休業の場合や、会社の命令で取引先と面会し、そこから感染したような場合にまで、休業手当が不要と言い切れるかは疑問です。個別の事案ごとに、不可抗力といえるかを検討しましょう。
なお、被用者保険に加入されている方であれば、要件を満たせば、各保険者から傷病手当金が支給されます。
 
b. 感染が疑われる者を休業させる場合
厚生労働省Q&Aでは、「労働者が自主的に休まれる場合は、通常の病欠と同様に取り扱」い、他方「例えば発熱などの症状があることのみをもって一律に労働者に休んでいただく措置をとる場合のように、使用者の自主的な判断で休業させる場合は、一般的には「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当てはまり、休業手当を支払う必要があります。」とされています(厚生労働省Q&A問4)。
厚労省Q&A例示のように一律に判断をするのではなく、在宅勤務(テレワーク)などの方法により労働者を業務に従事させることが可能な場合などは、これを十分に検討し、休業の回避について通常使用者として行うべき最善の努力を尽くす必要があります。
休業させる場合において、休業の回避について通常使用者として行うべき最善の努力を尽くしていないと認められた場合には、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当し、休業手当の支払が必要となります。
なお、事業所内に新型コロナウイルスの感染者が発生し、感染拡大防止の観点から、事業主が自主的に休業等を行った場合、「感染者以外の者」の休業手当は、雇用調整助成金の対象となり得ますので、ご検討ください(雇用調整助成金FAQ問6、なお感染者本人は健康保険制度における傷病手当の対象となり得ます。)。
・厚労省ホームページ(雇用調整助成金)
 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/pageL07.html
・雇用調整助成金FAQ
 https://www.mhlw.go.jp/content/000625730.pdf
 
c. 特別措置法に基づく緊急事態宣言や要請・指示を受けて事業を休止する場合
厚生労働省は、「新型インフルエンザ等対策特別措置法による対応が取られる中で、協力依頼や要請などを受けて営業を自粛し、労働者を休業させる場合であっても、一律に労働基準法に基づく休業手当の支払義務がなくなるものではありません。」との見解を示しています(厚労省Q&A問7)。
また、上述の不可抗力の要件「②事業主が通常の経営者としての最大の注意を尽くしてもなお避けることができない事故である」の判断事情として、
「・自宅勤務などの方法により労働者を業務に従事させることが可能な場合において、これを十分に検討しているか・労働者に他に就かせることができる業務があるにもかかわらず休業させていないかといった事情」を挙げています(厚労省Q&A問7)。
協力依頼や要請などを受けて営業を自粛し、労働者を休業させる場合であっても、休業手当の支払が必要となる場合があることにつき注意が必要です。
このような場合においても、在宅勤務(テレワーク等)が可能か否か、又は在宅が困難な業務であっても、他の業務に就かせることが可能か否か等を十分に検討することが重要です。
それでも休業をさせる場合は、労働基準法上の休業手当の要否にかかわらず、経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主に対しては、雇用調整助成金が、事業主が支払った休業手当の額に応じて支払われます。ご検討ください。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/pageL07.html
 
d. 特別措置法に基づく緊急事態宣言や要請・指示を受けず、自主的に事業を休止する場合
厚生労働省は、新型コロナウイルス感染症によって、事業の休止などを余儀なくされ、やむを得ず休業とする場合について「休業手当の支払いについて、不可抗力による休業の場合は、使用者に休業手当の支払義務はありません。具体的には、例えば、海外の取引先が新型コロナウイルス感染症を受け事業を休止したことに伴う事業の休止である場合には、当該取引先への依存の程度、他の代替手段の可能性、事業休止からの期間、使用者としての休業回避のための具体的努力等を総合的に勘案し、判断する必要があると考えられます。」との見解を示しています(厚生労働省Q&A問5)。
もっとも、例えば、単に納入している取引先が新型コロナにより休止したような場合で、当該会社への依存度が低いような場合は、「使用者の責めに帰すべき事由」による休業として、休業手当が必要となる場合も考えられますので(参照厚生労働省東日本大震災Q&A1-5)、十分に休業回避のための検討をすることが求められます。
なお、休業手当を支払う場合は、雇用調整助成金の要件を満たす場合、これを受けることができますので、ご検討ください。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/pageL07.html
 

2. コロナに伴う有給取得と、使用者の時季変更権について

Q. コロナに伴い従業員に有給を取得させることを検討していますが、これは可能でしょうか。
 
A. 年次有給休暇は、原則として労働者の請求する時季に与えなければならないとされております(労基法39条5項)。そのため、使用者が一方的に取得させることはできません。
なお、使用者は、労働者が年次有給休暇を取得したことを理由として、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならないことにご留意ください(労基法附則136条)。なお、同条違反に罰則はありません。

3. 有給の特別休暇制度

Q. 新型コロナウイルスに関連して、労働者が安心して休めるよう、有給の特別休暇制度を設けたいと考えています。
 
A.労使の話し合いによって、事業場で有給の特別休暇制度を設けることができます。その場合には、労働者が安心して休めるよう、就業規則に定めるなどにより、労働者に周知していただくことが重要です。
(参考文例)
「第 条(病気休暇)労働者が私的な負傷又は疾病のため療養する必要があり、その勤務しないことがやむを得ないと認められる場合に、病気休暇を日与える。第 条(休暇等の賃金)病気休暇等のための休暇の期間は、(無給 /基本給の○○%を支払う/通常の賃金を支払うこと)とする。」
厚労省モデル就業規則参照
https://www.mhlw.go.jp/content/000496455.pdf

4. 小学校等の臨時休業に伴う保護者の休暇取得支援制度について

Q. 従業員の子供の通学している小学校が臨時休業したことで、休暇制度を考えております。国の補助等はありますか。
 
A. 臨時休業した小学校や特別支援学校、幼稚園、保育所、認定こども園などに通う子どもを世話するために、2月27日~6月30日の間に従業員(正規・非正規を問わず)に、使用者が有給の休暇(法定の年次有給休暇を除く)を取得させた場合、休暇中に支払った賃金の全額(1日8,330円が上限)を助成する制度があります。以下の厚労省のホームページをご参照ください。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/pageL07_00002.html

5. 休暇制度

Q. 育休から復帰予定(現在育休中)の従業員から、新型コロナを理由として保育所から登園を控えるよう要請があったことから、育休を延長できないかと問われました。育休の延長について、どう取り扱えばよいでしょうか。
 
A. 育児休業は、原則として、1歳に満たない子を養育する男女労働者が取得することができます(育児介護法5条1項、9条1項、なおパパママ育休プラスは1歳2ヶ月まで)。
もっとも、例外として、雇用の継続のために特に必要と認められる場合、1歳6ヶ月(再延長で2歳)まで育児休業を延長することができます(育児介護法5条3項)。
令和2年3月26日、厚労省通達により、延長できるケースにつき、暫定的な取扱いとして、「保育所等の内定を受けている場合又は保育所等へ子を入所させている場合であって、新型コロナウイルス感染症の拡大防止の観点から、子が1歳に達する日の翌日において保育所等が臨時休園となっている場合又は市町村若しくは保育所等から登園を控える旨要請がなされている場合」も該当する旨示されました。
したがって、上記場合において、従業員から育休延長の申出があった場合、使用者は、これを拒むことはできません(育児介護法第6条1項)。
なお、上記育休の延長期間は、育児休業給付金が支払われます(厚生労働省Q&A問6)。
・参照厚労省通達(令和2年3月26日)
「新型コロナウイルス感染症に関する対応に伴う「育児休業、介護休業等育児又は家 族介護を行う労働者の福祉に関する法律の施行について」の一部改正について」
https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T200330M0060.pdf

6. 派遣労働者について

Q. 派遣労働者やパートタイム労働者について、休業手当や有給休暇の取り扱いはどうすればよいですか。また注意点等はありますか。
 
A. パートタイム労働者、派遣労働者、有期契約労働者など、多様な働き方で働く方であっても、労働基準法上の労働者であれば、休業手当の支払いや年次有給休暇付与が必要となっております。
また注意点としては、法定外の休暇制度や手当を設ける場合において、非正規雇用であることのみを理由に、一律に対象から除外することは、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保を目指して改正されたパートタイム・有期雇用労働法及び労働者派遣法の規定に違反する可能性があります。

7. 健康保険法等における傷病手当金について

Q. 新型コロナウイルスに感染した場合、傷病手当金は支給されますか。
 
A. 被用者保険に加入されている方であれば、要件を満たせば、各保険者から傷病手当金が支給されます。
具体的には、療養のために労務に服することができなくなった日から起算して3日を経過した日から、直近12ヶ月の平均の標準報酬日額の3分の2について、傷病手当金により補償されます。
具体的な申請手続き等の詳細については、加入する保険者にご確認ください。

8. 新型コロナウイルス感染と労災補償について

Q. 新型コロナウイルスに感染をした場合、労災補償の対象になりますか。
 
A. 感染が、業務又は通勤に起因して発症したものであると認められる場合には、労災保険給付の対象となります。
【参照】
・厚生労働省ホームページQ&A
 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html#Q4-16
・雇用調整助成金
 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/index.html
 
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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