【執筆:岩元雄哉】

目次

1 はじめに

2 不動産取引におけるクレームの種類

3 クレームの発生しやすい類型

4 クレームを発生させないためにすべきこと

 

1 はじめに

不動産取引は、それが売買契約であれば、日常的な契約に比して金額が非常に高額となり、一般のエンドユーザーにとっては一生の中でも何度もない規模の契約になりますし、事業者にとっても会社の業績を大きく左右する契約になりえます。また、それが賃貸借契約であっても、日々の生活環境に直結する点で極めて重要な契約です。

このように、不動産取引は、契約当事者にとって非常に大きな利害を生じる契約であるために、対象不動産に自分が考えていた内容と異なる点があった場合などには、クレームに発展することも少なくありません。

 

2 不動産取引におけるクレームの種類

いざ不動産取引に関係するクレームが発生した場合、まずはクレームに関連する事実関係の把握が重要になります。

正確な事実関係を把握したうえで、そのクレームがどのような種類のものであるのか、切り分けて考えることが有益です。クレームの種類としては、例えば以下のような分類が考えられます。

① 不当要求に類するクレーム

② 法的問題とまではいかなくとも自社にも落ち度のあるクレーム

  (例えば、連絡が取れない、対応が遅い、要望を理解してくれない等)

③ 法的検討要素を含むクレーム

これらのうち、不当要求に類するクレームに対して初動で曖昧な対応をしてしまうと、ますます要求がエスカレートすることもありますから、毅然とした対応が必要です。逆に法的検討要素を含むクレームに対して真摯さを欠く対応をしてしまえば、訴訟等のより大きな紛争に発展するリスクを抱えることになります。

法的問題ではなくとも自社に落ち度のあるようなクレームに対しても、早急に連絡をとって事実関係を確認し、対応を改めればそれ以上の大きな問題には発展しないことも少なくありません。

このように、クレームの発生に対しては、初動での事実確認と、早期の適切な対応が極めて重要です。そのクレームがもつ法的リスクが判断しにくいときには、早期に弁護士等の専門家にご相談いただくこともクレームの拡大を防止するために大いに有効ですのでご検討ください。

 

3 クレームの発生しやすい類型

次に、不動産取引において、法的検討要素を含むクレームが、どのような場面で発生しているかを見てみましょう。

【売買契約でクレームが発生しやすい問題】

・建物建築計画に影響する越境や地中埋設物・土壌汚染の問題

・建物の不具合の問題

・心理的瑕疵(自殺や死亡事件等)や環境的瑕疵(日照・眺望・騒音等)の問題

・手付解除やローン特約の問題

【賃貸借契約でクレームが発生しやすい問題】

・原状回復に関する問題

・定期賃貸借契約の再契約に関する問題

・賃料増減額の問題

などが挙げられます。

問題になりうる事項は、代表的なものだけでも上記のように多岐にわたります。これらは契約当事者にとって重視されることの多いポイントであるからこそクレームにもなりやすいと考えることができますので、契約時に各顧客のニーズをよく把握し、対応する事項に関する説明を十分に行うことが重要です。

 

4 クレームを発生させないためにすべきこと

注意を払っていたとしてもクレームが発生することはあり、そのような場合のクレームは契約時の重要事項説明で十分な説明を受けていない、書類にも記載がないなどという形で表面化するケースも多く見られます。この場合、表面的には単に契約書や重要事項説明書の不備がクレームの原因になっているようにも思えます。しかし、より本質的には、顧客のニーズを十分に把握せず、定型的な契約を急いでしまうような社内の雰囲気が原因となっている可能性も否定できません。

 

⑴ 社内の仕組みの見直し

例えば、不動産の売買契約において、営業担当者にとって、売上が上がれば歩合で賞与が支払われ、売上目標未達であれば叱責を受ける一方、クレーム発生の有無は特に評価に影響しない体制であるケースを想定すると、営業担当者には、クレーム予防のために顧客のニーズを注意深く把握し、丁寧な説明をするインセンティブは働きません。

むしろ、このような体制では、顧客の言うことは話半分で契約を急ぎ、多くの売上を上げさえすればよいとの意識になりかねません。

実際には、クレームが訴訟等に発展し紛争が拡大すれば、問題解決までには年単位の時間とコストがかかることも稀ではなく、会社の評判への悪影響などを含め多大なリスクが発生しますから、売上を上げることと同様に、クレームを発生させないことも評価される体制が望ましいといえます。

 

⑵ クレーム情報の共有

また、いざクレームが発生した際にクレームの発生自体を隠し、担当者が一人で抱え込む風土になっていないかにも注意する必要があります。

クレームの発生に対しては、その内容を全社で共有し、再発防止のために活かすことが有効です。クレームの発生について単に個人を責めるのではなく、会社として組織的に対応し、会社全体が成長するきっかけにできれば、将来的なリスクを大きく軽減することができます。

このような観点から、社員が売上にインセンティブをもちつつも、無茶な行動には歯止めがかかるような社内体制の整備が求められます。

 

⑶ 弁護士の活用

とはいえ、クレームの発生を根絶することはなかなか困難です。クレームに対して判断に迷う場合には早期に弁護士等の専門家にご相談ください。

クレームを抱え続けているという状況は、それ自体心理的負担となり、個々人の生産性を著しく落とす可能性がありますから、早期に指針を定めることが非常に重要です。

早期に弁護士に相談することで

① 事案に対して早期に法的見通しをつける

② クレーム対応の窓口を変え、心理的安全性を保つ

③ 再発防止、クレーム減少のための社内体制構築をサポートできる

等のメリットがあります。

クレーム予防の観点からも、発生後の早期対応のためにも、是非お気軽にご相談ください。

 

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