執筆:長谷川周吾(弁護士)

 

目次

1. はじめに

2. 土地の売買

3. 建物(一軒家)の売買

4. マンションの売買

 

1. はじめに

不動産取引を行うにあたっては、様々な契約書、合意文書が作成されますが、本稿では、不動産の売買契約書を取り交わす際の注意事項について言及します。

 

不動産売買契約書のひな形としては、公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会が発行している契約書書式があります。このひな形では、契約書で盛り込むべき条項が網羅されておりますので、個別の取引における事情を「特約事項」として記載して、契約書として完成させるケースが多いでしょう。

そのため、本稿ではとりわけ、「不動産の売買契約書における特約事項」を記載する際の注意事項を、ケースごとに整理したいと思います。

 

2. 土地の売買

更地を売買する場合においては、土地の面積や、境界が明示されていることが相対的に重要な項目になります。

土地の面積は登記簿上に記載がありますが、必ずしも現況と一致しているわけではなく、「実際に図ったら土地の面積が違った」ということが往々にしてあり得ます。そのため、契約書を作成するにあたっては、登記簿上の面積を基準にする「公簿売買」にするのか、実測した面積を基準にする「実測売買」にするのか検討を要します。そして、実測売買で進める場合には、例えば、「登記簿上の面積と、〇〇㎡以上の差があった場合は、1㎡あたりを△△円と計算して売買代金を増減する」という内容の文言を付加することになります。

 

また、土地の売買においては、決済日までに売主の責任において、隣地所有者との間で境界確認書を取り交わし、境界を明確にすることが一般的です。ただし、土地の境界線がどこであるのか、隣地所有者との間で認識が異なっている可能性もあり、交渉に時間を要することもあります。そのため、決済日までに境界確認書を取得できない場合、直ちに契約を解除することができるのか、決済日の延長を申し入れることができるのか、事前に当事者間で協議して契約書に盛り込む必要があると言えます。

 

3. 建物(一軒家)の売買

新築物件を売買する場合は、壁紙に傷や汚れがあったり、雨漏りが生じていたり、排水管等の設備に何らかの欠陥があった場合、法的には「契約不適合」と評価されますので、売主は目的物の修補等を行う義務があります。

これに対し、中古物件を売買し、築年数が相当程度経っているような場合であれば、契約当事者は、「ある程度の老朽化があることは仕方がない」という認識の下に、売買代金を合意することがあります。ただし、中古物件の場合にも、売主は契約不適合責任を原則として負いますので注意が必要です。

そのため、契約当事者が「どのような品質を想定して売買したのか」について、契約書で可能な限り具体的に記載することが望ましいと言えます。弁護士に相談される方の中には、中古物件を購入したが、「思っていた品質と異なっていた」と述べられる方がいます。しかし、そのような買主の認識が契約書で明記されていなければ、トラブルが発生した後に有利に話を進めることができません。

また、売主が負う「契約不適合責任」の中身を契約書で具体的に記載することは、売主の立場では、自らが責任を負う範囲を具体化し、紛争を防止する効果があります。

なお、土地建物を購入した後に、買主において建物を解体し、新しく建物を建てるケースもあります。このような場合、建物にアスベストが含有されているか否かにより、解体費用は大きく変動しますので、売買契約書を締結する前にアスベスト検査を実施し、その結果を契約書に盛り込んでおくことが重要であると言えます。

 

4. マンションの売買

マンションでは、建物全体の資産価値を維持するために、修繕積立金や管理費を管理組合に納める必要があります。

 

買主側においてまず注意するべきなのは、売主が修繕積立金の支払いを滞納していないかどうかです。売主が過去に修繕積立金を滞納していた場合、買主としては、「過去のことだし、それは売主が管理組合に支払えばよく、自分は関係ない。」と考えるかもしれません。

しかしながら、区分所有法第8条では、管理組合は過去の修繕積立金の滞納分について、その部屋の特定承継人である買主に請求することができると定めています。そのため、買主は事情を知らなかったとしても、管理組合から支払いを求められた場合、消滅時効などの主張が認められない限り、拒否することができません。

 

なお、管理組合との関係で過去の滞納分を支払った買主は、売主に対してその責任を追及することが可能ですが、もとより修繕積立金を滞納するような売主ですので、資力がない場合も少なくなく、訴訟を提起して勝訴判決を得ることができても、現実にお金を回収することができないケースがあります。

そのため、修繕積立金の滞納がないかどうかは、あらかじめ事実関係を確認することが重要であり、そのことを契約書に盛り込むことも有効です。また、修繕積立金の金額は、修繕計画との関係で金額が変動することがありますので、売買の際は、建物全体の修繕履歴や今後の修繕計画も確認しておくことが望ましいと言えます。

 

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