執筆:山口 大介(弁護士)

 

1 はじめに

2 債権回収の方法

3 おわりに

 

1 はじめに

債権回収は、事業を円滑に運営するために、避けては通れないものです。不動産仲介業においてもそれは同じです。では、具体的に債権回収の手続きはどのように進めていくものなのでしょうか。

本稿では、債権回収の方法について基本的な事項を解説していきます。

 

債権回収が必要となる場面として、不動産の賃貸・売買の仲介において、仲介手数料を支払ってもらえない場合が考えられます。

2 債権回収の方法

債権回収の方法には以下のようにいくつかあります。

 

(1)内容証明郵便での働きかけ(督促)

この方法は、債権回収の手続きの中で、必ず行う手続きといっていいでしょう。

内容証明郵便とは、差出日時や差出人、受取人、内容について、郵便局が証明する郵便物です。内容証明郵便を利用して督促することで、こちらが本気であるというメッセージを発することができます。

そのため、当初は交渉に応じない相手であっても、内容証明郵便での督促を行うことで、交渉を開始してもらえる場合があります。

 

(2)相手方との面談や電話での交渉

この方法は、相手方が交渉に応じない場合には使えませんが、もっとも迅速で費用をかけずに解決が期待できる手続きといえます。

最初の面談から弁護士が入ると相手が警戒することもあるため、多くの場合、最初の面談では当事者(本人・担当者)が交渉を担当することになります。

しかし、交渉に応じないような場合や感情的な対立が起きている場合には、弁護士に依頼して働きかけをしてもらう方法もあります。

弁護士が交渉する場合には、一般的に面談の前に先行して先述した内容証明郵便での働きかけを行うことが多いです。

以上の2つが法的な手続きを踏まない債権回収の方法です。

内容証明郵便を用いて、相手と面談を行った結果、相手から支払猶予(延期)の申出をされることがあります。支払猶予に応じるか否かは、各々の判断に委ねられますが、判断材料として一番大事なのは相手の資力の有無によるでしょう。

したがって、相手との交渉の際には、1回の交渉場面で結論を出さず、相手の情報や条件をできる限り多く出させることが肝要です。

 

(3)支払督促

支払督促とは、簡易裁判所によって債務者に対して支払いの督促をしてもらう手続きです。相手の異議の申立てがない限り、書面のみの審査というメリットがあります。

この手続きでは、強制執行を行うために必要となる「仮執行宣言付支払督促」という債務名義を得て、強制執行の手続きを進めることができます。

しかし、相手が支払督促に異議を申し立てた場合には、通常訴訟に移行するため、債務の内容や金額に争いがある場合には適していません。

また、この手続きは書面審理であるため、話し合いによる和解の解決は困難です。

 

(4)少額訴訟

60万円以下の金銭支払を求める場合は、簡易裁判所で少額訴訟を行うことができます。少額訴訟は原則として1回の期日で終了し、即日判決を言い渡します。そのため、迅速な解決が図れる可能性が高いのがメリットです。

しかし、相手が通常訴訟を求めた場合には通常訴訟に移行すること、証拠は即時に取り調べることができるものに限られることから、争いがあるものや内容が複雑な案件には適していません。

 

(5)通常訴訟

交渉で支払を受けることができない場合は、通常訴訟を提起することも視野に入れることになります。他の手続きに比べ、通常訴訟は解決までに時間がかかる傾向があります。もっとも、訴訟の中で互いに条件を出し、裁判上の和解を成立させることも可能です。

 

(6)強制執行

強制執行は、法的手続きで勝訴判決や和解調書といった債務名義を得たにもかかわらず相手が支払いに応じない場合、債権者の申立てにより、裁判所が相手の財産を差し押さえ、その財産から債権を回収する手続きです。

 

強制執行には、差押等を行う対象財産が何かによって種類があります。

  •  不動産強制競売

不動産強制競売は、執行裁判所が債務者の不動産を売却し、その代金をもって債権の回収を行う手続きです。

  •  動産執行

動産執行は、執行官が債務者の占有する動産を差し押さえ、そこから得た売却代金をもって債権の回収を行う手続きです。

  •  債権執行

債権執行は、債務者の第三債務者(債務者を債権者として見たときの債務者)に対する債権を差し押さえ、これを換価して、債権の回収を行う手続きです。

 

注意点として、どの財産に対する強制執行であっても、差押えの対象とする財産は自分で探さなければなりません。また、財産が見つかったとしてもその価値が低い場合等は費用倒れの可能性があります。

財産調査の方法として、例えば、不動産は、登記によって世間一般に対して所有者が公示されています。したがって、債務者が所有していると予想される不動産の地番や家屋番号が判明していれば、法務局またはオンラインシステムにより、債務者がその不動産を所有しているのかを調査できます。

また、裁判所による「財産開示手続」や「第三者からの情報取得制度」といった制度を利用することで、債務者の財産を調査する方法もあります。

 

3 おわりに

以上、債権回収の方法について説明してきました。債権回収にはいくつかの方法があるため、相手の態度によって選択すべき手段を検討する必要があります。それぞれの手続きの特徴を踏まえて、適切で実効的な債権回収を行いましょう。

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