【執筆:脇田祐太】
目次
1. はじめに
不動産業界は、外回りの営業が多かったり、繁忙期と閑散期とで労働時間の変動が激しかったりといった特殊性のある業界です。そのため、会社側としては、法律を正確に把握した上で、労働者の働き方に則した制度を構築するなどの適切な労務管理を心掛ける必要があります。
2. 労働時間の枠組み
(1)業務の繁閑が少ない会社
労働基準法は、労働者の労働時間を厳しく制限しており、① 一日8時間以内、②1週40時間以内、③ 一定の要件のもと行わせることのできる時間外労働(月45時間、年360時間以内が原則)や休日労働には手当が必要といった原則が定められています。
この原則を守る必要があります。
*参考
土曜日を半日勤務にする所謂「半ドン」という方法もあります。
ただし、①一日8時間、②1週40時間という制限は当然かかってくるので、平日の労働時間には注意が必要です。
(2)業務の繁閑が多い会社
時期によって業務にかかる時間が大きく変動する場合には、柔軟な労働時間制度の採用が有用であり、ここで注目されるのが「変形労働時間制」です。
一定の単位期間(月・年)において、その期間中の1週間の平均労働時間が(原則)40時間以内であれば、日・週の法定労働時間を超えてもよいという制度です。
この制度の導入により、所定労働時間を繁忙期には長く、閑散期には短くするよう調整することが可能となります。
月初めや月末、特定週が忙しければ「月単位の変形労働時間制」が、特定の季節が忙しければ「年単位の変形労働時間制」が推奨されます。
(3)最も自由な労働時間制度
「フレックスタイム制」は、各日の始業・終業時間を労働者に委ねる代わり、法定労働時間を超えても時間外労働とはならないという制度です。
ただし、労使協定により定められた清算期間と呼ばれる一定の期間(3ヶ月以内)内の労働時間(週あたりの平均が40時間未満)を超える場合には、時間外労働として扱われ、割増賃金が発生することに注意が必要です。
勤怠管理や社内/社外のスケジュール調整が複雑にはなりますが、人によっては最も魅力的な制度であり、特に育児や介護といった事情がある人には大変好まれます。
(4)導入の手順
まずは、仕事の実態と労働者の労働時間を正確に把内容握する必要があります(育児や介護を行っている人がいないかのヒアリングも大切です)。
その上で、採用する制度とその対象者を個々に定めていきます。
なお、制度によっては、労使協定の締結や就業規則の整備、労基署への届け出、従業員への周知といった手続が必要となります。
3. 労働時間の管理
(1)事業場外労働のみなし制
営業などの外回りをする労働者は、その間、会社にいないことになるので、労働時間の管理が困難となります。
そのような場合に適用し得るのが「事業場外労働のみなし制」です。
事業場外(=会社の外)での労働時間を8時間とみなすと定められると、実際の労働時間がそれより長くても短くても、8時間労働と扱われます。
(2)種類
①所定労働時間によるみなし
就業規則等で定められた始業時刻から終業時刻までの時間から休憩時間を除いた時間のことで、労働義務のある時間をみなし労働時間とします。
②通常必要時間によるみなし
通常、所定労働時間を超えて労働することが必要である場合には、労使協定により必要と思われる時間を定めることができます。
(3)要件
「事業場外での労働時間の算定が困難であること」が要件となります。
そのため、一般的な外回りの営業や出張には適用されますが、訪問先と帰社時間等の具体的な指示を受けて実際に遂行した場合や、労働時間を管理する者が同伴している場合など、事業外であっても事実上の管理下に置かれており、労働時間の管理が容易である場合には適用されません。
(4)注意点
通常10時間かかる仕事を与えながら、所定労働時間を8時間と設定すると、残業代の規制をかいくぐることができてしまいます。
そのため、法は、業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては、その通常必要とされる時間労働したものとみなすと定めており、残業代が発生する仕組みを構築しています。
また、そもそも本当に要件を満たしているのか(=労働時間の算定が困難であるのか)にも注意が必要で、満たしていないにもかかわらずこの制度を採用していると、後に実際の労働時間に基づいた残業代の請求をされることがあります。
このようにトラブルのもとになり得るので、事業場外みなし労働制の導入・所定労働時間の設定は正確に行いましょう。
4. パワハラ
個々の労働者の実績を重視する業界においては、パワハラの話題を避けては通れ
ないのが現実です。
パワハラの直接の原因は、会社そのものではなく、加害者にあるとは思いますが、パワハラを防止し、万が一起きてしまった場合に適切に対処するのは会社の重要な義務であり、これを怠れば会社にも損害賠償責任が生じます。
労働者を守り、ひいては会社の信用を維持するためにも、ハラスメントについての講習の実施や社内の相談・通報窓口の設置といった措置を積極的に講じていく必要があります。
5. さいごに
適切な労務管理は、労働者の満足に繋がり、それによるパフォーマンスの向上から会社の発展にもつながる非常に重要な事項です。
そのため、定期的な見直しが大切ですが、制度の悪用から労働者を守るべく、法律上のルールが多く、導入には手間がかかります。
労務管理についてご不明な点等がございましたら、当事務所まで一度ご相談にいらしてください。