2023.04.24

不当な寄附勧誘を防止する新しい法律とは?

弁護士 松村 武志
 

第1 はじめに(法律の制定背景)

近年、霊感商法等の不当な勧誘によって高額な寄附をせまられ、家庭が困窮したり崩壊したりする事例が相次いで報告され、特に高齢者は、一般に肉体的・体力的な衰えが進むだけでなく、加齢に伴い知力や判断力も低下し、健康不安や将来への生活不安をあおられるなどして高額な寄附をしたり商品を購入してしまう事例が、今後ますます増加することが強く懸念されていました。
そこで、こうした不当な寄附勧誘を未然に防止し、被害の救済、再発防止を図るため、令和4年(2022年)末の臨時国会において「法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律(不当寄附勧誘防止法)」が成立し、令和5年(2023年)1月5日 から段階的に施行されています。(全面施行は令和5年(2023年)6月1日。)
不当寄附勧誘防止法は、寄附の勧誘を受ける個人の保護を図る「寄附勧誘を行う法人等への規制等」「不当な勧誘により寄附した人やその家族の救済」の2つを軸に構成されています。
以下では、まずはじめに、「寄附勧誘を行う法人等への規制等」「不当な勧誘により寄附した人やその家族の救済」の具体的内容について触れ、その上で、問題となる典型的事例を取り上げ、どのように法律が適用されるか、より具体的なイメージを持てるよう解説したいと思います。

第2 寄附勧誘を行う法人等への規制等

1. 寄附の勧誘を行う法人等に求める「配慮義務」(不当寄附勧誘防止法第3条)

契約による寄附に加え、契約ではない寄附(単独行為)も対象として、寄附の勧誘を行う法人等に対して、寄附の勧誘を行うに当たって、次の①~③について「十分に配慮」しなければならないと定められています。

① 寄附者の自由な意思を抑圧し、適切な判断が難しい状況に陥ることがないようにする。
② 寄附者やその配偶者・親族の生活の維持を困難にしないようにする。
③ 勧誘する法人等を明らかにし、寄附される財産の使途を誤認させるおそれがないようにする。

なお、規制対象となる「寄附勧誘を行う法人等」は、規制逃れを防止するため、法人のみならず、より広く法人でない社団若しくは財団で代表者若しくは管理人の定めがあるものも含まれており、法律の実効性が確保されています。

2. 6つの「不当な寄附勧誘行為」が禁止(不当寄附勧誘防止法第4条)

寄附の勧誘に際し、以下の不当な勧誘行為で寄附者を困惑させてはいけません。

① 不退去
② 退去妨害
③ 勧誘をすることを告げず退去困難な場所へ同行(令和5年6月1日施行予定)
④ 威迫する言動を交え相談の連絡を妨害(令和5年6月1日施行予定)
⑤ 感情等に乗じ関係の破綻を告知
⑥ 霊感等による知見を用いた告知

3. 借入れ等による資金調達の要求の禁止(不当寄附勧誘防止法第5条)

本人やその配偶者や親族が現に居住する建物や、本人およびその家族の生活維持に欠くことができない事業用資産を処分することにより、寄附をするための資金の調達を要求することが禁止されました(公布日(令和4年12月16日)から1年以内に施行予定)。

4. 違反に対する行政措置・罰則(不当寄附勧誘防止法第7条、第16条、第17条)

寄附の勧誘に関する規制に違反した場合について、行政上の措置や罰則が定められました(公布日(令和4年12月16日)から1年以内に施行予定)。

第3 不当な勧誘により寄附した人やその家族の救済

1. 不当な勧誘により困惑して寄附の意思表示をした場合の取消し(不当寄附勧誘防止法第8条)

不当な勧誘により寄附の意思表示がされた場合、消費者契約法上の取消権による救済が困難な事案もあることから、寄附の意思表示の取消しの規定が定められました。

2. 取消権の行使期間(不当寄附勧誘防止法第9条)

正常な判断を行うことができない状態から抜け出すためには相当程度の時間を要する場合があることから、一定の場合について、長期の取消権の行使期間について、10年と定められました。

3. 扶養義務等に係る定期金債権を保全するための債権者代位権の行使に関する特例(不当寄附勧誘防止法第10条)

扶養義務等に係る定期金債権(婚姻費用、養育費等)を有している家族は、本人の寄附の取消権等について、将来債権を保全するために債権者代位権を行使することができるようになりました。
より具体的には、次の事例問題をご参照ください。

第4 不当寄附勧誘防止法第10条の適用場面の具体例

消費者庁:「法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律・逐条解説」(pdf) ※事例一部改題

【事例】
父Aと母Bは離婚しており、両者の間に子Cがいる。
子Cの親権者である母Bは、父Aに対し、子Cについて毎月12万円の養育費に係る債権を有している。
同債権のうち既に弁済期が到来したものが10箇月分(120万円)、弁済期が到来していない終期までのものは80か月分(計960万円)である。
父Aは、不当な勧誘によって法人Dに8,000万円の寄附をしたことがあり、その取消権を有している 。

Q1 母Bは、養育費を確保するため、どのような法的な手段をとることができるか

まず、母Bは、弁済期既到来分の120万円については、民法第423条の3に基づき、自己に120万円の支払を求めることができます。
また、弁済期未到来分の960万円については、第10条第2項後段により、法人等に対し供託を求め、法人等が供託をしたときは、父Aが取得する還付請求権に対し、強制執行を行い、養育費を確保することが可能です。
なお、父Aが、還付を受けて再度寄附するおそれがあるなど、強制執行をすることができなくなるおそれがあるときは、期限未到来の養育費債権を保全するため、還付請求権に対する仮差押えをすることが考えられます(民事執行保全法第20条2項)。

Q2 母Bも信者で、適切な権利行使を期待できない場合、どうしたらよいか

母Bも信者である場合など親権者による適切な権利の行使が期待できない場合には、家庭裁判所に対し、親権の停止等の請求及び未成年後見人の選任を申し立てることにより、未成年後見が開始し、未成年後見人が、子に代わって、その権利を適切に行使することが想定されます。
もっとも、未成年者が自ら訴訟等の法的手続を行うことが実際上困難な場合が多いと思われます。
そのような場合には、不当寄附勧誘防止法第11条を受けて、整備が進んでいる日本司法支援センター(法テラス)と関係機関及び関係団体等が連携した相談対応の利用や、民事法律扶助や日本弁護士連合会からの委託による「子どもに対する法律援助」の利用を検討するのがよいでしょう。
 
【参照】
消費者庁:「法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律」
政府広報オンライン:「不当な寄附勧誘行為は禁止!霊感商法等の悪質な勧誘による寄附や契約は取り消せます」
 
 
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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