2022.05.23

「夫名義の不動産を仮差押えしたい…けど担保金のお金がない」~離婚前の財産保全~

不動産の名義が夫だけになっていると、離婚が成立する前に、夫が勝手に不動産を売却してしまうおそれがあります。そして夫がその売却代金を浪費・隠匿してしまうと、その後に財産分与する際に手元に現預金がなくて困ってしまうことになります。本稿ではこういったご不安をお持ちの方を念頭に、「離婚前の財産保全」について解説します。
 

事例

  • ● 専業主婦の女性からの依頼
  • ● 夫からの暴言暴力に耐えかねて子どもを連れて出て別居開始
  • ● 夫は自宅のほかにも不動産を2つ保有
  • ● 妻としては夫が不動産を売却してしまわないか不安

とるべき保全処分は何か?

夫婦の共有財産は財産分与によって分けることになります。たとえ登記に妻の名義が入っておらず夫の名義100%になっていたとしても、婚姻生活中に取得した財産であれば妻にも潜在的に持分があるとされ財産分与の対象となりえます。
 
そして財産分与は家庭裁判所において離婚と同時に審理されるのが通常ですが、一方で離婚の調停(審判)・訴訟をすると夫がその結論が出る前に登記上は自身のみの名義であることをいいことに不動産を処分してしまうことがあります。
 
こういった調停(審判)・訴訟の結論が出る前に財産を保全する手続のことを民事保全と言います。民事保全にはいくつか種類があるのですが、本件のような離婚前の民事保全の場合には「仮差押」と呼ばれる手続を利用することになります。なぜならば財産分与は金銭で支払えという形で命じられるのが原則なので、金銭債権を保全するための手段である仮差押こそが適切と考えられているからです。
 
この点、民事保全にはほかにも「(処分禁止の)仮処分」と呼ばれる手段もありますが、不動産の現物給付となるのは特別な場合でその疎明が困難なのであまり利用されません。また、家事事件手続法には「調停前の保全処分」(266条1項)「審判前の保全処分」(105条1項)といった特別の保全手続が用意されていますが、前者は執行力がなく後者は離婚前には使えないので本件で利用するのは適切ではありません。

管轄はどの裁判所にあるか?

一口に裁判所と言っても、一審二審といった審級や家事事件や知財事件といった事案に応じていくつか種類があります。
そして上記の仮差押えを申し立てる先の裁判所については、地方裁判所の保全部(東京で言えば民事9部)ではなく、本案たる離婚訴訟の管轄裁判所である家庭裁判所となりますのでご注意ください(人事訴訟法30条1項)。

お金がないなかで担保金をどうやって用意するか?

民事保全を利用するに際しては裁判所(法務局)に一定額の担保金を積まなければなりません。通常は裁判所で十分に審理してもらって判決を得てから初めて執行できるのに対し、民事保全は簡易な審理だけで判決をもらわずに処分禁止の効力を発生させてしまうので、もし民事保全が間違っていたときに相手方の損害を填補してやる必要があるからです。
 
担保金の金額は裁判所が決定しますが、一般的には保全の対象となる財産の評価額に対する割合に応じて決まることになります。裁判所の裁量次第ですが、離婚前の不動産の仮差押えの場合には、固定資産評価額からローンを控除してその10~20%といったところでしょうか。弁護士による交渉の腕の見せ所ですが、それでも不動産はそもそもの金額が高いのでその担保金も数百万~数千万円といった金額にのぼりえてしまいます。そして別居するのが精いっぱいで十分なお金がないという場合、この担保金を用意できないことを理由に仮差押の申立てを諦めてしまうというケースがあります。
 
しかし、こういった担保金を用意することが難しい方々に対しては、「支払保証」(ボンド)という手続が用意されています(民事保全規則第2条)。すなわち、利用者は損害保険会社等の金融機関に一定の保証料を支払う必要があるものの、民事保全が間違っていたときの損害の補填(つまり担保金に相当)は代わりに金融機関が支払ってくれるというものです。そうすると利用者は担保金丸ごとではなく保証料だけを支払えばいいので(担保金の2~6%程で数十万円で済むことも多いです)、民事保全の利用のハードルが下がります。
 
さらに、日本司法支援センター(通称:法テラス)を利用している場合には、この支払保証も援助してくれることになり、利用者は上記の保証料も支払わずに民事保全を利用することができます。法テラスにおいていくらの担保金までならば対応してくれるかは事案に応じてまちまちですが(この事案だったら150万円までしか出せない等)、本部決済が不要な200万円未満だと利用がしやすくなっています。
 
参照)

    事例の処理

    仮差押えの手続を選択し、東京家裁に申立てをすることにしました。複数の不動産を全て対象にするためにも、被保全債権には財産分与請求権だけでなく慰謝料請求権も追加してみました。
     
    担保金については、依頼者が法テラスを利用していたので法テラスによる支払保証を利用することにしました。途中、裁判官から担保金は200万円を予定していると示唆され一方法テラスからはそこまで援助できないと言われ悩みましたが、訂正申立をして目的物である不動産の評価額を減少させることで無事に担保金の金額を法テラスの援助可能額未満にすることができました。

    まとめ

    以上、離婚前の財産保全についてみてきましたが、いかがだったでしょうか。「不動産を処分されても代償金を請求できるからいいじゃないか」という意見もありますが、個人的には回収できないという不安を払拭するためにも離婚前の財産保全という手続がより使われて欲しいなという想いでいます。
    …世の中の離婚に一つとして同じ事案はなく、その離婚ごとに固有の問題があり、最適な解決方法も異なってきます。ご自身では諦めてしまった解決も、弁護士に相談すればたどり着ける場合もございますので、まずは弁護士にご相談ください。
     
     
    ※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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