2021.08.25

算定表が使えない高額所得者の婚姻費用ないし養育費について

1. 養育費・婚姻費用算定表の上限額を超える場合

東京および大阪の家庭裁判所に所属する裁判官を研究員とする司法研究が行われており、この司法研究を踏まえた養育費・婚姻費用算定表が作成されています。そして、実務的にはこの養育費・婚姻費用算定表をベースに養育費や婚姻費用が定められることが多いといえます。
しかしながら、この養育費・婚姻費用算定表は、給与所得者については2,000万円、自営業者は1,567万円を上限としているため、上限額を超える場合には婚姻費用ないし養育費の分担額は養育費・婚姻費用算定表からは明らかになりません。このような場合に当事務所に法律相談にいらっしゃる場合が多くあります。そこで、算定表が使えない高額所得者の婚姻費用ないし養育費の算定方法や離婚との関係についてお伝えしたいと思います。

2. 高額所得者の婚姻費用の分担額の算定方法について

養育費・婚姻費用算定表の上限額を超える高額所得者の婚姻費用の分担額の算定方法としては、以下のように分けることができます。

(1) 標準算定方式を用いて計算する方法

ア. 養育費ないし婚姻費用の算定において、基礎収入とは、総収入から公租公課、職業費及び特別経費を控除した額をいい、総収入に占める基礎収入の割合のことを割合といいます。(改定)標準算定方式とは、大まかに述べると、総収入に基礎収入割合を乗じて基礎収入を算出して、これを生活費指数で按分することで婚姻費用を算出する計算方法です。
そして、高額所得者においては、職業費及び特別経費の割合は低くなるものの、公租公課の割合が高くなることから、(総収入から控除される)公租公課、職業費及び特別経費全体としては高額所得者の方が高くなります。したがって、高額所得者の方が基礎収入の割合は低くなることになります。このように総収入に応じて基礎収入の割合を修正する方法があります。
 
イ. また、標準算定方式という考え方を用いることはアと同じですが、公租公課等について実額を控除したり、高額所得者においては、貯蓄など資産形成にまわる割合が大きいことから貯蓄率を控除する方法をとることもあります。

(2) 養育費・婚姻費用算定表の上限とする方法

婚姻費用算定表の上限を超える部分は、資産形成に当てられるものであるとして、婚姻費用算定表の上限額を具体的な婚姻費用とします。

(3) 現在の権利者の生活費の支出の状況等から算定する方法

現在の権利者の生活費の支出の状況及び同居中の生活レベル及び支出の状況等から、相当な婚姻費用を定めます。

3. 高額所得者の養育費の分担額の算定方法について

上記(3)の現在の権利者の生活費の支出の状況等から算定する方法についても、必要な生活費が義務者に渡されることになるはずであるため合理性はあると思いますが、婚姻費用の調停においてあまり採用されないのが現状ではないかと思います。また、上限額を大きく超えるような場合には、上記(2)の養育費・婚姻費用算定表の上限とする方法については義務者が応じることは難しいと思いますので、(2)の方法が選択される場合も限定的といえると思います。したがって、結局のところ、算定表の上限を超える収入の場合には(1)の方法による主張が多いように感じられます。
なお、しばしば、代理人によっては、独自の算定方法を主張することがありますが、なかなか裁判所からは採用されていないのではないかと思います。

4. 高額所得者の養育費の分担額の算定方法について

養育費については、婚姻費用とは異なり、基本的には算定表の上限額とするのが多数であるといわれています。

5. 離婚との関係

現実の案件においては、単に婚姻費用や養育費の分担額を定めるだけではなく、離婚の問題も控えていることが多くあります。そして、離婚による財産分与こそが主戦場ということも少なくありません。
例えば依頼者が女性の場合で、離婚の意思もなく、男性側からの離婚請求が法的に認められないような場合には、ある程度時間をかけてでも婚姻費用を最大にすることに合理性があると思われます。また、婚姻費用ないし養育費を定める中で取得した資料が後の離婚訴訟の中で役に立つことすらあります。しかしながら、高額所得者の離婚においては、不動産や離婚の両当事者が代表を務める会社の株式など複雑な問題が絡んでくることが多く、このような場合には、相手方の協力を得なければ、依頼者の希望するような離婚条件(財産分与)を得ることができない場合も少なくありません。このような場合には、極端なことをいえば、婚姻費用ないし養育費については必要以上には相手方とは争わずに、必要以上に敵対しないことによって、相手方の協力を引き出すことが可能になることがあります。このようにすることで、比較的、時間をかけずに、依頼者の満足する結果を得られることがあります。
算定表が使えない高額所得者の場合には、婚姻費用ないし養育費の算出方法自体が複雑化します。また、上述のとおり離婚による財産分与に対する影響を考慮することが必要になることがあり、このような判断のためには熟練した弁護士に相談することをお勧めします。
 
 
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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