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遺産分割協議がまとまらないときや、話し合いに参加しない相続人がいる場合は、相続人は家庭裁判所に遺産分割を請求することができます。遺産分割事件は、調停・審判のいずれを申し立てることもできますが、通常はまず調停の申立を行います。調停が成立しなければ、審判に移行することになります。
遺産分割調停とは
被相続人(亡くなられた方)について相続が発生した場合、まずは相続人の間でどのように相続をするかということが話し合われることが一般的です。
しかしながら、それぞれの意見がぶつかり話しがまとまらない、他の相続人が遺産を隠しているのではないかと疑われる等の理由で(弁護士に相談したとしても)遺産分割協議がまとまらないことがあります。
このような場合に、裁判所(裁判官及び2名の調停員)という第三者を入れて相続人の間で協議をすることで、遺産分割をまとめようとする試みが遺産分割調停です。遺産分割調停の特徴として、あくまで協議ですので、当事者間で合意が成立しない場合は何も決まりません。もっとも、裁判所が関与しますので、相続人の間での話し合いよりも客観的資料と法律に依拠した協議がされることが一般的です。
遺産分割調停においても合意が成立しなかった場合は、後述の遺産分割審判に移行します。
遺産分割調停の流れ
1. 遺産分割調停の申立て
(1) 申立てる方法
遺産分割調停を申立てには、申立書をはじめとした所定の書面を作成し、合わせて戸籍・遺産に関する各種証明書等の必要書類を集めて提出する必要があります。所定の書面については、各家庭裁判所のホームページ等から入手することができます。また、調停の申立はどの家庭裁判所にしてもよいわけではなく、原則として相手方の内一人の住所地を管轄する家庭裁判所に行うことになります。申立て費用としては、被相続人1人につき収入印紙1200円分、連絡用の郵便切手代などがかかります。
申立の段階で、誰が相続人か、どのような遺産が存在するかについて調査し、ある程度見通しがついている状態が望ましいです。
(2) 期日の指定
申立てが無事に家庭裁判所に受理されると、裁判所から協議を行う日時(期日)が指定されます。申立てた本人が参加をすることももちろん可能ですが、代理人弁護士を選任している場合は、代理人弁護士のみで参加をすることも可能です。1回の期日で全てが決まることはあまりなく、多くの場合は、1~1ヶ月半に1回程度の期日が設けられ、複数回の期日を重ねて合意に至ります。
当日は、主に裁判所の調停員2名(まれに裁判官)とやり取りをすることが多く、相手方たる他の相続人と顔を直接会わせる機会はそれほど多くありません。当事者は、調停員の質問に答えたり、自分の主張・要望を調停員を介して相手方に伝えたり、逆に相手方から伝えられたりします。
なお、調停期日に欠席した場合は、5万円以下の過料に処される 可能性があります。もっとも、実際は過料に処されることは少なく、合理的な理由なく当事者が複数回欠席した場合は、単に調停が不成立となり自動的遺産分割審判手続に移行することがほとんどです。
2. 相続人の範囲
遺産分割は、被相続人の相続人全員が参加して行う必要があります。誰が相続人にあたるかは戸籍を取得して調べることになりますが、意外と被相続人に隠し子がいたり、被相続人が養子縁組をしているなどして、当事者も把握していない相続人の存在が明らかになることもあります。また、相続人の中に連絡がつかない者がいる場合は、住民票等で住所を調査したり、場合によっては失踪宣告という別途の手続きが必要になります。
相続人の内ひとりが認知症などにより十分な判断能力がない場合には、先に成年後見申立手続が必要となる場合もあります。
3. 遺産の範囲
相続人の範囲について問題がなければ、まずは遺産の範囲について協議がされることが一般的です。遺産の範囲とは、被相続人の遺産としてどのようなものがあり、何を遺産分割協議の対象として扱うべきかに関することです。
遺産分割の対象となるのは、現実にあって、相続開始時に被相続人が所有していた財産です。本来的には、被相続人の財産について詳しい相続人(例えば被相続人の財産を管理していた相続人)が相続税申告書、預貯金通帳等の客観的資料を提出し、資料に基づいて遺産の範囲を確定させることが理想です。
しかしながら、必ずしも他の相続人が資料の開示に協力的でない場合や、一部の資料は開示するが他にも遺産が存在することが疑われるような場合があります。このような場合、家庭裁判所が積極的に遺産を探してくれるわけではなく、自分で積極的に遺産を調査する必要があります。遺産調査の方法としては、裁判所に調査嘱託を申し立てるなど裁判所の制度を利用する方法のほか、個人で調査 をする方法もあります。
なお、遺産がそもそも被相続人の所有物であるかどうかに争いがある場合などは別途、遺産確認の訴えという訴訟手続を行う必要が生じます。
4. 遺産の評価
遺産の範囲が合意に至ったら、次は遺産の評価について協議がされることが一般的です。遺産の評価とは、例えば不動産、株式、高価な骨董品・貴金属等が遺産に含まれていた場合、これらの遺産をいくらの金銭的価値として評価するかという問題です。
特に不動産及び非上場株式等で問題となることが多く、これらを売却して金銭に換える場合は売却額を評価額として合意することも可能ですが、相続人の誰かが取得する場合等はそうもいきません。
このような場合、例えば不動産であれば固定資産評価額や路線価から算定する方法、一般の不動産業者の査定を取得する方法などがありますが、相続人の間で合意が成立しない場合は、裁判所に鑑定料を支払って、裁判所が選任する鑑定人に鑑定を依頼する方法などもあります。
5. 各相続人の取得額
原則として、法律で定められた相続分(法定相続分)に基づいて決まります。相続人の間で合意があれば、法定相続分と異なる割合で遺産分割をすることも可能です。
また、各相続人の法定相続分は、特別受益(遺産の前渡しとみなされるような生前贈与)や寄与分(被相続人の財産の維持・形成への特別な貢献)があるかにより修正される場合があります。
例えば、生前の被相続人から相続人のひとりへ不動産や多額の金銭等を贈与していた場合に他の相続人から特別受益の主張がされたり、被相続人の介護・家業の手伝いを非常に献身的かつ無償で行っていた相続人から他の相続人に対して寄与分が主張されたりする場合があります。
6. 遺産の分割方法
誰がどの遺産を取得するかということを協議します。自分の相続分よりも多い額の財産を取得する場合(例えば、600万円の相続分を有する相続人が1000万円の実家不動産を取得する場合)には、原則として、差額分を「代償金」として自己の負担で他の相続人に支払う必要があります。
また、不動産を売却して現金化する場合に、調停においては特定の不動産を売却することと売却の方法・期限などを決めて、実際の売却を調停成立後に行うといったような方法が取られることもあります。
調停が成立すると、合意内容を記した「調停調書」が作成されます。調停調書は確定した審判と同じ効力を持ち(家事事件手続法268条1項)、これに基づいて遺産の分割が行われます。
遺産分割審判とは
調停での話し合いがまとまらないと調停は終了しますが、改めて審判の申立てを行わなくても、調停の申立てを行った際に審判の申立てもあったものとして審判手続きに移行できます。審判では裁判官が各相続人の主張を受け、相続財産の種類や性質、相続人の生活事情などを考慮した上で、相続分に応じた妥当な分割方法を定め、審判を下します。審判には法的強制力がありますので、その内容に従って遺産の分割を行います。審判の内容に不服がある場合、2週間以内に高等裁判所に対して「即時抗告」の申立てを行えば争うことができます。
調停・審判のポイント
法律や実務傾向を知らずに、単に自分の主張を展開するだけでは、調停委員も裁判官も味方してくれません。裁判所を味方につけるには、法律や実務傾向を知った上で適切な主張を展開することがポイントです。近年では、遺産分割の調停や審判の多くに弁護士が関与するようになり、そのうち70%~80%の事件が調停成立となっております。
ご参考
遺産分割調停(裁判所)
遺産分割調停手続のご利用にあたって(裁判所)
遺産分割調停の進行について(名古屋家庭裁判所)
遺産分割調停の進め方(東京家庭裁判所)
遺産分割の調停・審判に関する法律相談
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