2023.04.26
遺留分とは?遺留分を請求できる相続人の範囲・割合・計算方法を解説
弁護士 岩元 雄哉
相続において、亡くなった被相続人が遺言を残し、特定の一人に全財産を相続させる旨書かれていたような場合、遺言で指定のなかった相続人は遺産を相続することを諦めなくてはならないのでしょうか。
法は、そのような場合でも一定の相続人が取得可能な最低限の財産として、遺留分を定めています。以下では、この遺留分を受け取れる人、その割合、計算方法などについてお話しします。
目次
1. 遺留分(いりゅうぶん)とは
遺留分とは、遺産分割の際に、遺言の記載等に関わらず、一定の相続人が最低限取得できる遺産の取得分をいいます。
被相続人(亡くなった人)は、自らの財産をどのように相続させるか、生前に基本的に自由に遺言を残すことができます。しかし、例えば相続人の一人にすべての財産を相続させるなど、偏った内容の遺言が存在する場合、その他の相続人が一切の財産を取得できないとすると、遺族の生活に大きな影響を与え、生前の被相続人への潜在的な貢献も事実上無視されることになります。
そこで、法は、遺言者の財産処分の自由を一部制限し、一定の相続人に遺留分を請求する権利を保障することで両者の利益を調整しています。
2. 遺留分が認められる相続人の範囲とは
このように、法は遺留分という制度を設けていますが、すべての相続人が遺留分をもつわけではありません。次に、遺留分を有する相続人とそうでない相続人について説明します。
(1) 配偶者
被相続人の配偶者には遺留分が認められます。
(2) 子や孫などの直系卑属
被相続人の子や孫(法律上は直系卑属といいます。)にも遺留分が認められます。
(3) 両親や祖父母などの直系尊属
被相続人の両親や祖父母(法律上は直系尊属といいます。)が相続人となる場合、これらの相続人にも遺留分が認められます。
3. 遺留分が認められない相続人とは
(1) 兄弟姉妹や甥姪
一方、被相続人の兄弟姉妹や甥姪が相続人となる場合、これらの相続人には遺留分が認められていません。
兄弟姉妹が亡くなって相続が発生した際、その被相続人に子や孫がおらず、両親も既に亡くなっているような場合には、兄弟姉妹や甥姪が相続人となることがありますが、その場合の兄弟姉妹は、遺言によって他の人が被相続人の遺産を全部相続することになったとしても、遺留分の請求はできないことになります。
4. 遺留分の割合とは
遺留分が認められる場合、その遺留分は以下のような割合で決定されます。
相続人 | 遺留分の合計 | 各相続人の遺留分 |
---|---|---|
(1) 配偶者のみ | 1/2 | 配偶者 1/2 |
(2) 配偶者と子や孫 | 1/2 | 配偶者 1/4、子や孫の合計 1/4 |
(3) 子や孫 | 1/2 | 子や孫 1/2 |
(4) 配偶者と両親 | 1/2 | 配偶者 1/3、両親の合計 1/6 |
(5) 配偶者と兄弟姉妹 | 1/2 | 配偶者 1/2、兄弟姉妹 0 | (6) 両親や祖父母などの直系尊属のみ | 1/3 | 直系尊属の合計 1/3 |
上記のように、実際発生する相続における多くのケースでは、遺留分の割合は2分の1となります。
これらのケースでは、各相続人は自身の法定相続分に遺留分割合である2分の1をかけた割合による遺留分を有することになります。
ただし、(5)の場合に限っては、兄弟姉妹に遺留分が認められていないことから、配偶者は遺産に対して2分の1の遺留分を有します。((5)の場合の法定相続分は、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1ですが、配偶者の遺留分は4分の3×2分の1とはなりません。)
(6)の場合、例えば、被相続人の父と母のみが相続人であり、遺言によって母に財産の全部を相続させることとなっていたようなケースでは、父は自身の法定相続分である2分の1に遺留分割合として3分の1を乗じた、6分の1の財産を遺留分として取得することができます。
5. 遺留分の計算方法とは
では、実際に、遺留分はどのように計算されるのでしょうか。事例を用いて説明します。
(1) 例1
遺言により、子Aにすべての財産を相続させる旨の記載がある
遺産:自宅不動産 4,000万円
預貯金 2,000万円
このような事例の場合、妻と子Bは、遺言に取得分の記載がなく、遺留分が侵害された状態となっています。
この場合、遺留分の侵害額としては
妻については、法定相続分が2分の1であり、遺留分割合も2分の1ですから、2分の1×2分の1=4分の1となり、遺産の合計額6,000万円の4分の1の額である1500万円が遺留分侵害額となります。
(4,000万円+2,000万円)×1/4=1500万円
子Bについては、法定相続分が4分の1であり、遺留分割合が2分の1ですから、4分の1×2分の1=8分の1となり、6,000万円の8分の1の額である750万円が遺留分侵害額となります。
(4,000万円+2,000万円)×1/8=750万円
(2) 例2
遺言により、子Bにすべての財産を相続させる旨の記載がある
遺産:預貯金 3,000万円
株式 2,000万円
生前贈与:子Cに対して1,000万円(相続開始の5年前)
この事例の場合、子Aと子Cについては遺言に取得分の記載がありません。
同じように遺留分が侵害されているといえるでしょうか。
子Aについては、法定相続分が3分の1、遺留分割合は2分の1となりますから、3分の1×2分の1=6分の1となり、遺産と生前贈与の合計額6,000万円の6分の1の額である1,000万円が遺留分侵害額となります。
(3,000万円+2,000万円+1,000万円)×1/6=1,000万円
子Cについては、法定相続分と遺留分割合は子Aと同じですが、既に1,000万円の生前贈与を受けています。したがって、遺留分である1,000万円は受領済みであり侵害額はないということになります。
(3,000万円+2,000万円+1,000万円)×1/6-1,000万円=0
※生前贈与は、相続人に対するものは相続開始前の10年以内になされたもの、それ以外の人に対するものについては相続開始前の1年以内になされたものが遺留分を算定するための財産に算入されます。
(上記事例でいえば、生前贈与は相続人に対して10年以内になされていますから、5,000万円を基礎に遺留分を計算するのではなく、生前贈与の1,000万円も加算した6,000万円を基準に遺留分を計算します。)
6. 遺留分を侵害された場合の対処法
(1) 遺留分侵害額請求の期間制限
遺留分が侵害されている場合、相続人は、遺留分侵害額の請求をすることができます。ただし、これはあくまで権利であって、請求のためには以下の期間内に請求の意思を明らかにする必要があります。遺留分侵害額請求の意思表示をしないままいずれかの期間を徒過してしまうと、請求ができなくなりますから、特に注意が必要です。
① 相続開始及び遺留分の侵害がされていることを知ったときから1年
② 相続開始から10年
請求の方法に決まりがあるわけではありませんが、意思表示をしたこと自体を証拠に残すため一般的には内容証明郵便が用いられます。
(2) 任意の交渉
期間内に遺留分侵害額の請求をしたあと、まずは当事者間で任意に交渉をすることが通常です。話し合いで合意ができれば、合意書を作成し金銭の授受をおこないます。
ただし、当事者間での話し合いに応じてもらえない、事情があり個別に連絡をとりたくない、話し合いがまとまらないなどの場合には、裁判所を利用した手続きを検討することになります。
(3) 調停
裁判所を利用した手続きとしては、まずは調停(裁判所における話し合い)を申し立てます。裁判所の調停委員に間に入ってもらい、話し合いを進めます。この段階で合意ができれば、調停調書が作成され、合意内容に従った精算がなされます。
(4) 訴訟
調停でも合意ができない場合、訴訟によって解決を図ることになります。訴訟では最終的には裁判所が判決という形で判断を示しますから、当事者が合意する必要はなく、最終的な結論が出ることになります。
7. 遺留分が侵害され困っている方へ
上記のように、遺留分は、相続人の最低限の権利として請求が可能なもので、基本的に遺言の内容にかかわらず請求することができます。
ただし、保証されている権利であるとはいえ、実際の事案では必ずしも順調に話し合いが進むとは限りません。
・遺留分制度そのものに理解がない場合
・遺留分の計算の前提となる遺産の範囲自体に疑義や争いがある場合
・不動産や株式などの遺産の評価に争いがある場合
・生前贈与の事実やそれを踏まえた遺留分の計算に争いがある場合
など話し合うべき内容は多岐にわたりますし、複数の問題が関係してくると計算も複雑になってきます。また、感情的な対立から、直接当事者間で話し合うこと自体が困難であったり、ご本人にとって負担感が非常に大きかったりというケースもお見掛けします。
このような場合、弁護士にご相談いただくことで、多くの問題に適切な方針を立て、より迅速に事案の解決を目指すことができます。また、弁護士が代理人として交渉の矢面に立つことで、ご本人の精神的な負担を軽減することにもつながります。
遺産分割にあたって遺留分の問題でお困りの方は、是非お気軽にご相談ください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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