2025.05.30
内縁の妻(夫)に相続権はある?相続する方法や注意事項を解説
執筆・講演実績も豊富で、実務家向け書籍や新聞・専門誌への寄稿も多数。医療経営士3級の資格も保有。
弁護士 加唐 健介
「内縁(内縁関係)」とは、婚姻届を役所に提出していないものの、婚姻生活を送る意思があり、実際にも共同で生活を送っている状態をいいます。
届出をしているか否かの点を除けば、事実上、法律上の夫婦と変わらないことから、「事実婚」ともいわれます。
このコラムでは、内縁関係のパートナーの一方が死亡した場合、他方は相続することができるかについてご説明します。
目次
1. 内縁の妻(夫)に相続権はある?
被相続人の配偶者は常に相続人となりますが、内縁関係のパートナーは、法律上の夫婦ではないため、民法で定める「配偶者」に含まれないとされています。
そのため、たとえ長年一緒に生活をしてきたパートナーであっても、内縁関係である限り、民法上は相続人となることはできないとされています。
2. 内縁の妻(夫)が相続する方法とは
それでは、内縁関係のパートナーが被相続人の財産を受け取る(受け継ぐ)ためには、何か方法はないのでしょうか。
この点については、以下の方法があります。
(1) 生前贈与を活用する
内縁関係のパートナーが財産を受け継ぐための方法として、まず、生前に贈与を受ける方法があります。
贈与は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方がこれを受諾することによって成立します(民法549条)ので、法律上の夫婦関係がなくても有効に行うことができます。
なお、贈与額が年間110万円以内でしたら非課税ですが、110万円を超えるときは、贈与税の申告・納付が必要となるので、注意してください。
(2) 遺言によって遺贈する
内縁関係のパートナーが財産を受け継ぐもう1つの方法は、遺言によって贈与する(「遺贈」といいます)ことです。
具体的には、特定の財産について、「〇〇(内縁の妻/夫)に遺贈する」と定めた遺言書を作成しておく方法です。この方法も、法律上の夫婦関係がなくても、有効に行うことができます。
この遺贈による方法については、贈与する財産の価額が、相続税の基礎控除額(3千万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合には、相続人でなくても相続税の申告・納付を行うことが必要となります。
この際、法律上の配偶者に認められる非課税枠(相続財産の2分の1または1億6千万円まで)は、内縁の配偶者には適用されないため、注意が必要です。
また、遺贈が相続人の遺留分(兄弟姉妹以外の法定相続人に最低限保証された遺産取得分)を侵害する場合には、その相続人から遺贈を受けた内縁のパートナーに対して、遺留分侵害額請求が行われるという事態に発展する可能性があります。
(3) 生命保険を活用する
内縁のパートナーが生命保険金の受取人となるという方法もあります。
生命保険金の受取人は、被相続人が保険会社との保険契約によって指定することができ、法律上の夫婦関係は必要ありません。そのため、内縁関係にあるパートナーであっても、保険金の受取人とすることができます。
なお、内縁のパートナーの場合は、相続人として扱われないため、生命保険に関する相続税の非課税額(500万円×法定相続人の数)は適用されません。
そのため、内縁のパートナーが受け取った保険金は、相続税の課税対象となることに注意が必要です。
(4) 特別縁故者として遺産を受け取る
被相続人に法定相続人(法律上の配偶者、子ども、父母、兄弟姉妹など)がいない場合には、内縁のパートナーが家庭裁判所で「特別縁故者」と認定してもらうことで、遺産を受け取ることができる可能性があります。
具体的には、相続人がいるか不明な場合に、家庭裁判所が相続財産清算人を選任し、相続人を捜索するための期間内に相続人の権利を主張する者がなかったときに、相続財産清算人が被相続人(亡くなった方)の債務を支払うなどして清算を行った後、相当と認められるときは、被相続人と特別の縁故のあった者の請求によって、家庭裁判所は、清算後に残った相続財産の全部または一部を与えることができます(民法857条の2参照)。
特別縁故者とされるのは、以下のような人です。
② 被相続人の療養看護に努めた者
③ その他、被相続人と特別の縁故があった者
なお、特別縁故者として相続財産を受け取った場合には、受け取った財産について、相続税の申告・納付を行う必要があります。
この場合も、遺贈を受ける場合と同様、この際、相続税の配偶者に対する税額軽減は適用されないことに注意が必要です。
(5) 遺族年金は内縁のパートナーも受け取ることができる
遺族年金は、内縁のパートナーも受け取ることができます。
たとえば厚生年金においては、遺族厚生年金を受けることができる「遺族」とは、「被保険者等の配偶者等であって、被保険者等の死亡の当時、その者によって生計を維持したもの」をいうとされています(厚生年金法59条1項)。そして、ここにいう「配偶者」には、「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者…を含む」とされています(同法3条2項)。
このように、遺族年金の場合は、法律上の配偶者でなくても、被相続人によって生計を維持していたときは、受け取ることができます。
3. 内縁の妻(夫)が相続する際の注意点
内縁のパートナーが被相続人の財産を受け継ぐ場合、上記のように、法律上の配偶者の非課税枠が適用されません。
その他にも、内縁のパートナーが不動産を受け継ぐ場合には、法律上の配偶者の場合と異なり、小規模宅地等の特例(亡くなった人の自宅や事業に使用していた宅地の相続税評価額を最大80%削減できる制度)も適用されません。
これらのことは、相続税額を申告するに当たって重要な点ですので、ご注意ください。
また、内縁のパートナーが被相続人の財産を受け継ぐための上記方法のうち、いくつかのもの(たとえば、特別縁故者となる場合や遺族年金を受け取る場合など)においては、「内縁の配偶者であったこと」の証明が必要になります。
内縁の夫婦であることを証明する簡便な方法は、住民票です。具体的には、住民票の世帯主との続柄に関して、「妻(未届)」や「夫(未届)」と申請することです。
住民票の続柄には、このように「(未届)」と記載することができますので、活用することを検討してみてください。
4. 内縁の配偶者の相続に関することで困っている方へ
以上のように、内縁のパートナーが相続をする際には、法律上の配偶者の場合と異なり、注意すべき点が少なくないのが実情です。
当事務所は、内縁のパートナーの方の相続案件も数多く手がけてきた実績があります。内縁のパートナー様の利益を最大限実現できるよう、豊富な経験を活かしてまいります。
内縁のパートナーの方の相続でお困りのことがありましたら、ぜひ当事務所にご相談ください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
虎ノ門法律経済事務所の弁護士コラムのページへようこそ。
弁護士相談・法律相談を専門とする虎ノ門法律経済事務所では、遺産相続の解決事例も豊富であり、お客様それぞれのお悩み・トラブル内容に沿った弁護士をご紹介することで、トラブル解決の最後までスムーズに進めることを目指しております。
遺産相続だけではなく、他の様々な相談内容にも対応しておりますので、ぜひお気軽にご連絡・ご相談ください。