2025.06.02
借地権は相続できる?名義変更の手続きや地主とのトラブルを避ける方法を徹底解説
執筆・講演実績も豊富で、実務家向け書籍や新聞・専門誌への寄稿も多数。医療経営士3級の資格も保有。
弁護士 加唐 健介
借地権付きの不動産を所有している方が亡くなった場合、その借地権は相続できるのか、また名義変更にはどのような手続きが必要か、疑問に思われる方も多いのではないでしょうか。借地権は相続可能ですが、地主との関係性や契約内容により注意すべきポイントも少なくありません。
本コラムでは、借地権の相続に関する基本知識から名義変更手続き、相続税や売却の可否、さらにトラブルを回避するための実践的な対策まで、弁護士の視点からわかりやすく解説します。
目次
1. 借地権とは
借地権とは、建物所有を目的として他人の土地を借りて使用する権利を指します。これは民法や借地借家法に規定された権利であり、土地所有者(地主)の承諾のもと設定されるものです(借地借家法第1条)。
・借地権と所有権との違い
所有権は不動産(土地・建物)を自由に利用・処分できる権利であるのに対し、借地権は土地を使用する権利にとどまります。借地権者は建物を所有する目的で土地を利用できますが、土地自体の売却や担保提供などはできません。
また、契約期間や更新条件など制約も多く、地主の承諾を得なければならない行為もあります。したがって、自由度や法的効力の点で両者は大きく異なります。
・借地権の種類
借地権には大きく分けて「普通借地権」と「定期借地権」があります。
普通借地権は、契約更新によって長期にわたって借地が継続される一般的な形態であり、借地借家法に基づき借主に強い保護が与えられています(借地借家法第3条・第4条)。
一方、定期借地権は一定期間の利用後に必ず契約が終了するもので、契約更新や建物再築による期間延長は認められていません(借地借家法第22条以下)。
さらに、定期借地権には一般定期借地権(50年以上)、事業用定期借地権(10年以上50年未満)、建物譲渡特約付き借地権(30年以上)といった細分類があります。相続に際しては、それぞれの借地権の性質に応じた対応が必要となります。
2. 借地権は相続についての基礎知識
借地権は遺産の一部として相続の対象となり、相続人が引き継ぐことができます(民法第896条)。契約内容や地主の意向を踏まえて対応する必要があります。
・借地権の相続に地主の許可は不要
借地権は財産権の一種であり、相続は当然に発生するため、地主の承諾は原則として不要です(借地借家法第20条)。ただし、相続後に契約更新や建物の再築を行う場合には、地主の承諾が必要になることがあります。
・借地権の遺贈による相続は地主の許可が必要
相続とは異なり、遺贈によって第三者に借地権を承継させる場合は、地主の承諾が必要となるケースがあります(借地借家法第21条)。これは契約上の地位の譲渡に該当するため、地主の同意が法的にも求められるからです。
・相続した借地権の売却は、地主の許可があれば可能
借地権を第三者に譲渡する場合には、地主の承諾が必要です(借地借家法第19条)。承諾が得られないと、譲渡契約自体が無効とされることもあるため、事前に地主との協議が不可欠です。
・相続後の建て替えは、契約の条項を確認
建物の老朽化などに伴い建て替えを検討する場合、借地契約書における「再築制限条項」などに注意が必要です。地主の承諾や建築確認申請が必要な場合もあり、契約内容を十分に確認することが求められます(借地借家法第21条)。
3. 借地権の名義変更の方法
借地権を相続した場合、土地ではなく建物の名義変更を行うことで間接的に借地権も承継されます。
(1) 借地権の建物の名義変更の流れ
建物の名義変更は、法務局にて登記を通じて行われます。まずは戸籍謄本や遺産分割協議書などを準備し、被相続人から相続人への所有権移転登記を申請します(不動産登記法第5条・第59条)。この登記手続きを経ることで、借地権の事実上の承継が完了します。なお、建物の名義変更を行うことで、借地契約の内容に変更が生じるわけではなく、契約の地位はそのまま相続人に引き継がれます。
(2) 名義変更の必要書類
被相続人の戸籍謄本、住民票の除票、相続人全員の戸籍謄本、住民票、遺産分割協議書、固定資産評価証明書などが必要です。登記申請書も別途作成が求められます。
(3) 借地権の建物の名義変更の手続きにかかる費用の目安
登録免許税は建物の評価額×0.4%となります(租税特別措置法第84条)。また、司法書士など専門家へ依頼する場合は5万〜10万円程度の報酬が発生するのが一般的です。加えて、必要書類の取得費用や交通費などの実費もかかる点に留意が必要です。
4. 借地権を相続する上での注意点
借地権の相続では、権利関係が複雑であり、さまざまなリスクがあります。
(1) 地主とのトラブル
相続をきっかけに、地主との関係性が変化することがあります。特に更新料や承諾料、修繕の範囲などをめぐってトラブルになることがあるため、事前の話し合いや契約内容の確認が重要です。
(2) 兄弟で共有した場合の管理トラブル
借地権を兄弟姉妹で共有相続した場合、修繕や建て替え、売却などの意思決定において意見が分かれることがあります(民法第252条以下)。共有状態が長期化するとトラブルの元となるため、持分放棄や換価分割などの選択肢を検討する必要があります。
(3) 相続税と評価の問題
借地権は財産として相続税の課税対象となり、相続開始時点の評価額に基づいて課税されます(相続税法第2条、第11条)。借地権の評価は、相続税評価額における借地権割合を乗じて算出され、地域や契約内容により異なります。過小評価・過大評価を避けるためにも、税理士などの専門家に相談することが望ましいです。
5. 借地権の相続でトラブルを避けるコツ
借地権の相続に関しては、契約関係と遺産相続という両面からトラブルが生じやすいです。
(1) 契約書の確認と整理
相続発生前から借地契約書や覚書などを整理しておくことが重要です。借地期間や再築可否、譲渡に関する規定などを事前に把握しておくことで、相続後のトラブルを防げます。
(2) 地主との関係性の構築
借地権の相続では、地主の協力が不可欠な場面も少なくありません。生前から地主と良好な関係を築き、承諾料や更新条件などの見通しを立てておくことで、相続後の手続きがスムーズに進みます。
(3) 専門家への相談
借地権は法律関係が複雑であり、相続、税務、不動産登記など複数の法分野にまたがります。弁護士、司法書士、税理士などの専門家に早めに相談することで、トラブルを未然に防ぐことができます。
6. 借地権の相続についてよくある質問
借地権の相続に関して代表的な質問にお答えします。
7. まとめ
借地権は相続の対象となる重要な財産の一つですが、所有権とは異なる特性から、さまざまな制約や注意点があります。名義変更や地主の承諾、税務申告など、複数の観点から適切に対応する必要があります。事前の契約確認や、専門家への相談を通じて、スムーズで円満な相続手続きの実現を目指しましょう。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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