2023.04.19

役員報酬を支給するための手続

本稿作成時の2023年4月12日、関西電力が、カルテル問題の経営責任を負担するため、取締役の報酬減額を発表しました。
それと関連して、取締役など、株式会社(以下「会社」といいます)の役員に対して報酬を支給する手続きとして、ほとんどの中小企業が実践していない落とし穴について、本稿では触れていきます。
 

1. 会社は社長のものか

会社は誰のものでしょうか。なお、会社と言ってもいろいろな種類がありますが、本稿では「株式会社」を念頭に述べていきます。
「社長」と呼ばれることが多い代表取締役が一番偉くて、代表取締役であれば、会社のことなら何でも自由に決定することができる、というイメージがあるのではないでしょうか。
しかし実際には、会社を所有するのは株主です。
会社法では、役員が株主のために会社経営をする立場であることを前提に、役員の活動に様々な制約を設けています。

2. 中小企業で株主の存在が意識される場面

日本の会社で多くを占める中小企業のほとんどは、株主=取締役ですから、その違いが意識される場面は少ないと思われます。
例えば、役員は代表取締役Aだけ、株主もAだけ、という会社であれば、代表取締役の判断=総株主の判断ですから、Aが会社経営にあたり何をしても、社内的に問題になるケースは想定しづらいでしょう。
また、役員と株主が全て(関係が良好な)家族で、取締役の判断に他の家族(株主)が全く異議を述べない場合も、現実的には問題が生じることはないと思われます。
しかし、株主構成が相続などをきっかけに細分化したり、長年勤めた従業員に株式の一部を譲渡するなどしたことをきっかけに、これらの構図が崩れてしまうことがあります。
その結果、実際に会社を経営している取締役兼株主よりも、全く会社経営に関与していない株主の比率が多くなってしまったり、経営陣と意見の相違がある株主が一定比率存在するようになると、取締役兼株主だけの判断では、会社の経営ができなくなることがあります。

3. 株主総会決議が必要とされる場面

それでは、会社の経営判断として、株主の承認つまり株主総会決議が必要は事項には何があるか、一部ご紹介します。
どんな会社でも関係するであろう事項だけでも、以下のようなものがあります(会社法309条1項)(これだけには限りませんが、本稿ではわかりやすいものを挙げています)。
 
・取締役や監査役の選任、解任(会社法341条)
・計算書類(貸借対照表、損益計算書、株主資本変動計算書、個別注記表)の承認(会社法438条2項)
・剰余金の処分・配当(会社法451条2項、452条、454条)
・役員報酬の支払い(会社法361条1項、387条1項)
これに加えて、取締役会が設置されていない会社では、以下のものも株主総会決議が必要となります。
・株式の譲渡(会社法139条1項)(非公開会社の場合)
・競業取引・利益相反取引(会社法356条1項)(例えば、取締役と会社との間で売買契約を締結する場合等)

4. 役員報酬支給の手続き

(1)中小企業における実情

中小企業の経営者から話をうかがっていると、ほとんどの会社で、役員報酬を支給する前提として、株主総会による決議を経ていません。
しかし実際には、上述した通り、株主総会の普通決議で、役員報酬の額について承認を得る必要があります。
なお、役員報酬は、株主総会決議以外にも、定款で定めることも可能ですが、定款で定める場合、報酬額変更のたびに定款変更の手続き(株主総会の特別決議。会社法466条、309条2項11号)が必要となってしまうため、一般的には採用されていないことが多いようです。

(2)具体的な決議方法

株主総会で役員報酬を決議する必要があるとして、どこまで具体的に決議をする必要があるでしょうか。

ア 取締役の報酬の決議方法

取締役の報酬について、株主総会の決議を不要とすると、経営陣が株主の利益を考えずに、会社の利益を自らの報酬支払いに費やしてしまう恐れがあります。
そのため、取締役報酬の決定については、原則として株主総会決議が必要とされています。
とはいえ、例えば取締役が複数存在する場合、取締役個人毎の報酬を具体的に定めて、株主総会に上程して決議する必要はありません。
取締役全員の報酬の最高限度額(月額でも、年額でも構いません)を定めておけば、各取締役の具体的な報酬額の決定は取締役会に一任する方法も許容されています(最判昭60.3.26判時1159-150)。
そして、取締役会がさらに代表取締役に報酬の決定を委任することについても実務的には認められています(最判昭58.2.22判時1076-140)。

イ 監査役の報酬の決議方法

監査役の報酬について、株主総会の決議を不要とすると、経営陣である取締役が監査役の報酬を決定することができることになります。
監査役は取締役の職務を監査することが任務ですから、これでは監査役の独立性が確保されないため、監査役の報酬については株主に決定権を留保しています。
同様の趣旨で、監査役の報酬は取締役の報酬とは区別して定める必要があります。取締役の報酬と一括して定めることは違法であり、そのような株主総会決議は無効となります。
また、取締役の場合と同様、監査役が複数いる場合にも、監査役個人毎の報酬を具体的に株主総会で決議する必要はなく、監査役に対する報酬の最高限度額を定めれば良いとされています。
この場合、複数いる監査役内部での報酬配分は、取締役が決定するのではなく、監査役の協議で定めます(会社法387条2項)。

5. 役員報酬について株主総会決議を経ないリスク

株主総会決議を経ずに役員報酬を支給してしまうと、違法な支給となってしまいます。
そもそも、株主総会決議があって初めて、役員の報酬請求権が発生することになりますから、理論上は、株主総会決議を経ない報酬支給は無効であり、事後的に返還請求を受ける可能性もあります。
また、会社法に反して報酬支給をした取締役や、法令違反を見逃した監査役は、任務懈怠を理由に損害賠償請求を受ける可能性もあります(会社法423条)。

6. まとめ

いったん、株主総会決議で報酬の最高限度額を決定すれば、その範囲内である限り、役員の人数に変更があったとしても、事業年度毎に決議を得る必要がありません。
将来的にトラブルとなるリスクを軽減するためにも、会社法の定める手続きを意識した会社経営が望ましいでしょう。
当事務所では、社外監査役の経験がある弁護士、株主総会対応の経験がある弁護士も複数在籍しています。
取締役会や株主総会の運営に対する助言、総会対応も承っておりますので、お気軽にご相談ください。

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