2023.05.17
家賃滞納問題は弁護士に相談を! ~早期退去・解決までの流れ~
弁護士 亀井 瑞邑
目次
1. はじめに
不動産賃貸で特に多いトラブルの1つが、賃借人の家賃の未払いです。近年は家賃保証会社などを利用される方も増えてきており、家賃の滞納が直ちに賃貸人の負担になるわけではないケースもあります。とはいえ、家賃を滞納するような賃借人ではなく、新しい入居者を少しでも早く募集することが健全な賃貸住宅管理の第一歩です。
また、コロナ禍において、いわゆる電子署名を活用した賃貸借契約締結の手法も増えておりますが、直接相対していないからこそ、入居後に初めて問題を抱えている賃借人であることが明らかとなることも多くなってきております。このような案件にこそ、弁護士に依頼をする必要性が高いといえます。
当事務所では不動産案件を比較的多く取り扱っており、また、全国に支店がある関係から、全国のオーナー様・不動産管理会社様から、賃料を滞納している賃借人との折衝に関するご依頼をいただいております。
そこで、今回は、弁護士の目線から、家賃を滞納する賃借人との賃貸借契約をどのように解除することが良いか、検討をしていきます。
2. 家賃の滞納が1ヶ月でもあったら・・・弁護士に相談を!
当事務所との間で顧問契約といった継続的なご依頼をいただいている方に対しては、当事務所では、家賃の滞納が1ヶ月でもあれば、弁護士に依頼をした上で、賃貸借契約の解除も視野に入れるよう、アドバイスをしています。
以下でも検討するとおり、賃貸借契約を解除した上で判決を取得し、その上で強制執行までを行うためには相応の期間が必要になりますが、適切な初動対応を行うだけでも、数週間から、場合によっては数か月は、建物からの退去を早めることができるためです。
3. 初動で行うべきこと
・解除通知の発送準備
・任意退去の通知書の準備
・賃借人が当該貸室をどのように利用しているかの確認
順を追って確認していきましょう。
4. 契約書で確認する事項について
(1) ①専属的合意管轄かどうか
まず、①管轄が専属的合意管轄かどうかで、今後の流れが大きく変わります。専属的合意管轄とは、一般に、合意した管轄以外を全部排除して、合意した裁判所のみに管轄を限定する、というものです。そして、専属的合意管轄の効果には諸説ありますが、同管轄以外に訴訟を提起した後に管轄違いとして移送(民事訴訟法16条1項)となると、それだけで1ヶ月近くの時間がかかってしまいます。そのため、専属的合意管轄が存在する場合には、同管轄を所轄する裁判所に訴訟を提起することが無難となります。
また、訴訟提起後の第一回口頭弁論における訴状の陳述の際には必ず出頭をする必要があります。
この点、全国に支店のある当事務所であれば、専属的合意管轄の有無にかかわらず、どのような管轄であっても対応をすることができますので、全国展開をしている不動産会社・管理会社のご依頼であっても対応することができます。また、近年、コロナ禍もあり、不動産投資を行う方が増えてきておりますが、このような方であっても当事務所であれば全国の物件に対応することが可能です。
(2) ②無催告解除特約の規定の存否
②無催告解除特約とは、解除に際してなんら催告をせずに賃貸借契約を解除することができるという特約です。同特約の効力の有効性についても多くの判例があります(最判昭和40年7月2日・民集19巻5号1153頁等)が、同特約が有効であるとして、未払い賃料が何ヶ月であれば解除が認められるかについても多くの裁判例があります。
当事務所で取り扱う案件でも3〜4ヶ月程度の未払いがなければならないとしたものもあれば、2ヶ月で無催告解除を認めた事案もあります。
一般に、賃貸借契約の解除に際して催告が必要とされる趣旨は賃借人に是正の機会を与えることにあります。したがって、無催告解除を行う以上、賃借人の義務違反が重大であり、是正の機会を与える必要がないほどに信頼関係が破壊されていることを賃貸人側において主張・立証する必要があります。賃借人に対して解除通知を送付するに際しても、事案の性質を捉えて、無催告解除が認められることが妥当であることを前提とする記載する必要があります。
(3) ③駐車場の有無の確認
③以上に加えて、賃貸借契約に駐車場の有無を確認することも必要不可欠です。仮に駐車場も賃貸借の目的不動産であったのに建物の賃貸借契約の解除手続のみを進めてしまうと、将来、建物の明渡請求が認められていたとしても、駐車場は賃借人に使用されてしまうという事態になりかねません。
このように、①~③で記載したような事情を契約書から把握した上で、賃貸借契約の解除に基づく建物明渡請求訴訟の提起の準備を行います。
5. 解除通知の発送
解除通知を発送する際には、上記のような点に留意した上で、書面を記載し、後の裁判で解除通知の有効性に疑義の無いように対応をします。なお、解除通知が現実に相手方に到達したことを証明するために、内容証明郵便や特定記録郵便を活用します。内容証明郵便の受け取り拒否がなされた場合に備えてポスト投函される特定記録郵便を同時に投函することも事案によっては検討します。
解除通知の発送と同時に、訴状に必要な資料の収集を行います。固定資産評価証明書や(当事者が会社であれば)代表者事項証明書等です。特に前者は、取得するまでに1週間ほどかかるので、訴訟提起の準備初期の時点で申請を行います。
6. 訴訟の提起
相手方に解除通知が到達した後、訴状必要資料の収集が完了していれば、訴訟を提起します。もちろん、解除通知送付後も、訴訟を提起せずに任意交渉で退去を促すという交渉戦術も考えられますが、万が一、賃借人が退去を行わない場合には、そこから訴訟を提起し、判決取得まで数か月程度かかることにかんがみるとリスクが高く、訴訟を提起した後に任意で退去をできないか、促すようにすることが考えられます。
7. 送達(付郵便送達)
送達が上手くいかなかった場合には、例えば休日送達や就業先送達、転居先・転居前の住所に送達することが考えられます。これでも送達ができなかった場合には、場合によっては付郵便送達によることが考えられます。
送達を上手く行うためにも、上述の通り、賃借人が当該貸室をどのように利用しているかの現地調査をなるべく早いタイミングで行うことが良いでしょう。
8. 判決の取得と強制執行
送達が完了すると、いよいよ裁判です。裁判では、相手方が欠席した場合は擬制自白として請求認容判決が、出席したとしても、当方において家賃分割払いには応じられない旨を伝えると基本的には請求認容判決がなされます。
判決言い渡し日は裁判官次第ですが、早ければ1週間程度でなされることもあります。
判決を取得後に確認することは、仮執行の有無です。一般的に、不動産の明渡しの仮執行は、賃借人の住む場所が失われるというその不利益の程度の大きさから付されないこともありますが、家賃滞納者に対する明渡し請求では仮執行宣言が付されていることもあります。
仮執行宣言があれば、強制執行手続に移行します。すなわち、相手方の家に立ち入った上で公告を行い(催告)、その約1ヶ月後、当該物件から執行業者が建物内の家財道具等を運び出し、賃借人(占有者)の占有を排除した上で賃貸人に引き渡すことになります(断行)。執行では、執行官の指示の下で建物の明渡しを求めていくのですが、事案によっては警察の応援を呼ぶこともあり、緊迫した雰囲気で行われることがあります。
9. 結語
以上が、建物明渡請求の大まかな流れとなります。いずれの手続においても、専門的知見と法的な交渉技術が必要となります。
当事務所は、全国に支店があるという特色から、不動産のオーナー様や全国の不動産を扱う不動産管理会社様から多くのご依頼を頂戴しております。また、弁護士報酬・料金につきましても、賃貸人様のご意向を確認のうえで柔軟に対応しています。
当事務所は、問題のある賃借人との賃貸借契約を数多く早期解決を図ってきております。一日でも早く物件の明渡しを完了し、適切な賃料収入の回復を図ることにお力添えを出来ればと思いますので、家賃滞納者に関するお悩みについては、是非一度ご相談ください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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