2021.12.20

裁判所からの呼び出しを無視すると前科に?債務者の財産状況の調査と財産開示手続

弁護士 亀井 瑞邑
 

1. 民事執行とは

売買代金が支払われない、暴行行為による損害賠償が支払われない等の事情により、債権者は、債務者に対して、訴訟を提起・裁判をすることがあります。しかし、仮に勝訴判決を得ることが出来たとしても、債務者が任意に支払わない場合があります。
このように、債務者が任意に債務を履行しないとき、債権者は、勝訴判決などの債務名義に基づいて、この請求権を、国家権力をもって強制的に実現することができます(民事執行法)。

2. 債務者の財産状況の調査

もっとも、強制執行をする前提として、債権者としては、債務者の財産状況を正確に把握する必要があります。しかし、例えば、親族・家族の財産状況ですら正確に把握していない方も多いと思いますが、他人である債務者の財産状況について、正確に把握している場合は必ずしも多くはなく、把握することが出来ない場合も多くあります。
そこで、債権者としては、民事執行法第196条以下が定める財産開示手続、及び民事執行法第204条以下が定める第三者からの情報取得手続により、債務者の財産を正確に把握することが考えられます。

3. 財産開示手続とは?

もともと、民事執行法は平成15年及び平成16年に、社会経済情勢の変化への対応と権利実現の実効性の向上という観点等から、全般的に見直しがなされ、その際に財産開示手続は創設されました。判決などの債務名義を折角取得しても、執行する対象となる財産が隠匿などにより分からず強制執行が事実上できない現実があったため、その対応策として創設されたのです。
具体的には、財産開示手続を申し立て、裁判所が実施決定をして債務者を呼び出し、期日において、債務者自身に自身の財産について陳述させることにより、債務者の責任財産を特定することとなります。

4. 財産開示手続と罰則

このように、財産開示手続自体は、平成15年に創設されましたが、これに応じないとしても、必ずしも大きな不利益が債務者に科されるわけではなく、これも相まって、その後、財産開示手続の申立件数は、年間1000件前後と低調であり、債務者の財産を開示するという財産開示手続の期待された機能が十全に発揮されない状況が続いていました。
そこで、令和元年の改正により、刑罰規定が定められ、債務者が裁判所の呼び出しに応じない等の場合に、刑罰(いわゆる、犯罪です。)が科されることとなりました。
 
罰則規定は、以下のとおりです。

 
最近でも、財産開示期日に出頭しなかったことを理由に逮捕される者がいるとの報道が多くありますが、これらは、同条が根拠となります。
 
なお、財産開示手続は公示送達による債務者への送達が認められています。公示送達とは、「当事者の住所、居所その他送達をすべき場所が知れない場合」(民事訴訟法第110条1項1号)等になされるもので、「裁判所の掲示場に掲示して」(民事訴訟法第111条)、送達がなされます。
財産開示手続は、実施決定がなされると、裁判所から債務者に送達がなされます。この送達(呼び出し)を無視した場合、裁判所としては、公示送達、すなわち裁判所の掲示板に掲示することで、送達がなされたものとすることが考えられます。
この場合、債務者としては、当然ながら財産開示手続の実施日等は分かりませんので、裁判所からの呼出し等に誠実に対応しなかった結果として、期日に出頭できず、ひいては犯罪・前科となりかねない状況になります。

5. まとめ

このように、財産開示手続を経ることで、債務者としては、債務者が不誠実な対応を続ける場合、刑罰が科されかねないため、債権者としては、債権回収に際して、この財産開示手続を積極的に用いることで、実効性の向上が期待されます。
債務者としては、仮に財産開示の申立てがなされたとしても、誠実に対応すれば、刑事罰になることはありません。仮に裁判所からの呼出しが届いたとしたら、刑事事件とならないよう、適切に対応をするべきでしょう。

6. ご参考

初めての財産開示手続 成功・失敗実例に学ぶ具体的な進め方
 
 
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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