2023.12.15

特殊詐欺に手を染めてしまったあなたへ ~「自首」のすすめと弁護士の役割~

弁護士 亀井 瑞邑
 

1. はじめに

弁護士の亀井です。本コラムでは、特殊詐欺の受け子や出し子をしてしまい、その後の行動に迷っている若者の皆さんに向けて、「自首」をはじめとする、弁護士目線でのアドバイスを行い、なぜ弁護士に相談すべきなのかを説明します。
 
近年、特殊詐欺によって若者が犯罪に巻き込まれてしまい、被害者が多数いることや被害弁償の困難性、そして、組織上層部が捕まらないことなどから、重い処罰(実刑)となる者が後を絶ちません。
例えば、警察庁が掲載している「犯罪実行者募集の実態について」という資料では、一度犯罪組織側と関わってしまい、その後、抜け出そうにも組織側から脅されてしまい、犯行を続けざるを得なかった少年たちの事例が多数紹介されています。
 
今、あなたが本コラムを読んでいるということは、何かしらの特殊詐欺(カードを被害者から受け取ったり、そのカードを用いてATMで出金し、組織に渡したりしたこと等)を犯してしまい、困っているのかもしれません。あるいは、ご家族やご友人等にこのような犯罪をしてしまっている方がいるのかもしれません。犯罪を犯してしまったという重い罪悪感、そしてその先の刑事手続への未知なる世界への恐怖もあると思います。
 
本コラムでは、このような皆さんに「自首」という選択肢の内容をご説明するとともに、その際の弁護士の役割についてお話しします。

2. 自首について

そもそも、自首(刑法42条1項)とは、罪を犯した者が、捜査機関に発覚する前に、捜査機関に対して、自発的に自己の犯罪事実を申告し、訴追を含む処分を求めることをいいます。そして、自首をすることで、あなたの罪の重さが軽減される可能性があります(刑法42条1項:任意的減刑)。また、あなたが自首することが裁判所や捜査機関から「反省の証」と評価されることもありますので、刑の重さ以外にも、自首をすることで捜査機関からの逮捕を免れる可能性や、身体拘束のない在宅捜査として取り扱われる可能性など、様々な事実上の便宜を図ってもらえる可能性があります。
 
さて、自首の成否に関して、ここでの大きな要件は、①捜査機関に発覚する前になされなければならないことと、②自発的になされなければならないことの2点です。そこで、この要件判断に疑義が生じないように、まずは自首をする前に弁護士に相談することが重要です。

3. 自首の要件性判断における近年の事例の紹介

(1) 捜査機関への申告内容に虚偽が含まれていた事案

捜査機関への申告(警察署に自ら電話をかける等)自体はしていたものの、その内容に虚偽が含まれていた事案について
大阪地判平成31年2月4日(2019WLJPCA02046006)によれば、以下のように判示されています。

自首する以前から公判廷に至るまで,一貫して,(・・・)その犯行動機や犯行に至る経緯等の重要な部分について,事実と大きく異なる供述をし続けている。

などといった事情を認定した上で、

犯人である被告人が,捜査機関に対し,自発的に,自分が被害者を殺害したことを申告したものと認められるが,犯罪事実の重要な部分について虚偽の供述を意図的にしていることから,被告人には自首が成立しない。

と、判示しました。
 
なお、この点について、この裁判例の上告審である最一小決令和2年12月7日刑集74巻9号757頁によれば、以下のように判示されています。

被告人は,(・・・)と事実を偽って申告しており,自己の犯罪事実を申告したものということはできないから,刑法42条1項の自首は成立しないというべきである。

(2) 捜査機関に「発覚」する前(犯人の特定性)という要件について

また、①について、東京地判令和4年6月7日判時2554号111頁によれば、以下のように判示されています。

捜査機関に発覚していたか否かは、単に当該捜査書類を作成した個々の捜査官の認識によって決するのではなく、捜査機関全体における犯人特定のための捜査活動の進捗状況に基づいて判断すべきである。

もっとも、同判決は、職務質問を受けた際に余罪も含めた全てを捜査機関に説明したという事案での判断であり、仮に職務質問を受ける1週間でも前に、捜査機関に説明していれば、自首の成立が認められたかもしれません。

(3) 小括

以上の事例からも分かるように、自首の成立が認められるかどうかは、自首の際の態様が、捜査や裁判の帰趨を大きく左右することとなるので、その真摯な反省・悔悟の態度といった要素が考慮され、また捜査機関全体としての捜査活動の進み具合にも影響されうることとなります。
したがって、捜査機関・裁判所に対して自首の成立を求めていく場合には、なるべく早く弁護士に相談いただき、弁護士の関与のもと、自首の成立が認められるよう、慎重かつ迅速に判断を行う必要があります。

4. 弁護士に相談することのメリット

以上のように、近年、特殊詐欺によって若者が犯罪に巻き込まれてしまい、その刑事弁護人を担当することが増えてきております。しかも、既に述べたとおり、この犯罪類型は、かなり重い処罰となることが予想されます。
 
弁護士は法律の専門家であり、あなたがどのような状況にあっても最善のアドバイスを提供します。特に、特殊詐欺のような犯罪に関与してしまった場合、自首の成立には上記のようなハードルが存在することもあり、組織から抜け出すという勇気も必要ですので、一人で判断することはおすすめしません。自首の方法やタイミング、そして、今後の刑事裁判に向けた準備(被害弁償の方法)などを弁護士に相談することで、最も適切に対処することができます。

5. まとめ

もちろん、捜査機関への自首を考えるというのは、心理的に大きなプレッシャーがかかります。特殊詐欺に関与してしまったことで心が混乱しているかもしれません。
しかし、弁護士は、あなたの心情を理解し、あなたが抱える不安や恐怖を軽減するため、出来る限りのサポートを提供します。
 
特殊詐欺に関与しているあなたが罪を犯したという事実は変わりません。しかし、その罪にどう向かうかはあなた次第です。そして、自首をすることで、これ以上の被害者を生み出さないこと、あなた自身がこれ以上の罪を重ねることのないようにすることができます。
自首を選ぶことで、あなたは更生への一歩を歩み始めることができます。
 
本コラムをご覧になって、少しでも自首を考えているあなたは、一人で悩まずに、まずは弁護士に相談してみてください。あなたの悩みを共有し、最善の解決策を見つけるための手助けをすることが私たち弁護士の役割です。
あなたが抱える問題を解決するために、どうぞ一度お問い合わせください。

6. 学校教育関係者の方々へ

私は、法教育委員会活動の一環として、このような特殊詐欺の受け子・出し子、その他インターネットトラブルに関する法教育授業を多数実施しています。
また、もし在学生の方で特殊詐欺の犯罪に加害者として巻き込まれてしまった方がいる場合などには、学校に対して、今後の捜査の見込みや学校側としてすべき事項に関する法的なアドバイス・助言を行うこともできます。
学校教育者の方で、法教育授業や上記アドバイスをご希望の方がいらっしゃいましたら、どうぞ気兼ねなくお問い合わせください。
 
 
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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