2020.05.11

新型コロナウイルス感染症に関連した労務管理Q&A

弁護士 長谷川 周吾
 

Q.1 感染の疑いのある労働者への対応

次の労働者(①新型コロナウイルスに感染している者、②感染の疑いがある者、③感染者とのの濃厚接触者)に対し、どのように対応したらよいですか?
 
A. 会社は、労働者の生命、身体、健康に対する安全配慮義務(労働契約法第5条)及び働きやすい労働環境を整えなければならない義務を負っております。また、会社は、企業秩序維持のために必要な命令を下すことができるため、上記の場合には、就業規則の定めに基づき、出勤停止命令を下すことができます。

Q.2 会社がとるべき感染防止、安全措置

労働者の生命、身体、健康に対する配慮措置として、会社はどのような措置を講じる必要があるのでしょうか?
 
A. 具体的に何をどこまでするかは経営判断に属する事項といえますが、政府や公共機関が公開している情報を適宜参照し、新型コロナウイルスに関する医学的・科学的知見をも踏まえ、合理的な措置を講じることが求められます。
例えば、次のような措置を講じることが考えられます。①時差出勤やテレワークの推奨、②不要不急の会議を行わないように要請すること、室内の換気を行うこと(いわゆる『三密』空間を作らないこと)③体調不良者に有給取得を推奨、④労働者の体調を適宜把握し、報告させる体制を整えること⑤手洗いやマスク着用を推奨し、職場にアルコール消毒を設置すること、⑥休日における不要不急の外出をしないよう要請すること等が考えられます。

Q.3 テレワーク『=在宅勤務』に関する技術的な問題

会社でテレワークを導入することを検討しておりますが、どのような機材、契約が必要になるのでしょうか?
 
A. 厚生労働省では、テレワークに関連する情報を一元化した『テレワーク総合ポータルサイト』を設け、テレワークに関する相談窓口、企業の導入事例紹介などテレワークの導入・活用に向けた各種情報を掲載していますので、参考にしてください。(https://telework.mhlw.go.jp/

Q.4 テレワークに関する法的な問題

自社の労働者にテレワークを導入したいと考えていますが、どのような点に留意が必要でしょうか?
 
A. テレワークを行う場合においても、労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法、労働者災害補償保険法等の労働基準関係法令が適用されます。また、テレワークの導入は、労働条件に関する事項にあたるため、就業規則に定めを置くことが望ましいといえます。
なお、賃金との関係では、特にテレワーク中における労働時間をどのように把握すべきかが問題となります。

Q.4 テレワーク中の労働時間について①

テレワーク中の労働者の労働時間をどのように把握したらよいでしょうか?
 
A. LINEにより出勤退勤の報告を行う、パソコンのカメラを常時ONにすることによって労務時間を管理する、オンライン上の出勤退勤把握ソフトにより労働時間を管理する、という方法が考えられます。
もっとも、これらの方法で労働時間を管理することが難しい場合には、事業場外みなし労働時間制(労働基準法第38条の2)を採用することも検討されるべきです。厚生労働省の『情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン<概要>』によれば、①情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと、②随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと、が必要とされております。

Q.6 テレワーク中の労働時間について②

テレワーク中の労働者の労働時間を適切に把握できないと、会社としてどのような問題が発生するのでしょうか?
 
A. 使用者は、労働者の労働時間についても適正に把握する責務を有しており(労働基準法第108条第1項)、労働者の健康を確保するため労働時間の状況を把握することは重要です。また、テレワーク中の労働時間が法定労働時間を超える場合には、割増賃金の支払い等が必要となります。そのため、後になって賃金の計算でトラブルが発生しないように労働時間を適切に把握することが必要になります。

Q.7 テレワーク環境を整えるために必要な費用について

テレワーク環境を整えるために必要となる費用(各種サービスの利用料、通信料、機材設備費等)について、労働者側に負担を求めることはできますか?
 
A. テレワークを行うことによって生じる費用については、通常の勤務と異なり、テレワークを行う 労働者がその負担を負うことがあり得ることから、労使のどちらが負担するか、また、使用者が負担する場合における限度額、労働者が請求する場合の請求方法等については、あらかじめ労使で十分に話し合い、就業規則等において定めておくことが望ましいといえます。
特に、労働者に情報通信機器、作業用品その他の負担をさせる定めをする 場合には、当該事項について就業規則に規定しなければならないこととされ ております。(労働基準法第89条第5号)

Q.8 テレワーク中の休憩時間について

テレワーク中の労働者の休憩時間については、どのように取り扱えばよいでしょうか?
 
A. 労働基準法第 34 条第2項では、原則として休憩時間を労働者に一斉に付与することを規定しておりますが、テレワークを行う労働者について、労使協定により、一斉付与の原則を適用除外とすることが可能です。

Q.9 フレックスタイム制について

時差出勤やテレワークの実施に伴い、日々の始業・終業時刻を柔軟に取り扱うことは可能でしょうか?
 
A. 時差出勤やテレワークの実施により、個々の労働者で始業・終業が異なることが想定されますが、このような場合には、フレックスタイム制の導入が有効です。この制度は、1日の労働時間帯を、必ず勤務すべき時間帯(コアタイム)と、その時間帯の中であればいつ出社または退社してもよい時間帯(フレキシブルタイム)とに分けるものです。なお、コアタイムは必ず設けなければならないものではありませんので、全部をフレキシブルタイムとすることもできます。

Q.10 年次有給休暇について

新型コロナウイルスの影響によって会社としての事業も縮小しているため、これを機に労働者に対して有給を消化させたいと考えているが、法的に問題はありますか?
 
A. 年次有給休暇は、原則として労働者の請求する時季に与えなければならないものなので、使用者が一方的に取得させることはできません。この場合、労働者に対し、有給消化を推奨することは可能ですが、強制することはできないので注意が必要です。

Q.11 労働者の健康状態の把握について

会社として、労働者の現在の健康状態を把握しておきたいと考えておりますが、どのような措置を講じたらよいでしょうか?
 
A. 会社は、企業秩序維持の観点から必要な措置を講じる権限を有しておりますので、新型コロナウイルスによる感染拡大を防ぐため、労働者に対し、体温や咳の有無など、健康状態の報告を求めることができます。
もっとも、報告を求める内容については、労働者のプライバシーに配慮する必要があります。例えば、勤務外における行動範囲の全てを報告するように求めるのは、プライバシーの観点から問題があるといえます。

Q.12 事業縮小に伴う解雇

新型コロナウイルスの影響で会社の事業が縮小したため、これに伴い労働者を解雇したいと考えているが、どのような点に注意しなければならないですか?
 
A. 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効となります(労働契約法第16条)。特に、経営上の理由による解雇(=整理解雇)は、通常の解雇よりも要件が厳しく、判例上、次の4つの要素をもとに判断されます。
①人員整理を行う必要性、
②解雇を回避するための措置が尽くされているか
③解雇対象者の選定基準が客観的・合理的であるか
④労働組合との協議や労働者への説明が行われているか
 新型コロナウイルスによる事業縮小を理由とする解雇を検討する際には、雇用調整助成金の特例措置による給付を検討するとともに、労働者に個別のヒアリングを行い、上記4つの要素に照らし慎重に検討する必要があります。

Q.13 事業縮小に伴う雇い止め

新型コロナウイルスの影響で会社の事業が縮小したため、これに伴い有期契約労働者を雇止めにしたいと考えているが、どのような点に注意しなければならないですか?
 
A. 有期契約労働者から、労働契約の更新の申込みがあった場合、その方の雇止めについては、以下の??に当たると認められる場合には、使用者が雇止めをすることが、『客観的に合理的な理由』を欠き、『社会通念上相当』であると認められないときは、使用者は、これまでと同一の労働条件で、その申込みを承諾したものとみなされます(労働契約法第19条)。
(1) 過去に反復更新された有期労働契約で、その雇止めが無期労働契約の解雇と社会通念上同視できると認められるもの 
(2) 労働者において、有期労働契約の契約期間の満了時にその有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があると認められるもの
  経営上の理由による雇止めは、整理解雇に準じて判断がなされるため、Q12と同様に、判例が示す4つの要素に照らし慎重に検討する必要があります。

Q.14 事業縮小に伴う内定取り消し

新型コロナウイルスの影響で会社の事業が縮小したため、これに伴い内定者の内定を取り消したいと考えているが、どのような点に注意しなければならないですか?
 
A. 一般に、採用内定については、内定を出した段階で解約権留保付の労働契約が成立していると解されます。そのため、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効となります。経営上の理由による内定の取り消しは、整理解雇に準じて判断がなされるため、Q12と同様に、判例が示す4つの要素に照らし慎重に検討する必要があります。

Q.15 再雇用を前提とする解雇と、失業手当の受給について

労働者を一旦解雇して失業手当を受給してもらい、需要が見込めるようになったら再雇用することを検討しておりますが、問題点はありますか。
 
A. 雇用保険の基本手当は、再就職活動を支援するための給付です。再雇用を前提としており従業員に再就職活動の意思がない場合には、支給されません。
また、解雇した場合に、その者は社員でなくなることから、国民健康保険・国民年金加入に伴う届出等の手続上の負担、将来受給できるはずであった報酬比例部分の年金額の減少などが生じます。その他、退職後にケガや病気にかかった場合等には、再就職に向けた求職活動などの際に支障となるリスクも懸念されます。
 
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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