2024.01.29

無断欠勤が続く社員について解雇を検討する際の注意点を解説

弁護士 吉田 翼
 
このコラムでは、無断欠勤が続く社員に対して会社が普通解雇を検討する際の注意点についてまとめたうえで、対応の流れについて解説します。
 

1. 会社が取り得る手段

労務提供は労働契約における労働者の基本的な義務です。その為、無断欠勤(=労務提供義務の不履行)の継続は解雇事由となり得ます。
また、就業規則において、懲戒事由として「正当な理由なく無断欠勤が〇日以上に及ぶとき」「正当な理由なくしばしば欠勤をしたとき」というように、欠勤を懲戒事由とする旨の規定がある場合には、懲戒処分(戒告、けん責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇等)の対象ともなり得ます。
以下、普通解雇の手続きを取るに当たっての注意点について解説します。

2. 無断欠席を理由とする普通解雇について

(1) 普通解雇とは

解雇は、①客観的に合理的な理由を欠き、②社会通念上相当であると認められない場合には、権利の濫用として無効となります(労働契約法第16条)。
解雇の客観的合理性(①)については、能力不足・成績不良、勤怠不良、心身の傷病、規律違反、命令違背、非違行為、経営上の必要性など、解雇理由として合理的と考えられる事情が存在することをいうものと解釈されています。
社会通念上の相当性(②)については、①の事情の内容や程度、使用者側の事情や対応、他の従業員への取扱いの均衡、不当動機の有無といった諸事情を総合的に考慮して、判断されます。
無断欠勤のケースでは、主に、規律違反及び勤怠不良を理由として、解雇を検討することになりますが、無断欠勤をもって直ちに解雇が有効とされるものではなく、②の上記事情を勘案したうえで、判断されるものとなります。

(2) 無断欠勤を理由とする普通解雇の有効性判断に当たって考慮される事項

無断欠勤を理由とする普通解雇の有効性判断に当たっては、以下のような事情が考慮されます。
 
・欠勤の回数・期間・理由
・指導の有無及びこれに対する改善・改悛の有無
・業務に及ぼした影響の程度
・従前の勤怠管理の厳格さ
・他の従業員への取扱い
・勤務成績や勤務態度
 
もっとも、上記いずれかの事情があれば有効であり、なければ無効といったものではなく、総合的に考慮されるものであるため、事案ごとの検討が必要となります。

(3) 無断欠勤を理由とする解雇が有効とされる無断欠勤期間の目安

労働基準局長による通達(昭和23年11月11日基発1637号、昭和31年3月1日基発第111号)によれば、解雇予告手当の除外事由となる「労働者の責めに帰すべき事由」の例として、「2週間以上正当な理由なく無断欠勤し,出勤の督促に応じない場合」が挙げられており、この2週間という期間が一つの目安にはなります。
もっとも、不出勤(≠無断欠勤)に正当な理由があり、無断欠勤とは認められないケースもありますので、不出勤が2週間以上継続したことをもって、直ちに解雇が有効とされるものではないことに注意が必要です。

(4) 解雇が無効とされた場合のリスク

解雇が無効とされると、解雇以降の賃金について、支払を命じられるリスクがあります。敗訴した場合、1年以上の賃金相当額の支払いを命じられることも珍しくありません。

3. 社員への対応の流れ

(1) 事実確認

欠勤を続ける場合には、社員に対して、まず欠勤理由を確認することが重要です。
特に、以下の理由による欠勤の場合は、注意が必要です。

ア 業務命令を理由とする欠勤

不出勤の理由について、業務命令に従った自宅待機であると主張される場合や、配転命令等の業務命令が違法であるため従う必要がないと主張される場合が考えられます。
それぞれ、業務命令の存否及び有効性が問題となるため、この点を確認する必要があります。

イ セクハラ、パワハラ、いじめ等の職場環境を原因とする欠勤

会社は、労働者に対して、安全配慮義務、職場環境配慮義務を負うため、欠勤の原因が職場環境にある場合、欠勤を理由とした解雇は無効とされる可能性が高くなります。 

ウ 怪我又は病気(精神疾患含む)による欠勤

・怪我又は病気が業務上のものである場合
労働者の欠勤理由が、業務上の負傷又は疾病である場合には、療養のために休職する期間」及び「その後30日間」は、基本的に解雇することができません(労働基準法第19条第1項)。
ただし、「療養開始後3年間を経過しても負傷又は疾病がなおらない場合においては」、会社が打切保障を支払って、解雇できる余地があります(労働基準法第81条、第75条、第19条第1項)。
 
・怪我又は病気が業務外のものである場合
労働者の欠勤理由が、業務外の負傷又は疾病である場合には、上記労働基準法第19条第1項の問題は生じません。
もっとも、労働協約や就業規則で休職制度が定められている場合、会社は定めに従って、休職命令を出すことになります。
休職制度は法律上義務づけられているものではなく、任意に定めるものですが、就業規則に定めがあることが多く、確認が必要です。また、厚労省のモデル就業規則においても、休職に関する規定は設けられています。

(2) 証拠の収集・保全

裁判に備えて、無断欠勤の証拠を収集・保全しておく必要があります。
具体的には、
・出退勤記録(出勤簿、日報、タイムカード、勤怠入力システム等)
・当該従業員とのやり取り(出社命令に応じないことを示すもの)
といった証拠を保全することが重要です。

(3) 処分の検討・決定

聴取した事実関係と証拠を踏まえて、解雇が可能か、或いは他の懲戒処分が可能かの検討を行います。
普通解雇が可能な場合であっても、後の紛争リスクの低減という観点からは、合意退職によることが望ましい場合もあり、その場合には退職合意書へのサインや退職届の提出を促すことが考えられます。
もっとも、退職の強要にならないよう配慮が必要です。

3. まとめ

無断欠勤社員について、解雇を検討される場合には、欠勤理由を確認することが必要です。また、主張された理由によっては、前提となる業務命令の有効性や、怪我や病気の業務起因性等の検討を行わなければならないこともあります。
その為、解雇を検討される際は、一度弁護士に相談されることをお勧めします。

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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