2024.04.22

相続における不動産の評価

弁護士 三浦 裕和
 
相続人の間で遺産分割協議を行う際、誰が不動産を取得するか、不動産をいくらと評価するべきか、という問題で揉めることがよくあります。
不動産を取得したい相続人は、できるだけ他の相続人に支払う代償金を少なくしたいという気持ちがあるため、できるだけ低く評価したいと考えます。その一方で、不動産を取得しない相続人は、もらえる代償金の額を増やすため、できるだけ高く不動産を評価したいと考えます。
本コラムでは、相続に詳しい弁護士が相続の際、不動産がどのように評価されるのかについて説明いたします。
 

1. 不動産の評価額は複数ある

不動産に馴染みのない方にとっては非常に分かりにくいところですが、「不動産の評価額」というのは、算定目的や算定機関によっていくつかの種類に分かれます。

(1) 公示価格

国土交通省が毎年発表する標準的な土地の価格です。国土交通省の土地鑑定委員会が、標準的な地点(標準地)を選んで、標準地の1平方メートルあたりの金額を評価します。実際の不動産取引の金額を定めるのに基準となる価格ですが、実際の取引価格は、具体的な取引事例や市場情報等を加味して算出されるため、実際の取引価格と同じではありません。

(2) 固定資産税評価額

地方自治体が固定資産税を算出するために課税基準として用いる価格です。固定資産税の納税通知書や課税証明書で確認することできます。実際の取引価格よりも安い(公示価格のおおよそ7割ほど)価額であることが多いです。

(3) 路線価

国税庁が発表する相続税や贈与税を算出するために、課税基準として用いる価格です。道路に面する標準的な宅地の1平方メートル当たりの金額を評価します。相続税評価額ともいわれます。実際の取引価格よりも安い(公示価格のおおよそ8割ほど)の価額であることが多いです。

(4) 実勢価格(取引価格)

実際に不動産を取引するときの価格のことです。公的な機関が定める金額ではないため決まった金額はありません。また、その算定方法も市場や他の取引事例との比較など様々な方法によって算定することができるため、評価者・評価方法によって大きく金額が変わります。

2. 遺産分割の際に使用される評価額は何?

遺産分割を行う際に用いられる評価額は、実勢価格(取引価格)です。相続人のうちの一人が取得するのではなく第三者に売却した場合、その売却した額(すなわち取引価格)が遺産分割の対象となることを考えれば、分かりやすいでしょう。
ちなみに相続税申告書に記載される不動産の評価額は、実勢価格ではなく、「路線価」(相続税評価額)です。相続人間の話し合いで、相続税申告書に記載された路線価を基準に遺産分割を行うことは可能ですが、話し合いで解決することができず裁判所で話し合いがされる場合は、実勢価格を基準に遺産分割を行います。

3. 相続税に影響はある?

遺産分割を行う際、相続人どうしで不動産を高く評価してしまうと、支払わなくてはならない相続税の額が増えてしまうのではないか、と心配して、不動産の評価を争うことをためらう方がいらっしゃいます。しかし、遺産分割の話し合いで不動産をどのように評価しても支払うべき相続税の額には影響がありませんので、ご安心ください。

4. 実勢価格はどうやって計算するか?

裁判所が最終的に不動産の実勢価格を判断をする場合は、不動産鑑定士に依頼して鑑定書を作成して、不動産の評価額を定めることになります。相続人間の話し合い段階でも、不動産鑑定士に依頼して鑑定書を作成することがあります。
もっとも、鑑定書を作成するには、不動産鑑定士が不動産鑑定評価基準に基づいて厳格に不動産の評価額を調査する必要があるため、多額の費用が発生します。そのため、不動産業者に査定書を作成してもらい、その金額を参考にして遺産の評価額を話し合いで定めることもあります。

5. まとめ

本記事では、相続の際の不動産がどの様に評価されるかについて、弁護士が解説しました。
不動産は非常に高価な財産でありながら、その評価方法や話し合いによって大きく評価額が変わります。それによって、分割される遺産の金額も大きく変わってきます。
遺産のなかに、不動産がある場合は、早めに相続・不動産に詳しい弁護士に相談しましょう。
 
 
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

虎ノ門法律経済事務所の弁護士コラムのページへようこそ。
弁護士相談・法律相談を専門とする虎ノ門法律経済事務所では、遺産相続の解決事例も豊富であり、お客様それぞれのお悩み・トラブル内容に沿った弁護士をご紹介することで、トラブル解決の最後までスムーズに進めることを目指しております。
遺産相続だけではなく、他の様々な相談内容にも対応しておりますので、ぜひお気軽にご連絡・ご相談ください。