2024.04.01

所有者不明土地(建物)管理命令の制度について

弁護士 加唐 健介
 

1. 所有者不明土地(建物)とは

現在の日本は、高齢化の進展・地方から都市部への人口移転を背景に、所有者が不明な土地や建物が増えています。
土地や建物の所有者を公示するものとして、「不動産登記簿」がありますが、土地の所有者が亡くなった際に「相続登記」がされていないこと等により、登記簿上の記載が正しい所有関係の実態を反映していない事案が多くあるのです。
このような事案では、本来の所有者が判明するまでに大きな労力が必要となり、判明した場合でも、遺産相続に伴う共有関係になっていることも多く、処分や円滑な管理を行うのが困難となっています。
日本全国にある所有者不明土地を集めると、九州の面積に匹敵するともいわれており、大きな社会問題になっています。

2. 立法の経緯

こうした問題に対して、解決メニューが用意されていなかったわけではありません。民法には、不在者財産管理制度(民法25条1項)、相続財産清算人制度(民法952条)があります。前者は、行方の知れない所有者の代わりとなる管理人を裁判所が選任する制度で、後者は、所有者全員が相続放棄するなどして相続人が不存在になった場合に相続財産の管理人を裁判所が選任する制度です。
 
しかし、ある不動産の所有者に何度も相続が発生するなどして、相続人が多数となった場合、一つの不動産につきその相続人ごとに管理人が選任されることになります。管理人に対しては一定の報酬支払が発生するため、申立には費用の予納が必要となるため、金銭面のコストも大きくなるという問題がありました。相続財産清算人も、相続人不存在の場面に限定されるのと、被相続人の全ての財産の調査が必要となるという問題がありました。
 
そこで、令和3年4月、所有者不明土地(建物)管理制度を内容とする民法の改正が成立しました。今回の民法改正には、所有者不明土地(建物)管理制度の導入のほかにも、相隣関係、共有、遺産分割に関する制度の改正も含まれておりますが、いずれも所有者不明土地問題が背景にあります。
 
この改正により、令和5年4月1日から、所有者不明土地(建物)管理命令の制度が施行されました。

3. 制度利用のための要件

裁判所が所有者不明土地(建物)管理命令を発令するための要件は、

① 所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないこと
② 必要があると認められること
③ 「利害関係人」による申立て

です。以下、簡単に説明します。

① 所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないこと

「所有者を知ることができ」ない場合には、所有者が死亡していて相続人が判明しない場合や相続人全員が相続放棄した場合を含みます。
また、「所在を知ることができない」といえるためには、登記簿上及び住民票上の住所に居住しているかどうかを調査する必要があるといわれています。
相続などで土地(建物)が数人の共有に属する場合に、共有持分を有する者を知ることができず、その所在を知ることができない場合には、その共有持分について管理命令を発することができるとされています。

② 必要があると認められること

「必要があるとき」か否かは、裁判所が当該土地の状況を踏まえて判断します。第三者が適法な権限をもとに管理している場合などは除かれます。

③ 「利害関係人」による申立て

申立権を有する「利害関係人」には、土地(建物)が適切に管理されないことにより不利益を被るかもしれない隣地所有者や時効取得を主張する者も含まれるとされています。また、当該土地(建物)の買受を希望する民間事業者も、利害関係人として認められうるとされています。従来の不在者財産管理人や相続財産管理(清算)人よりも広く申立権が認められている点がポイントです。

4. 今後の展望

筆者自身も、昨年、借地上の建物の所有者が亡くなり、相続人が相続放棄されたケースで、所有者不明建物管理命令を申し立てた経験があります。無事本年初頭には解決しましたが、管理人の権限が及ぶ範囲など難しい点があり、どの程度有用性を持つかは不透明な面もあります。もっとも、利用件数が増えることで、知見が集積されることは間違いありませんので、今後とも積極的に活用したいと考えております。

 
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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