2024.02.28

事故物件~どんな場合に告知しなければいけないの?

弁護士 渡辺 菜穂子
 

1. 「事故物件」の法律問題

物件に起きた過去の事故の内容を、告知をしなければならないのに告知せず、賃貸・売買契約を締結した場合、借主・買主から、
 
・告知義務違反に基づく損害賠償請求
・告知義務違反に基づく契約の解除
・対象物件に「心理的瑕疵」(契約不適合)があるとして、契約の解除や損害賠償請求

 
といった、様々な請求を受け、紛争に発展する可能性があります。
場合によってはこれらの請求の全部・一部が認められることもあります。
 
したがって、不動産賃貸業を営む場合、
「何が事故物件なのか」
「どういう事態になったら、入居者に告知しないといけないのか」
「一度事故物件になったら、ずっと告知しないといけないのか」
については、大きな関心があると思います。

2. 2021年の国交省「告知ガイドライン」

国交省は、2021年10月に、「宅地建物取引業者の人の死に関する告知ガイドライン」を公表しました。
 
もっとも、これはあくまで
 
・宅地取建物取引業者の告知基準
・対象は居住用住宅のみ(オフィス物件等は対象外)
・「告げなくてもよい類型」の列挙

 
のガイドラインです。

つまり、売主・貸主としての告知義務をダイレクトに規律する基準ではなく、また、告知義務がある場合を明確に定義したものでもありません。
 
ただし、このガイドラインは、「現時点における裁判例や取引実務に照らし、一般的に妥当と思われるものを整理しとりまとめたもの」とされています。
そして、このガイドラインにおいて、「告知義務がない類型」に該当しない場合、取引を仲介する宅建業者には、「告知義務がある」とされています。
 
仲介業者に告知義務がある、と判断されるような類型である場合は、取引当事者である売主・貸主の義務としても、「告知義務がある」と判断される可能性は高いと思われます。
また、告知義務がある類型において告知せずに取引した場合には、法的には取引対象物に、「瑕疵」「契約不適合」があるとされる可能性があり、売主・貸主は、買主・借主から、解除・代金減額・損害賠償請求等の法律上の請求を受けるリスクがあると考えられます。
 
したがって、宅建業者のみでなく、売主・貸主も、取引において、上記ガイドラインを参考にして、告知するか否かを判断する必要があります。

3. ガイドラインの図示化

ガイドラインの判断枠組みは、① 死因と、② 人の死が発生した場所、③ 時の経過 の3点を基礎に、判断する仕組みになっています。
 
まず

① 死因

一般的な死因である、自然死や日常生活上の不慮の死と、それ以外の死因に区別し、告知義務が生じるのは、後者のみで前者については原則として告知義務はないとしています。もっとも、前者であっても、遺体が放置されて特殊清掃・リフォーム等に至ったケースでは、告知義務があるとしています。
 
次に

② 人の死が発生した場所

人の死が発生した場所が、取引対象物かそれ以外かで区別し、取引対象物及び取引対象物と共に人が通常使用する一定の共用部分(ベランダや住居前廊下、エレベーター等が想定されています)で発生した場合以外は、原則として、告知義務がないとしています。
但し、共用部分であっても、人の死の発生した事件が、事件性・周知性・社会に与えた影響が特に高い事案(つまり、マスコミ報道があった事案)については、告知義務が生じうるとしています。
 
そして

③ 時の経過

死の発覚から3年が経過した場合、賃貸取引においては、告知義務がなくなるとしています。もっともこの場合も、事件性・周知性・社会に与えた影響が特に高い事案は、告知義務が生じうるとしています。
 
ガイドラインの文章は、やや分かりにくいようにも思われますので、ガイドラインの内容を整理して図示すると、概ね以下のようになります。

不動産の売買 告知のガイドライン

 
※本記事・画像の無断転載を禁じます。
 

但し、上記の図で告知義務がない場合であっても、貸主・買主から質問された場合は、告知義務が生じる場合があるという点には注意が必要です。
 
告知義務に関しては、「ある事実を告げることで、買主・借主の取引の有無・内容に重大な影響があると考えれられる事情がある」と言える場合で、その事実を認識しながら、敢えて、その事実を秘匿したり、虚偽の事実を告げたような場合には、「告知義務違反」の違法があると判断されるようなケースがあります。
 
具体的には、
 
① 上記の赤枠範囲外の人の死の事案であっても
② その事実を、売主・貸主が認識しており
③ その事実の有無について、敢えて借主・買主から問われた場合

 
借主・買主にとっては、その事実が取引判断において重要だと考えて質問していることは、認識できるわけです。
それならば、少なくとも知っている事実を、正直に答えずに敢えて虚偽の情報を与え、取引をさせたような場合は、売主・貸主側に、「騙して取引させた」と評価されるような事情があるわけですから、そのことを、違法だと評価される場合があり得るということです。

4. 最後に

上記ガイドラインを参考にしても、個々の取引において、売主・貸主に告知義務があるか、告知しなかったことが違法であるか、告知すべき場合にどの程度告知しなければならないか、不告知で行われた売買・賃貸等で、売主・貸主に対してどのような請求ができるか等については、ケースバイケースです。
疑問がある場合には、当事務所にご相談ください。
 
 
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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