2022.02.04

建物明渡請求訴訟における占有移転禁止仮処分

弁護士 山村 憲司
 

1. はじめに

建物の所有者Aが、その建物をBに賃貸していたところ、Bが賃料を長期間滞納し、未払賃料の支払や建物退去を催告しても応じません。このような場合、AはBとの建物賃貸借契約を解除し、Bを被告として、建物明渡請求訴訟を提起することが考えられます。
Aは勝訴の確定判決を得れば、Bに対して建物明渡しの強制執行をすることになります。
しかし、Aが勝訴の確定判決を得ても、訴訟中にBがAに無断でCに建物を転貸する等、建物の占有をCに移転していた場合には、Cに対して強制執行できないおそれがあります。
そうなるとAは、再度Cを被告とする建物明渡請求訴訟を提起せざるを得なくなります。そして、Cもさらに第三者Dに建物の占有を移転するかもしれません。悪質な賃借人は、そのように賃貸人の権利行使を妨害します。

2. 占有移転禁止の仮処分とは

上記のような不都合を防ぐために、建物明渡請求訴訟の提起前に、占有移転禁止の仮処分を行うことが考えられます。
占有移転禁止の仮処分は、裁判所の民事保全制度の一種で、建物明渡訴訟の被告となる占有者を訴訟前に固定し、勝訴判決後の強制執行に備えるための手続です。
 
上記の例で言うと、占有移転禁止の仮処分により建物の占有者がBに固定されるため、仮処分後にCやD等の第三者が建物の占有を取得したとしても、Aは、Bに対する建物明渡訴訟の勝訴判決に基づいて、BだけでなくCやDに対しても、建物明渡しの強制執行をできることになります。
建物に賃借人B以外の第三者Cが出入している場合や、賃借人Bが本当に居住しているか確認できない場合等には、占有移転により強制執行できなくなる可能性が高いため、占有移転禁止の仮処分を行う必要性が高いと考えられます。

3. 占有移転禁止の仮処分の手続き

占有移転禁止の仮処分の手続は、保全命令手続と保全執行手続の2段階に分かれます。
保全命令手続は、民事保全をするかどうかを審理、判断する段階であり、保全執行手続は保全命令手続で出された命令を執行する段階です。

(1) 保全命令手続

保全命令手続は、裁判所に占有移転禁止仮処分申立書を提出して行います。
申立が認められるためには、賃貸借契約終了等に基づく建物明渡請求権(被保全権利)が存在し、かつ、訴訟中に占有者が変わり強制執行ができなくなるおそれや著しく困難になるおそれがあること(保全の必要性)について、疎明することが必要です。
疎明とは、裁判官に確信とまではいかないが、一応確からしいという推測を得させる程度の証拠をあげることです。
このため上記の例で言うと、Aは、Bとの賃貸借契約書、Bの賃料の入金履歴、Bへの解除通知書、建物の図面、Bの住民票、Aによる報告書等の証拠資料を提出します。
 
通常の場合、申立書提出から数日で仮処分命令が出ますが、その前にAは担保(保証金)を法務局に供託する必要があります。これは仮処分によってBが受ける可能性のある損害を補償するためのもので、裁判所の裁量により、賃料1~3か月分程度の金銭等の供託を求められます。なお、建物明渡訴訟でAの勝訴判決が確定した場合等には、担保の取消しにより、Aは供託した金銭等を取戻すことになります。

(2) 保全執行手続

裁判所から占有移転禁止仮処分命令が出ると、裁判所の執行官に占有移転禁止仮処分の執行申立書を提出します。申立書が受理され、3万円程度の保管金(予納金)納めた後、担当の執行官と仮処分執行日時の打ち合わせをします。
執行当日は、執行官が、建物の中に入って占有者や占有状況を調査し、占有移転禁止の仮処分命令が出ていることを記載した書面を、建物内の見えやすいところに貼り付けます。執行後は、執行官から仮処分調書の謄本が郵送されます。

4. おわりに

建物明渡請求訴訟の提起にあたり、占有移転禁止の仮処分が必要かどうかは十分な検討を要します。また、仮処分申立書の作成や資料の収集等の手続を誤れば、仮処分の手続きやその後の訴訟も円滑に進まない等により、建物所有者の損失が拡大するおそれがあります。
当事務所は1972年の創立以来、多くの不動産トラブルを扱い、建物明渡請求訴訟の実績も豊富です。長年のノウハウと解決実績がある当事務所にぜひご相談ください。

 
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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