2025.06.02

遺産分割協議などの遺産相続の手続き期限は?過ぎた場合の対処や注意点まで解説

※2024.04.10公開、2025.06.02更新

遺産相続の手続きには、限定承認や相続税申告など期限が定められているものも多くあります。期限を過ぎると延滞税やペナルティの対象になることもあるため、適切な時期に対応することが重要です。
本コラムでは、相続手続きの各種期限や過ぎた場合のリスク、さらに注意点について弁護士が詳しく解説します。
 

目次

1. 遺産相続の手続の期限とは

2024年4月から相続登記が義務化され、遺産分割協議後3年以内の申請が必要となりました。未登記には過料が科される可能性があります。
相続登記が義務化されました(令和6年4月1日制度開始)~なくそう 所有者不明土地 !~」(東京法務局)

【相続手続の期限はいつから始まる?】

遺産相続の手続に期限がある場合、その期限のカウントダウンは、いつから始まるでしょうか。
各手続の内容については後に詳しくご説明しますが、限定承認、準確定申告及び相続税の申告など多くの手続においては、(被相続人が亡くなった日そのものではなく、)「自分のために相続があったと知った日」が、期限のカウントダウンの始まる日となります。
 
以下では、相続を承認する場合と放棄する場合とに分けて説明します。
 
【相続を承認する場合】

(1) 期限のある手続:死亡診断書 → 7日

死亡診断書は、医師によって死亡が確認された際に作成される書類で、死亡届の提出や火葬許可申請など、死亡後の各種手続きの基礎となる重要な書類です。
死亡診断書自体には提出期限はありませんが、これをもとに役所に死亡届を提出する必要があるため、速やかに受け取っておくことが重要です。医療機関で死亡した場合には病院が発行してくれますが、自宅などで死亡した場合には、かかりつけ医または警察を通じて発行を受ける必要があります。

(2) 期限のある手続:死亡届 → 7日

死亡届は、死亡診断書と併せて市区町村役場に提出する書類で、死亡が戸籍に記載されることになります。提出期限は、死亡の事実を知った日から7日以内です(戸籍法第86条)。
通常は遺族が提出しますが、同居人や家主、地主、管理人なども届出義務者とされます。提出が遅れると過料が科される可能性があるため、速やかに手続を行う必要があります。

(3) 期限のある手続:火葬許可申請書 → 7日

火葬許可申請は、死亡届と同時に提出されることが一般的で、市区町村の役場で行います。死亡届が受理されると、火葬許可証が発行され、これを火葬場に提出することで火葬が実施されます。
法律上、火葬は死亡後24時間以内に行うことができず、許可証がないと火葬できません。そのため、死亡届と同時に火葬許可申請を速やかに行う必要があります。これらの書類は葬儀社が代行するケースも多いため、葬儀社と連携して対応するとスムーズです。

(4) 期限のある手続:限定承認 → 3ヶ月

被相続人の財産状況によっては、プラスの財産(預貯金や株式、貴金属など)とマイナスの財産(借金など)とのどちらが多いか分からない場合があります。
限定承認は、そのような場合に、相続人が相続したプラスの財産の範囲内で、マイナスの財産の債務を引き継ぐ相続方法です。
 
限定承認は、相続の開始があったことを知った日の翌日から3カ月以内に、家庭裁判所に申し立てをしなければなりません。
ただし、限定承認は相続人全員で申立てをする必要があることもあり、利用されるケースはそこまで多くありません。

(5) 期限のある手続:準確定申告 → 4ヶ月

被相続人が自営業者であったり家賃収入・株式配当があって所得があったりする場合、被相続人の死亡した年の所得税を申告する必要があります。この手続を「準確定申告」といいます。
準確定申告は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4カ月以内に、管轄の税務署で行う必要があります。この期限を過ぎると、延滞税がかかってしまうので、注意が必要です。
準確定申告は、各相続人が共同で手続をしてもよいですが、1名の相続人が他の相続人の氏名を付記して代表で手続を行うこともできます。
ただし、もし被相続人について、死亡した年の所得が所得税の発生しない範囲内であった場合には、準確定申告は必要ありません。

(6) 期限のある手続:相続税の申告と納付 → 10カ月

相続税は、相続した遺産の額に応じて発生する税金です。
相続した財産のうち、正味の遺産の総額が相続税の基礎控除額を超える場合には、相続税が発生し、納付をしなければなりません。
 
相続税の申告は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10カ月の期限内にする必要があります。
相続開始を知った日から10カ月以内に相続税を申告しないと、延滞税が課せられたり、税金の軽減・猶予制度が利用できなかったりするというデメリットが発生しますので、注意が必要です。
(そのような事態にならないよう、安全策として、「被相続人が死亡した日から10カ月」を実際上の期限として申告の準備を進めることが多いです。)

(7) 期限のある手続:(遺留分を侵害された場合)遺留分侵害額の請求 → 1年

遺留分は、配偶者や子ども、また親や祖父母といった相続人が、最低限相続できる金額と割合のことです。
遺言がある場合に、遺言どおりに遺産を分割すると十分に財産を取得できない法定相続人が、自己の利益(遺留分)を侵害されてしまうことがあり得ます。遺留分の権利は、そのような場合に、遺留分を侵害された相続人が、侵害している人に対して、自らの取り分を請求することによって行使します。これを、遺留分侵害額の請求といいます(民法の改正前は「遺留分減殺〔げんさい〕請求」と呼ばれていました)。
遺留分侵害額の請求は、相続の開始と遺留分の侵害の事実を知った日の翌日から1年間の期限内に行う必要があります。

(8) 期限のある手続:高額療養費申請 → 1年

高額療養費制度は、1カ月あたりの医療費が自己負担限度額を超えた場合に、超過分が払い戻される制度です。
被相続人が生前に高額な医療費を支払っていた場合、相続人がその分を請求することができます。申請期限は、対象となる医療費を支払った月の翌月の初日から1年間です。
期限を過ぎると申請できなくなるため、早めの確認と手続きが重要です。加入していた健康保険組合または市区町村の窓口に問い合わせて、必要書類を準備しましょう。

(9) 期限のある手続:葬祭費 → 1年

被相続人が国民健康保険または後期高齢者医療制度に加入していた場合、その人が亡くなると、葬儀を行った人(喪主など)に対して「葬祭費」が支給される制度があります。
支給額は市区町村によって異なりますが、概ね1万円から7万円程度です。申請期限は、死亡日の翌日から2年以内とされている自治体もありますが、多くの自治体で1年以内とされています。
必要書類として、死亡診断書のコピー、領収書、申請者の本人確認書類などが求められるため、早めに準備しておくと安心です。

(10) 期限のある手続:不動産の相続登記(2024年4月1日以降) → 3年

2024年4月1日から、土地や家といった不動産を相続した場合に、相続登記をすることが義務化されます。改正された不動産登記法が2024年4月1日から施行されることによるものです。
具体的には、遺産である不動産を取得した場合、相続開始を知り、なおかつ遺産である不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に、その不動産について相続登記を行わなければなりません。
この不動産の相続登記の義務化は、2024年4月以後に遺産である不動産を取得した場合だけでなく、2024年4月以前に取得した場合にも適用されることに注意が必要です(ただし、2024年4月以前に相続したケースでは、2027年3月末まで猶予期間が認められます)。
 
3年以内に相続登記をしない場合、法務局から登記申請を促す催告が送られてきます。その催告に正当な理由なく応じない場合、裁判所が10万円以下の過料を科すという仕組みとされています。
法務省によると、正当な理由としては、以下の場合などが想定されています。

① 相続人が極めて多数に上り、かつ、戸籍などの書類の収集や他の相続人の把握に多くの時間を要する場合
② 遺言の有効性や遺産の範囲などについて、相続人の間で争いがあるため、誰が不動産を取得するか明らかにならない場合
③ 相続登記の義務を負う人に、重病やこれに準ずる事情がある場合
④ 相続登記の義務を負う人がDVの被害を受けており、その生命や心身に危害が及ぶおそれがあって、避難を余儀なくされている場合
⑤ 相続登記の義務を負う人が経済的に困窮しているため、登記申請を行うための費用を工面できない場合

 
【相続を放棄する場合】

(11) 相続放棄 → 3ヶ月

被相続人の遺産のうち、プラスの財産よりもマイナスの財産の方が多い場合や、どのような財産が残っているのか不明で相続をしたくない場合には、「相続放棄」をすることができます。
相続放棄を行うと、プラスの財産も相続できない反面、マイナスの財産も一切相続せずに済みます。
相続放棄は、相続開始があったことを知った日の翌日から3カ月の期限内に、家庭裁判所に申し立ての書類を提出する方法によって行います。

2. 遺産相続の手続の期限を過ぎてしまった場合

相続手続を期限内に行わなかった場合、いくつかのデメリットが生じます。以下、具体的にどのようなデメリットが生じるかを説明します。

(1) 税の軽減・猶予制度の適用が受けられなくなる

相続税の申告は、相続開始を知った日の翌日から10カ月以内と定められています。この期間内に遺産分割協議が成立しない場合もありますが、そのような場合でも未分割であるとしていったん法定相続分で分割したと仮定して相続税の申告と納付を行うことになります。もし、申告と納付を適切に行わないと、税金の軽減・猶予制度が利用できなくなります。
代表例として、以下の制度が利用できなくなります(順不同です)。

① 配偶者の税額の軽減
② 農地等の納税猶予の特例
③ 小規模宅地等の特例

(2) (相続税の申告の場合)延滞税がかかる

相続税を申告期限までに納付しないと、完納までの期間、延滞税が発生します。延滞税の利率は、納期限から時間が経つことによって変化(上昇)していきます。

(3) (不動産を相続した場合)過料に処せられる

上述のように、2024年4月以降は、不動産を相続した場合に、3年以内に相続登記をしないと、法務局から登記申請を促す催告が送られます。その催告に正当な理由なく応じないでいると、10万円以下の過料を科せられることがあります。(詳細は、上記「1.(5) 期限のある手続:不動産の相続登記(2024年4月1日以降)」をご覧ください。)

(4) (相続放棄の場合)3カ月以内に放棄をしないと、相続を承認したものとみなされる

相続放棄は、相続開始を知った日から3カ月以内に行わないと、相続をすべて承認したものとみなされます。そうなると、マイナスの財産がどれだけたくさんあっても、それらをすべて承継しなければならなくなります。

3. 期限のない遺産相続の手続とは

(1) 遺産分割協議

相続人の全員の話し合いによって被相続人の遺産の配分を決めることを、遺産分割協議といいます。
遺産分割協議には、特に期限はないので、基本的にはいつ協議が成立しても問題はありません。当事務所においても、1年や2年で終わらず、まれに非常に複雑な事件では5年以上の期間に渡り継続している遺産分割協議の事件があります。
ただし、協議がまとまらない間に被相続人の死後10カ月が経ってしまい、相続税の申告期限が来てしまうことがあります。(その場合の対処法は、上記「2.(1) 税の軽減・猶予制度の適用が受けられなくなる」をご覧ください。)

関連リンク:「遺産分割協議の進め方 とは」

(2) 預貯金の解約・名義変更

被相続人の預貯金を解約して払い戻すことには、特に期限がありません。ですので、遺言で相続人が指定されているときは受取人とされた人が、遺産分割によって相続人を決めたときはその相続人が、金融機関で解約の払戻しを行います。
ただし、10年放置してしまうと休眠預金として扱われ、引出しに人手間かかることになります。

4. 遺産分割協議の期限は民法改正で10年になった?

(1) 遺産分割協議の期限が10年と言われている理由

2023年4月1日施行の民法改正により、相続開始から10年を経過した場合には、原則として特別受益や寄与分を考慮しない単純な法定相続分による分割しかできなくなりました(民法904条の3)。これにより、遺産分割協議そのものに明確な期限が設けられたわけではありませんが、実質的には「10年以内に協議を行うべき」との理解が広がっています。

(2) 期限後の遺産分割のデメリット

相続開始から10年が経過すると、特別受益(生前贈与など)や寄与分(被相続人への特別な貢献)を考慮した分割が原則としてできなくなります。そのため、法定相続分による機械的な分割を強いられ、不公平な結果となる可能性があります。早期に遺産分割協議を行うことで、各相続人の貢献度や実情を反映した分割が可能となります。

5. 遺産分割協議を3年以内に行わない場合のデメリット

(1) 不動産の登記名義変更に関する義務と過料

2024年4月1日施行の不動産登記法改正により、相続開始を知った日から3年以内に不動産の相続登記を行う義務が発生しました(不動産登記法76条の2)。これを怠った場合、正当な理由がない限り、10万円以下の過料が科される可能性があります。遺産分割協議が整わないと登記ができず、名義変更が遅れるため、協議の早期実施が重要です。

(2) 名義変更が遅れることによる実務的な弊害

不動産の名義変更がなされないままでいると、売却や担保設定、賃貸などの法律行為が制限されます。また、将来的に相続人が増えたり相続人の一部が死亡したりすることで、相続関係が複雑化し、協議の成立が困難になることがあります。遺産の価値を活かすためにも、早期の分割と登記手続きが望まれます。

6. 遺産分割協議を3年以内に行わない場合のデメリット

相続税の申告期限は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内とされています(相続税法27条)。この期限までに遺産分割が完了していないと、相続税の軽減措置(配偶者の税額軽減、小規模宅地等の特例など)を受けられない場合があります(相続税法19条の2等)。また、未分割のまま申告すると、一時的に不利な課税がなされ、後に修正申告や更正の請求が必要になることもあります。
手続きの煩雑さや追加税負担を避けるためにも、10か月以内に遺産分割を終えることが重要です。

7. 遺産相続に関することで困っている方へ

以上のように、相続の手続には、期限の決まっているものと期限のないものとがあり、期限があるものについてはそれを守らないとデメリットがあります。
弁護士に相談をすれば、今後の見通しやいま自分がやるべきことを知ることができるようになります。
被相続人がお亡くなりになって、いつまでに何をすればよいのかわからないときは、ぜひ当事務所にご相談ください。

 
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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