2024.04.22

遺産の相続割合の決め方とは?法定相続割合から注意が必要なケースまで紹介

本コラムにおいては、まず、最も関心が高いと思われる相続において相続人が遺産をどのような割合で取得するかという点についてご説明します。
その上で、相続が発生した場合に、誰が(法定相続人)、どのような順番で(相続順位)、どのような取り分の割合により(法定相続分。法定相続割合ともいいます。)、遺産を相続するかについてご説明します。このうち「法定相続分」は、遺産分割協議を行う際の基本で、正しく理解しておくことが重要ですので、この記事では、法定相続分の決まり方や、相続人の構成ごとの相続分の計算などを詳しく解説します。
そして最後に、相続において注意が必要なケースについても解説します。
 

1. 遺産相続の割合の決め方とは?

遺産をどのような割合で分けるかについては、以下の三つの決め方のパターンに分けることができます。

① 遺言者が遺言により決める
②-(1) 遺産分割の際に法定相続分に従って決める
②-(2) 遺産分割の際に、①や②-(1)にこだわらずに決める

以下、それぞれ順に見ていきます。

(1) ① 遺言者が遺言で決める

被相続人が遺言を遺す場合、法定相続分に従って各相続人の相続分を指定することもできますし、法定相続分とは異なる割合を指定することができます。
なお、遺言においては、特定の財産について、特定の相続人に相続させるとの指定をすることもできます。その場合は、その特定の財産は、遺産分割の対象から除外されることとなり、指定された相続人が相続することになります。

(2) ② 遺産分割協議で決める

ア ②-(1) 遺産分割の際に法定相続分に従って決める

遺産分割において、法定相続分に従って割合を決めることが最も基本的な分け方と言ってよいのではないかと思います。法定相続分は、誰が法定相続人となるかによって変わります。法定相続人の組合せとして、以下のパターンがあります。

① 配偶者と子とが法定相続人である場合
② 配偶者と直系尊属(被相続人の父母〔父母ともに死亡している場合は祖父母〕とが法定相続人である場合
③ 配偶者と兄弟姉妹とが法定相続人である場合
④ 配偶者がいない場合

これらの各場合において、法定相続分が具体的にどう決まるかについては、下記「3. 法定相続分の決まり方とは」で詳しくご説明します。

イ ②-(2) 遺産分割の際に①や②-(1)にかかわらずに決める

複数の相続人がいる場合、遺産は、すべての相続人の共有に属するとされています(民法898条)。共同相続人は、被相続人が遺言で禁じた場合などを除き、原則としていつでも、各人の遺産の取り分(分割する割合)を決めることができます(民法907条)。
そこで、遺産分割協議を行う場合、すべての相続人が合意すれば、誰がどの割合でどの遺産を取得するかを自由に決めることができます。たとえ遺言で相続の割合を指定されているときであっても、遺産分割協議においては、その指定とは異なる割合で取り分を決めることができるのです。

2. 法定相続人とは

次に、相続の基本となる法定相続人について説明していきます。
「誰が法定相続人となるか」に関して、民法のルールは、次のように整理できます(民法887条から890条、959条)。
 
① まず、配偶者がいる場合、配偶者は常に相続人となります。
(以下は、①を前提とした上で、その他に相続人となる人の順番です。)
 
②-(1)次に、子がいる場合、子が相続人となります。
(2) 子が先に死亡していた場合でも、その子に子(=孫)がいる場合には、その孫が相続人となります(「代襲相続人」といいます。)。
(3) 子とその孫が先に死亡していた場合には、ひ孫がいるときは、ひ孫が相続人となります(「再代襲相続人」といいます。)。
 
③ 被相続人に子・孫・ひ孫がいない場合に、父母が存命しているときは、父母が相続人となります。
 
④-(1) 父母がいずれも存命していないときは、被相続人の兄弟姉妹が相続人となります。
(2) 兄弟姉妹が被相続人よりも先に死亡していた場合で、兄弟姉妹に子がいるときは、その子が相続人となります(代襲相続)。
 
⑤ 以上①~④に該当する人がいない場合には、一定の手続きを経た後、遺産は最終的に国庫に帰属します(誰が法定相続人となるかということに関係しないため、ここでは詳しい説明は省きます。)。
 
※なお、以上の「・・いない場合」(例えば、③の「被相続人に子・孫・ひ孫がいない場合」など)には、被相続人よりも先に死亡していた場合や、存命であるものの相続を放棄した場合、あるいは相続欠格や廃除によって相続権がない場合も含みます。
 
以上のルールを表に整理すると、次のようになります。
(なお、②-(3)の再代襲相続人については、複雑になるため、下の表では省いています。)

(被相続人に) 配偶者がいる 配偶者はいない
子がいる 配偶者と子 子だけ
子はいないが孫(子の子)がいる 配偶者と孫 孫だけ
子・孫はいないが父母がいる 配偶者と父母 父母だけ
子・孫・父母がいない 配偶者と兄弟姉妹 兄弟姉妹だけ
子・孫・父母・兄弟姉妹がいない 配偶者だけ 最終的に国庫に帰属

3. 法定相続分の決まり方とは

以下では、法定相続人の様々な組合せを想定しながら、具体的なケースも交えて、法定相続分の決まり方を説明します。

① 配偶者と子とが法定相続人である場合

(1) 配偶者と子とが法定相続人となる場合には、配偶者の相続分は2分の1、子の相続分も2分の1です(民法900条1号)。
 
(2) 子が複数人いるときは、配偶者の相続分が2分の1であることは変わらず、残りの2分の1を子の人数によって均等に按分します(民法900条4号本文)。
 
ただし、父母の一方だけを同じくする兄弟姉妹については、法定相続分は、父母の両方を同じくする兄弟姉妹の2分の1とされています(民法900条4号ただし書き。このような扱いの当否については議論がありますが、本稿では立ち入りません。)
 
(3) たとえば、被相続人の遺産が1億円であったとした場合に、被相続人と配偶者との間に子が2人いたときは、法定相続分は次のようになります。
 
配偶者:1億円×1/2=5000万円
子A:1億円×1/2×1/2=2500万円
子B:1億円×1/2×1/2=2500万円

② 配偶者と直系尊属(被相続人の父母〔父母ともに死亡している場合は祖父母〕)とが法定相続人である場合

(1) 配偶者と直系尊属(=被相続人の父母〔父母が死亡している場合は祖父母〕)とが法定相続人となる場合には、配偶者の相続分は3分の2、直系尊属の相続分は3分の1です(民法900条2号)。
 
(2) 直系尊属として、父母ともに存命しているときは、配偶者の相続分は3分の2のままで、残りの3分の1を父母で均等に按分する(=6分の1ずつ)ことになります。
 
(3) たとえば、被相続人の遺産が1億円であったとした場合に、配偶者がおり、子はなく、父母が存命しているとき、法定相続分は次のようになります。
 
配偶者:1億円×2/3=約6,666万円(端数切捨て。以下同じ)
父:1億円×1/3×1/2=約1,666万円
母:1億円×1/3×1/2=約1,666万円

③ 配偶者と兄弟姉妹とが法定相続人である場合

(1) 配偶者と被相続人の兄弟姉妹とが法定相続人となる場合には、配偶者の相続分は4分の3、兄弟姉妹の相続分は4分の1です(民法900条3号)。
 
(2) 兄弟姉妹が複数人いるときは、配偶者の相続分は4分の3のままで、残りの4分の1を兄弟姉妹で均等に按分することになります。なお、父母の一方だけを同じくする兄弟姉妹については、法定相続分は、父母の両方を同じくする兄弟姉妹の2分の1とされています(民法900条4号ただし書き)。
 
(3) たとえば、被相続人の遺産が1億円であったとした場合に、配偶者がおり、子はなく、父母は死亡しており、姉と弟が存命しているとき、法定相続分は次のようになります。
 
配偶者:1億円×3/4=7,500万円
姉:1億円×1/4×1/2=1,250万円
弟:1億円×1/4×1/2=1,250万円

④ 配偶者がいない場合

被相続人に配偶者がいない場合(離婚、被相続人より先に死亡など)には、次のように法定相続分が決まります。
 
(1) 被相続人に子がいる場合は、子だけが法定相続人となります。子が複数人いるときは、子の数に応じて均等に按分します(民法900条4号本文)。
ただし、父母の一方だけを同じくする兄弟姉妹については、法定相続分は、父母の両方を同じくする兄弟姉妹の2分の1とされています。
 
(2) 子がいない場合は、直系尊属だけが法定相続人となります(民法889条1項1号)。たとえば、父母ともに生存しているときは、父母の法定相続分は2分の1ずつとなります。
 
(3) 子も直系尊属もいないときは、兄弟姉妹が法定相続人となります(民法889条1項2号)。
兄弟姉妹が複数人いるときは、その数に応じて、均等に按分することになります。なお、父母の一方だけを同じくする兄弟姉妹については、法定相続分は、父母の両方を同じくする兄弟姉妹の2分の1とされています(民法900条4号ただし書き)。

⑤ 相続放棄した人がいる場合

家庭裁判所で相続放棄の手続きを行った人は、当初から相続人にならなかったものとみなされ、相続権を失います(民法939条)。
 
たとえば、配偶者と子2人がいた場合に、配偶者と子Aは相続を承認したのに対して、子Bが相続放棄をしたときは、法定相続分は次のようになります。
 
配偶者:1億円×1/2=5000万円
子A:1億円×1/2=5000万円
 
また、配偶者と子がいた場合に、配偶者は相続を承認したのに対して、子が相続放棄をしたときは、法定相続分は、次のようになります。
 
・父母が存命のとき→子に次ぐ順位だった父母が繰り上がって、法定相続人となります。法定相続分は、上記②と同様になります。
・父母は被相続人より先に死亡しており、兄弟姉妹がいるとき→子と父母に次ぐ順位だった兄弟姉妹が繰り上がって、法定相続人となります。法定相続分は、上記③と同様になります。

⑥ 相続人が被相続人より先に死亡していた場合

(1) 被相続人の子が被相続人より先に死亡していた場合において、その子に子(=孫)がいるときは、上述のように、その孫が相続人となります(「代襲相続人」といいます)。
代襲相続人である孫の法定相続分は、子と同じです(民法901条1項)。
 
(2) 子とその孫が先に死亡していた場合には、ひ孫がいるときは、ひ孫が相続人となります(「再代襲相続人」といいます)。
再代襲相続人であるひ孫の法定相続分は、もともとの相続人である子と同じです(民法901条1項)。
 
(3) 兄弟姉妹が相続人となる場合(上記「2.④」を参照してください)において、兄弟姉妹が被相続人よりも先に死亡していたものの、兄弟姉妹に子がいるときは、その子が相続人となります(代襲相続)。
この場合の代襲相続人の法定相続分は、もともとの兄弟姉妹と同じです(民法901条2項)。

4. 遺産相続において注意が必要なケース

遺産相続でトラブルとなりがちなのは、遺留分を侵害してしまうことです。
遺留分とは、端的にいうと、配偶者や子ども、また親や祖父母といった相続人が、最低限相続できる金額と割合のことです。
 
たとえば、配偶者と子がいるときに、
・子だけにすべての財産を相続させる
・配偶者には一切相続させない
という遺言を作成するというケースがあり得ます。
 
この場合、配偶者には、民法に従った遺留分(上記のケースでは4分の1)が保証されています。
そこで、遺留分を侵害された配偶者は、遺言に従って財産を受け取った相続人である子に対し、遺留分侵害額の請求(民法改正前は「遺留分減殺請求」と呼ばれていました)をすることができるのです。
 
このような事態になると、遺言者である被相続人が、遺留分を考慮しなかったために、相続人の間にトラブルをのこしてしまうことになります。そのような事態を避けたいと考える場合には、遺言で相続割合を指定するに際して弁護士に相談するなどの注意が必要です。

5. 遺産相続に関することで困っている方へ

遺産相続においては、ただでさえ感情的な対立を抱えているケースなどで、トラブルが生じやすい傾向があります。
当事務所では、遺産相続の割合などをめぐるトラブルを数多く手がけ、解決に導いてきました。
遺産相続のことでお悩みのときは、ぜひ、お早めに当事務所にご相談ください。

 
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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