2021.10.22
婚外子による父親の相続 その1(婚外子の相続資格)
子どもであれば父親の遺産を相続人として相続できる―――婚外子(婚姻関係にない父母から生まれた子ども、非嫡出子)は、そう簡単にはいきません。子どもとして相続人になるには法律上の父子関係が必要になるところ、婚外子は、血縁上の父親との間であったとしても、直ちには法律上の父子関係を有するわけではないからです。なお、母子関係は、議論のあるところですが、現在の判例実務上、分娩の事実により認められます(【分娩者=母親】とする分娩主義)。
本コラムでは、婚外子による血縁上の父親の相続に関し、
(a)婚外子の相続資格
(b)相続への関与方法
(c)死後認知による価額支払請求
について、3回に分けてご紹介いたします。
今回は、(a)婚外子の相続資格への関与方法についてです。
目次
1. 婚外子は、どのような場合に血縁上の父親の相続権を有するのか
婚外子は、血縁上の父親による認知があった場合に、その父親との間で法律上の父子関係があると認められ、相続権を有するに至ります。
婚外子が血縁上の父親の相続権を有する場面について、婚外子が嫡出子(婚姻関係にある父母から生まれた子ども)として相続権を有するに至る場合も含めて整理すると、以下のようになります。
(1)婚外子の身分として相続権を有する場合
血縁関係のある父親による認知がある場合
(2)嫡出子の身分として相続権を有する場合
(i)認知後に、血縁上の父と母が婚姻した場合(民法789条1項、婚姻準正)
(ii)血縁上の父と母が婚姻した後に、認知された場合(民法789条2項、認知準正)
(iii)血縁上の父親が婚外子を養子縁組した場合(民法809条)
本コラムは、上記(1)の場合(婚外子の身分として相続権をする場合)を対象としています。
2. 認知にはどのような種類があるのか
認知には、父親の任意の意思による任意認知と、裁判所の判決による強制認知があります。
(1)任意認知
任意認知は、父親の任意の意思による認知です。
以下のいずれかの方法によります。
ア 戸籍の届出による方法
= 父親が、その意思により、戸籍の届出による方法で認知する場合(民法779条・780条・781条1項、戸籍法60条・61条)。
イ 遺言による方法
= 父親が、その意思により、遺言による方法で認知する場合(民法779条・780条・781条2項、戸籍法64条)。
・血縁上の父子関係にない者に対する認知の有効性
→ 無効(最判平成26年1月14日)
・認知届ではなく嫡出子としての出生届をしてそれが受理された場合
→ 認知届としての効力が生じる(最判昭和53年2月24日)
(2)強制認知
強制認知は、裁判所の判決により強制的に効力を生じさせる認知です。
婚外子側(婚外子・その直系卑属・これらの法定代理人)の訴えによります(民法787条)。
→ 血縁上の父親が生存中は、同父親を相手に訴え提起をします。
→ 血縁上の父親が亡くなった後は、検察官を相手にして訴え提起が可能です(いわゆる死後認知)。ただし、同訴えは、血縁上の父親が亡くなった日から3年が経過した時点でできなくなります。
3. 認知には何が条件として必要になるのか
認知には、以下の事実が必要になります。
(1)すべての場合に共通する事項
認知をする父親と認知を受ける子どもとの間に、血縁関係があること
(2)個別に必要となる事項
ア 成年の子を認知する場合
→ その子の承諾(民法787条)
イ 胎児を認知する場合
→ その胎児の母親の承諾(民法787条)
ウ 亡くなった子を認知する場合
→ その子に直系卑属がいること(民法783条2項前段)
→ その直系卑属が成年者であれば、その者の承諾(同条項後段)
エ 他人の嫡出子として届け出をされている子どもを認知する場合
→ その子の嫡出身分の消滅(戸籍上の父親が行う嫡出否認の訴え等)
4. 認知により相続に関してどのような効果が生じるか
認知により、相続に関し、以下のような法的効果が生じます。
(1)法律上の父子関係の遡及的な発生
認知により、婚外子と血縁上の父親との間に、法律上の父子関係が生じます。
この父子関係は、認知の時点から生じるのではなく、婚外子が生まれた時に遡って生じます(民法784条本文)。
(2)相続権の発生
ア 認知が、他の共同相続人による遺産分割協議等の前の時点でなされた場合
相続人として、遺産分割に参加できる。
イ 認知が、他の共同相続人による遺産分割協議等の後の時点でなされた場合
遺産分割のやり直しが制限され、金銭的な請求(死後認知による価額支払請求)のみをなし得るとされるときがある。注1
注1【他の共同相続人等の既得権と婚外子の相続権の衝突の調整について】
婚外子は、その出生のときに遡って父子関係を得ることにより、認知の時点における父親の生死を問わず、その父親の相続に関して相続権を有し得ることになります。
もっとも、認知は、相続の開始から長期間経過した後にされる場合もあります(例1:被相続人の死亡から3年以内の期間制限がある死後認知による場合、例2:遺言による認知がなされている場合で、その遺言が被相続人の死亡から相当程度経過した後に発見された場合)。そのような相続開始から認知に至るまでの間の時間的なブランクにおいて、他の共同相続人により婚外子を含めずに遺産分割協議等がされ、新たな権利関係が形成されてしまうときがあります(=他の共同相続人等の既得権が形成されるとき)。そのとき、婚外子の相続権は、他の共同相続人等の既得権と衝突することになります(=遺産分割のやり直しを求める相続権とすでに実施された遺産分割等による既得権との対立)。
民法は、両者の調整として、認知を受けた婚外子に対し、一定の場合には遺産分割協議等のやり直しを許さず、単に金銭的な請求のみを認めるという形で制限しています(民法910条による規律、死後認知による価額支払請求)。
本コラムその2においては、婚外子の父親への相続の関与方法について、より詳細に場合を分けて整理いたします。
また、本コラムその3においては、婚外子の相続権が制限される場合として、いつ、誰が、誰に対して、どのような請求ができるのか、死後認知による価額支払請求の内容についてご紹介する予定です。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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