2023.02.10
相続登記の義務化はいつから?ポイントと注意すべき点について
目次
1. 相続登記の義務化とは
相続登記の申請が、令和6年4月1日より義務化されます。これまでは、相続があった場合に、不動産を取得した方が相続登記申請をすることについて期限は無く、申請をしないままでいてもペナルティもありませんでした。しかし、義務化後は、正当な理由なく3年間、登記をしないでいると10万円以下の過料が科されることがあります。本稿では、相続登記の義務化について、ポイントや気を付けておくべきことなどを説明いたします。
2. 相続登記申請の義務化のポイント
ポイント2 義務化が開始されると、過去の相続も義務化の対象になる
ポイント3 正当な理由なく相続登記の申請をせずに3年間が経過した場合、10万円以下の過料もありうる
(1) 義務化の開始と申請すべき期間
令和6年4月1日から、相続によって不動産を取得した方は、その不動産の取得を知った日から3年以内に相続登記を申請しなければならなくなりました(改正不動産登記法第76条の2、以下単に改正法といいます。)。相続人が「不動産の取得を知った日から」ですから、単に被相続人が亡くなり、相続の開始を知っただけでは、3年の期間は開始しません。
例えば、父親が亡くなったが、父親が不動産を所有していたことを知らなかった場合は、相続登記の申請義務の期間は開始しません。
(2) 過去に相続した不動産も義務化の対象
注意しなければならないのは、法改正以前に相続した不動産についても、相続登記の義務化の対象となることです(民法等の一部を改正する法律 附則第5条第6項)。
過去に相続した不動産について、いつまでに登記しなければならないかといいますと、その不動産の取得を「知った日」又は「施行日」つまり令和6年4月1日のいずれか「遅い日から」3年以内と規定されております。
例えば、父親が亡くなったが、父親が不動産を所有していたことを知らず、令和6年4月1日の施行日後に父親に不動産のあったことを知った場合、相続人の方はその不動産を知った日から、3年以内に相続登記をしなければならないことになります。施行前から相続による不動産の取得を知っていた場合には、施行日(令和6年4月1日)から3年以内となります。
(3) 正当な理由なく相続登記申請をしていない場合のペナルティ
相続登記の義務化の開始後、正当な理由なく相続登記をせず、放置していた場合、10万円以下の過料に処せられることがあります(改正法164条)。
では、正当な理由とは、なんでしょう。これについて、①相続が複数回発生して相続人が極めて多数に上り、戸籍謄本等の必要な資料の収集や他の相続人の把握に多くの時間がかかるような場合や、②遺言の有効性や遺産の範囲等に争いがある場合、③申請義務を負う相続人自身に重病等の事情がある場合などが考えられます。
過料に科される場合でも、相続の事案に応じて基準が異なっては問題です。そこで、公平性を確保する観点から、過料に科される場合、基本的には裁判所の過料の手続きを経て行われます。現在想定されている過料手続きの流れとしては、登記官が相続登記の申請義務違反を把握した場合、相続人に対し事前に申請義務の履行を催告し、それでも相続人が正当な理由なく相続登記申請しないとき、法務局から裁判所に過料事件の通知をし、裁判所が要件に該当するか判断して過料に科する旨の裁判をする、との慎重な運用が予定されています。
このように、過料に科される前に相続登記の申請をする機会は、何度かありますからその機会に速やかに行うことが重要と考えられます。
3. 相続登記の義務化の理由
不動産を取得する場合として、売買や相続などがあります。売買では、買主が所有権の取得を明確にするため、通常は所有権移転登記手続きが行われることがほとんどです。
しかし、相続では、遺産分轄の協議が調わなかったり、相続した土地の価値が乏しく売ることも困難な場合には、費用や労力をかけて登記手続きをする意欲が低くなり、相続した不動産の所有権移転登記がなされないままに至ってしまうケースが多くありました。そして、その後、相続人等の関係者も転居や相続の発生などにより所有者不明土地が発生するという事態が多発しました。
このような事情から、所有者不明土地の発生防止のために相続登記の義務化が決められたのです。
4. 遺産分割協議が調わなかった場合の対応方法について
では、遺産に不動産があるのに、義務化の施行後、3年以内に遺産分割協議がまとまらない場合、どのようにすれば良いのでしょうか。
この場合、まずは、法定相続分の通りに相続登記をし、その後、遺産分割協議が整ったら、改めて協議内容のとおりに登記申請するというのでは、費用も手間もかかってしまいます。
そこで、この問題に対応するために法改正により新設されたのが相続人申告登記という制度です(改正法第76条の3)。相続人申告登記とは、①所有権を持つ登記名義人について相続が開始したことと、②自分がその相続人であることを、申請義務の期間内、つまり3年以内に登記官に申し出れば、申告した方は申請義務を果たしたとみなされる制度です。もっとも、この制度は、登記簿上の所有者が死亡したことを示すものであり、所有権が被相続人から相続人に移転したことを示すものではありません。まだ遺産分割協議が調っていない段階での登記であり、権利移転が確定していないからです。
この申告は、相続人が複数いる場合でも単独で申し出することができます。また他の相続人の分も含めた代理申出もできます。その後、遺産分割協議が整ったら、遺産分割成立日から3年以内に、相続登記の申請をすれば足ります。
なお、遺産分割協議とは別の話になりますが、相続人に対する遺贈があった場合、これまでは法定相続人全員の合意がないと名義変更手続きができませんでした(遺言執行者がいるときはその者の同意も必要。)。これが、改正により令和5年4月1日から遺贈を受けた方が単独で登記申請ができることになります(改正法63条第3項)。
例えば、「不動産を相続人Aさんに遺贈する」などの遺言があった場合、Aさんは単独で不動産登記名義の変更ができるようになります。
5. (関連)住所変更登記等の義務化について(施行日は令和5年2月1日現在は未定)
不動産の所有権の登記名義人の住所や氏名が変更になった場合についても、改正がなされ変更登記の申請が義務付けられます。これについては、住所等の変更日から2年以内にその変更登記をすることを義務付け、「正当な理由」なく怠った場合にはやはりペナルティ(5万円以下の過料)が定められています(改正法第76条の5、同法164条2項)。
ただし、現段階では施行日はまだ定まっていないため、詳細は、施行日が決まったのち、稿を変えて述べたいと考えています。
6. おわりに
相続や遺産分割は誰にでも起こりうる問題です。もし、相続や遺産分割で、不動産を取得した場合には、本稿を参考に手続きが速やかに進むことを願っております。
当事務所では、依頼者の方の最善の利益を考え、個々の事件に応じてより良い事案の解決方法をご提案しております。お困りのことがございましたら、どうぞご気軽にご相談ください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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