2021.11.24

令和3年改正により相隣関係の規定が変わります

弁護士 渡辺 菜穂子
 

 
令和3年4月21日に、共有・相隣関係・不動産登記等の制度を改正する法律が成立し、28日に公布されました。公布後2年以内に施行されることとされているため、遅くとも、令和5年4月には新たな法律が施行されます。ここですべての改正内容を説明することはできないので、改正のうち、相隣関係についてのみ解説します。
「相隣関係」というのは耳慣れませんが、簡単に言うと、隣り合った土地の所有者同士のトラブル・法律問題を規律する定めのことです。
相隣関係については、従前より民法で定められていましたが、このうち
①隣地使用権
②ライフラインの設備・設置使用権
③越境した竹木の枝の切除問題
について新たな改正がありました。

1. 隣地使用権

建物の建築・修繕等の場合に、足場や重機の稼働のため、隣地を使用せざるを得ない場合があります。生け垣等の枝の越境部分を切除する場合にも隣地を使用せざるを得ません。
改正前の民法209条は、一定の場合に、「隣地の使用を請求することができる」と定められていました。しかし法律が定める場合以外に隣地を使用できるのかは明らかではなく、また、請求さえすれば自動的に隣地使用権が獲得できるというものではなく、明確に隣地所有者の承諾を得る必要がありました。

 
したがって、隣地権利者が承諾しないケース(隣地権利者が不明な場合も含む)では、常に、その者を相手方として承諾請求の裁判を提起することが必要でした。
 

【改正点】

改正後は、「隣地を使用できる場合」について、従前の定めに加え、一定の場合が明記さされ、かつ、具体的な行使方法・手続(この手続に従わない隣地使用は違法、ということにもなります)が定められ、民法上の要件を満たす隣地使用であれば、相手方が承諾しない場合であっても、「隣地使用権」が成立する、という形で規定が整理されました。

★隣地を使用できる場合(209条1項1号~3号)

①境界またはその付近における障壁又は建物・工作物の築造・収去・修繕
②境界標の調査・境界に関する測量
③竹木の切り取り

★行使方法

①使用の目的、日時、場所・方法を隣地所有者及び使用者に通知する
→予めの通知が困難な場合には、使用開始後でも可能。
所有者が不明で事前に通知が困難という場合には、実際に使用を行ったあと、所有者が判明した時点で、すぐに通知を行えばよい。
②日時、場所、方法は、隣地の所有者・隣地を現に使用している者にとって、損害の少ない方法を選ばなければならない

【注意点】

① 隣地使用権があっても、一方で、民法には「自力執行禁止」という原則もあります。権利があっても、裁判手続を経ずに強制的に実現することもまた許されないということです。これは改正後も変わりません。例外的に許容される自力執行的隣地使用もあり得るかもしれませんが、少なくとも住居として現に使用されている隣地に、同意なく門扉を開けたり塀を乗り越えたりして立ち入ったりということは、隣地の平穏な使用を害する方法であり、違法な自力執行ということになると思われます。
 
また、自分が考える方法での隣地使用が、隣地使用権として認められるものであるかは、「目的のために必要な範囲」(民法209条1項)「損害が最も少ないもの」(同2項)という要件を満たすか次第ですが、これは常に明確とはいえません。つまり「その目的のために隣地使用をせずに済む方法が他にある」「より程度の少ない隣地使用でも実現できる」という場合は、「必要な範囲でない」「損害が最も少ない方法ではない」として、「自分が希望する方法での隣地使用権は成立しない」ということもありえます。
 
したがって通知に対し、別の方法(日時変更・隣地使用せずに実現できるはず)を提案・反論を受けた場合は、法律上の要件である「必要な範囲内」「損害の最も少ない方法」という、要件に関わる反論を受けているため、相手の主張・希望を真摯に検討しなければなりません。
 
つまり、相手が、こちらの考える隣地使用に反対の立場である場合に、やはり自分が希望・主張する方法で隣地を使用したいということであれば、原則としてその使用を強行せず、まず「自分の考える使用方法が隣地使用権に基づくものであり正当である」ということについて、裁判所の判断を受けた上で(隣地使用権の確認、妨害行使差し止め等)、裁判手続によって実現する必要があるということです。
 
② 住居の近隣関係との摩擦・対立は、ときに自身の平穏な生活も脅かします。したがって、摩擦・対立を生む裁判手続は、住居近隣トラブルにおいては最終手段です。交渉・調停など、できる限り穏便・穏当に、紛争にならずに話し合いで調整する方法を模索することが必要です。
 
③ 隣地という「土地」使用のみの規定であり、従前同様「住家」(建物)の立ち入りは、承諾がなければできません。
「住家」とは、現に人が住む家屋のことです。枝の切除等のために、土地だけでなく、隣地上の住居建物部分(べランダなど)に立ち入る必要がある場合には、必ずその住人(土地所有者ではなく建物の住人です)の承諾を得なければなりません。

2. ライフラインの設備の設置・使用権

建物には必ず、電気・ガス・水道といったライフラインが不可欠ですので、土地には送電線、ガス管、上下水道管等の設備を引き込む必要があります。しかし、公道部分にある送電線・管から私有地に引き込むためには、必ず他人の土地や他人が所有する設備を利用しなければならない場合もあります。
改正前民法には、こういたライフラインの設置に関する規定はありませんでしたので、隣地使用に関する民法210条等の規定を類推適用して、個々に救済を行ってきましたが、要件が明確ではないのでその主張立証は容易なものではなく、また、設置を予定している土地等の所有者が不明である場合には設置ができないという問題がありました。また、使用を受忍することで金銭を請求できるのかという点も不明確でした。

【改正点】

改正によって新たな規定が新設され、他人の土地にライフライン設備を設置する権利、他人が所有する設備を利用する権利が明文化される一方、設備設置・使用方法について一定の限度が定められました。また、ライフラインの設置権、使用権に関して金銭(償金)を支払う義務が明記され、具体的には、設備設置工事のために一時的に土地を使用する際に償金(213条の2 4項、209条4項)と、設備の設置により継続的に土地の恥部が使用できなくなることによる損害に対する償金(213条の2 5項)が定められました。

★設備設置権・設備使用権

他人の土地や設備を使用しなければ、電気、ガス、水道の供給その他これに類する継続的給付を受けられなれない土地の所有者は、必要な範囲で、「他人の土地に設備を設置する権利」「他人の所有する説明を使用する権利」があることが明記されました(213条の2 1項)。
「これに類する継続的給付」としては、電話やインターネット等の設備が想定されています。  

★場所・方法の限定

設備の設置、使用の場所・方法は、他の土地や他人の設備のために、最も損害が少ないものに限定されます(213条の2 2項)。設備設置の方法が複数ある場合には、最も他人に損害が少ない方法を選択しなければならないということです。
また、あらかじめ、土地所有者・設備所有者に対して、目的、場所、方法等を通知しなければなりません(213条の2 3項)。
通知の時期は明記されていませんが、通知の相手方が設備設置使用権の行使に準備が必要と考えられるため、実施前の2週間から1か月程度前に行う必要があるでしょう。また、所有者だけでなく、土地の使用者がいるのであれば、その使用者にも通知しなければなりません(設備の別の使用者には不要です)。
なお、通知の相手方が不特定・所在不明であっても、例外なく事前に通知が必要です。したがって、このような場合には、簡易裁判所の公示による意思表示(民法98条)を利用することになります。
設備設置等の工事のために、一時的に他人の土地を使用する場合には、その土地の所有者等に対しても通知しなければなりません(213条の2 4項、209条)。  

★償金

次の場合に、償金支払・金銭負担を行うこととされています。
 
ア 設備設置・使用工事のために一時的に土地を使用する損害に対する償金(213条の2 4項、 209条4項)
工事の際に、必然的に他人の土地を使用することになるため、それに伴う損害を補填する償金を支払う必要があります。この償金の支払は一括払いです。
想定されているのは、工事の際に、他人の土地上の工作物や、木を除去することによって生じる損害や、設備接続工事の際に、一時的に設備の使用停止をしたことによって生じた損害です。実損害ですので、全く損害が発生しないようなケースでは、この償金を請求することはできません。
 
イ 設備の設置により土地が継続的に使用できなくなることによる損害に対する償金(213条の2 5項)
他人の土地に設備を設置する場合の、「設備設置部分の使用料相当額」の支払です。
ただ、導管等を地下に設置する場合は、地上の利用は制限しないため損害はなく、使用料の支払が必ずしも必要というわけではありません。また、「承諾料」の支払を定めているわけではないので、設備設置の承諾料を求められても応じる義務はありません。 
 
ウ 他人所有設備使用者の設備修繕・維持費等の負担(213条の2 7項)
既存の他人所有の設備を使用する場合には、他人の設備を利用する以上、その修繕等の維持費についても負担すべきことが明記されました。負担割合は、「利益を受ける割合に応じて」とされています。

【注意点】

隣地使用権と同様、設備設置を承諾せず、妨害するような場合には、妨害を排除して工事を強行できるわけではありません。このようなケースでは、裁判によって判決等を得て、権利を実現することになります。

3. 越境した枝の切除

従前から非常に批判も多かった越境枝の切除問題についても改正されました。
改正前民法では、隣地からの根の越境がある場合、越境されている土地の所有者は、根は自分で越境部分を切除してもよいのですが、枝は根とは異なり、竹木の所有者に対して、枝の切除を請求できるだけとされていました。そのため、越境枝の竹木所有者が応じない場合には、判決を得て強制執行等の手続をとらねばならず、そうした手続きを経てようやく枝を切除することができました。枝は一度切除しても再度伸びてくるものですので、伸びるたびにこのような手続きを取らねばなりません。竹木が共有ということになれば、基本的には「共有物の変更」ですので、共有者全員の同意が必要であり、誰かが反対すれば法的には切除すらできません。
このような手続き・制度では非常に手間や時間がかかり、また、竹木所有者が不明・共有であれば、枝の切除もできないという問題がありました。

【改正点】

改正により、一定の場合には隣地の竹木の枝を自ら切り取ることができることとなりました。また、竹木が共有であっても、他の共有者の同意なく竹木共有者の1人が切除を行うことができる旨も明記されました。

①自分で切除できる場合

具体的には、次の場合です。
ア 竹木所有者に枝の切除を請求したのに、相当期間内に切除しないとき
イ 竹木所有者が不明であるとき(所在不明含む)
ウ 急迫の事情があるとき
「相当期間」とは、枝切除に時間的猶予を与える趣旨ですので、事案にもよりますが、2週間程度とされています。 

②共有者各自の枝の切除

越境された土地の所有者は、共有者全員に対して請求する必要はなく、その1人に対して切除を求めることができ、竹木の共有者1人から承諾が得られれば、越境された土地所有者等の他人が枝を切り取ることができます。

【注意点】

改正では、枝の切除費用の請求権は定められていません。
しかしこれは、枝の所有者に請求できないという趣旨ではなく、規定を定めるまでもなく、枝の切除費用を所有者に請求できることは当然であり、不法行為・不当利得(民法709条、703条)にするということです。

 
令和3年改正により、従前解決困難であった相隣関係トラブルの一部について、解決できる道筋がつけられることになりました。まだ、未施行の法律ですから、これに従った請求権等を主張して交渉することはできませんが、2年以内に施行されることが決まっていますので、時間の問題ということで、その点を指摘することで、交渉が円滑に進むケースも出てくるかもしれません。
いずれにせよ、まだ公布から間もない法律の定めであり解釈等には様々な問題も生じうるので、相隣関係に関するトラブルついては、専門家に相談されることをお勧めします。

 
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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