2025.09.05

不動産売買における事故物件の問題

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パートナー弁護士
渡辺 菜穂子Nahoko Watanabe
労働問題(企業・労働者双方)や不動産トラブルを中心に、多様な紛争解決に携わってきました。依頼者それぞれの立場に寄り添いながら、丁寧かつ的確な対応を心がけています。女性弁護士としての柔らかさや細やかな視点を活かし、相談しやすく安心できる法的サービスの提供を目指しています。

弁護士 渡辺 菜穂子

 

1. 不動産取引の「事故物件」

 かつてその場所で「人の死」が発生した、という、いわゆる「事故物件」の問題は、その概念が広く曖昧である上に、人によって嫌悪感の対象や程度も様々です。

不動産において「人の死を伴う事件・事故」が発生したということが、一定の場合に、「心理的欠陥(瑕疵)」になるということは、一般的にも知られていますが、

 

  • ①どのような事件・事故の場合、告知しなければならないのか

(どのような事件・事故が判明した場合に、売主に責任追及できるのか)

  • ②告知せずに取引した場合、どんなリスク(解除、損害賠償の請求を受けるなど)があるのか

 

といった点は、それほど明確ではありません。

 しかし、売主・賃貸人側としても、買主・賃借人側としても、①②ともに非常に重要な問題です。

 

2. どんな場合に告知しなければならないのか

(1) 国土交通省のガイドライン

「どんな場合に告知しなければならないのか」(前述の①の問題)については、国土交通省が、2021年に「宅地建物取引業者の人の死に関する告知ガイドライン」を作成して公表し、ある程度、判断基準が明確になりました。

ガイドラインはあくまで

 ・宅地取建物取引業者の告知基準

 ・対象は居住用住宅のみ(オフィス物件等は対象外)

 ・「告げなくてもよい類型」の列挙

 ですので、事故物件の告知範囲の問題全てを直接決めるものではありませんが、このガイドライン自体が、「現時点における裁判例や取引実務に照らし、一般的に妥当と思われるものを整理しとりまとめたもの」とされていますので、どのような場合でも、参考にはなると思われます。

 

(2) ガイドラインの内容・図示化

ガイドラインの判断枠組みは、①死因・死後の状況、②人の死が発生した場所、③時の経過の3点を基礎に、判断する仕組みになっています。

①死因・死後の状況

【死因】

 死因としては、いろいろなものがありますが、ガイドラインでは、自然死、日常生活上の不慮の死、それ以外として分けています。

ア 自然死…老衰など、自然な状態のまま死を迎えたケース
イ 日常生活上の不慮の死
…病死や、転倒事故や誤嚥など突発的に発生した死亡であっても、死因が明確で、日常生活において一般的に起こる事故による死のケース
ウ それ以外の死因 …殺人、傷害致死、自殺、餓死、上記以外の事故死、原因不明の死亡(自然死・病死等の可能性も自殺、他殺の可能性もある場合)など、上記以外の死因のすべてを含みます

そして、アやイの死因(自然死や日常生活上の不慮の死)以外の死因の場合には、原則として告知義務があるとされています。

 

 【死後の状況】

死因が上記のアないしイであったとしても、遺体が放置され、特殊清掃やリフォーム等に至っているケースでは、告知義務があるとされています。

 

②人の死が発生した場所

死因のほかに、人の死が発生した場所がどこであるかによっても告知対象であるかどうかを判断する基準とされます。つまり、人の死が発生した場所が、

ア 取引対象物件そのものの中
イ 共用部分であっても取引対象物件での生活上通常使用する場所 …ベランダなどの専有使用部分、物件前の廊下、共用玄関、エレベーター
ウ 上記以外の共用部分 …敷地上、同一マンションの廊下、屋上その他、被相続人と特別の縁故があった者
エ 隣接住戸(上下・左右)内

    によって区分し、ウやエで発生している場合は、①死因・死後の状況が、他殺等の死因や、特殊清掃を伴う自然死等であっても、原則として、告知対象外としています。

 

但し、死の発生した場所が、告知対象外となっていても、人の死の発生した事件それ自体が、事件性・周知性が高いとか、社会に与えた影響が特に高い事案(広くマスコミ報道されたような事案)については、告知義務が生じうるとしています。

 

③時の経過

死の発覚から3年が経過した場合、賃貸取引においては、告知義務がなくなるとしています。

もっともこの場合も、事件性・周知性・社会に与えた影響が特に高い事案は、告知義務が生じうるとされます。

 

ガイドラインの文章は、やや分かりにくいようにも思われますので、ガイドラインの内容を整理して図示すると、概ね以下のようになると思われます。

 

国土交通省のガイドラインを図式化した画像。
事故物件に関する告知義務の有無などが記載されている

 

(3) 聞かれたら、嘘を言ってはいけない

 上記の図で告知義務がないような場合であっても購入・賃借希望者から、契約するかどうかという段階で、特に質問されたような場合は、虚偽を回答すると問題になる場合もあるという点には注意が必要です。

 

 たとえば、

「この部屋で人が死んだことはありますか」

「マンションのどこかの部屋で、自殺や殺人があったことはありますか」

 と聞かれるような場合です。

 

告知義務の有無に関する基準では、契約対象の物件内で人が亡くなっても、死因が自然死・病死などで、発見も早く通常どおり遺体が埋葬されたような場合であれば、告知義務はないですし、自殺や殺人があったマンションでもそれが契約対象物件外の離れた場所にあり、特に報道もされていなければ、告知義務はないことになります。

 

 これらについて聞かれて、仮に知っていて嘘を答えてしまうと、それは虚偽の説明として別途問題になることがあります。もちろん、事実を知らなければ、仮にそれが間違っていても「意図して虚偽を言った」ということにはなりませんので、直ちに何らかの義務を負うというわけではありません。

 しかし、そういった質問をするということは、希望者にとって重要な関心事であることも多く、あとで違うということが分かった場合に、トラブルになることもあります。

トラブル防止の意味では、こういったことについて質問された場合は、告知義務の範囲内外に関わらず、無理のない可能な範囲で一応は調べて、その結果を回答した方がよいということもあります。

 

3. どんな責任をとることがあるのか

 告知義務違反で問題になった場合の責任・請求される内容は、賃貸の場合と売買の場合で多少、若干違います。

(1) 売買の場合

一般的には、①契約の解消と、②損害賠償請求の2つが考えられます。

 

  • ①契約の解消(契約それ自体を否定する請求)

契約の解消を主張する場合、売買であれば、売買代金の返還等が求められることになります。契約解消を主張する法律的な根拠としては、複数考えられますが、一般的な根拠としては、以下のものがあります。

 

【主張の根拠】

 ・契約不適合責任による解除

 ・消費者契約法の取消(故意の不実告知)

 ・錯誤取消

 ・詐欺取消

 が考えられます。

 

それぞれに要件が異なるため、どれを根拠に主張できるかは、ケースバイケースです。

 なお、説明義務違反を契約上の債務不履行として、債務不履行解除という構成も考えられなくはありませんが、平成23年4月22日の最高裁判決(第二小法廷)からすると、説明義務違反を理由とする債務履行解除という主張は、理屈上は、難しいように思われます。

 

②損害賠償請求

契約を解消しないとしても、告知されずに購入したことで被った損害分を、損害賠償請求するということが考えられます。損害として一般的に考えられるのは以下の2つです。

 

ア 減価分      告知を受けずに事故物件を購入し、事故物件として売却した場合、一般的には事故物件前提の市場価格は、通常の物件よりも下がりますので、転売差額分を損害として請求することが考えられます。実際に転売している場合には、損害額(減価分)の立証も比較的容易です。      しかし、実際に転売しない状態の場合、「事故物件としていくらの市場価格になるのか」を立証することは簡単ではありません。裁判例では、売買代金額の1,2%から30%など、事例によってさまざまであり、これについても、物件の市場性、事故の内容、事故からの期間の経過、周知性等によって様々ですので、一概にはいえません。  

 
イ 慰謝料      減価分に加えて、精神的苦痛として慰謝料を請求することもありますが、アの減価分の立証ができない場合に、慰謝料額を、減価分相当の経済的な損害額も踏まえた額で請求するということも考えられます。

 

(2) 賃貸の場合

賃貸で事故物件と発覚した場合、賃借人は解約・退去するという行動をとることが多いと思われます。

売買と異なり、賃借人は理由がなくても契約を解消できますので、問題となるのは、「知っていればこの物件に住むことはなかったので、ここに一時的に住むことになって、無駄に支出したものが全て損害である」と考えられることで、告知義務違反を不法行為とし、無駄になった支出を損害として、損害賠償請求をするのが通常です。

費目としては、

・契約時の仲介手数料

・礼金(契約時初期費用)

・対象物件に入居するための諸支出(エアコン設置費用等)

・引越費用

・慰謝料

などが一般的です。

 

なお、既払賃料すべて返還請求という主張も、全く考えられなくはありませんが、契約から退去まで、居住したかは別として対象物件に物を置いて占有していた場合、その期間の賃料の返還まで求めることは難しいです。

 

4. 最後に

 売買や賃貸などの取引をする場合の事故物件の扱いは、どのような場合に告知しなければならないのか、あるいは告知しなかった場合にどのような請求がありうるのか、いずれもケースバイケースであり、少なくとも、本人が自身の判断で行うのは非常に難しいと思われます。

 心配や気がかりなことがあれば、一度、不動産取引に精通した弁護士などの専門家に相談されることをおすすめします。

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