2021.10.11

預貯金仮払い制度の利用について

弁護士 三浦 裕和

1. 預貯金仮払い制度の必要性

家族全体の生活費の支払いを、一人の銀行口座で管理しているという方が多くおられると思います。しかし、突然、その口座名義人が亡くなってしまうと、銀行口座が凍結され、生活費を引き出したり、葬儀費用を支払ったりすることができなくなってしまうという問題がありました。
そこで、令和元年の相続法の改正によって、遺産分割協議が終わっていない時点でも、単独で銀行口座から一部のお金の仮払いを受けることができる「預貯金の仮払い」という制度が新しく作られましたので、紹介します。

2. どうやって本制度を利用することができるか?

本制度は、相続人ひとりひとりが単独で預貯金の仮払いを求めることができるという制度です。預貯金を対象として制度ですので、株式や証券の一部解約はできません。
本制度を利用することにより、遺産分割の協議が始まる前や遺産の分割方法について話し合いがなされている途中でも、他の相続人に協力を求めることなく、預貯金の一部の払い戻しを受けることができます。

3. いくら仮払いを受けることができるか?

本制度を利用して払い戻しを受けることができる金額は、法律によって上限が定められています。仮払いを受けることができる金額の上限は、1つの口座ごとに、以下の計算式で求められる額まで引き出すことができます。

ただし、同一の金融機関から払い戻すことができる金額は150万円までと定められていますので、一つの金融機関あたり150万円を超える場合は、150万円までしか仮払いを受けることはできません。

具体例をいくつかあげます。

(1) ケース1

このケースの場合、妻の法定相続割合は全体の2分の1ですから、
300万円 × 1/3 × 1/2 = 50万円
で、金50万円の仮払いを受ける事ができます。

(2) ケース2

このケースの場合、妻は、計算式によると
1,500万円 × 1/3 × 1/2 =250万円
で、250万円を引き出すことができるようにも思えます。
しかし、一つの金融機関から払い戻すことができる上限である150万円ですので、150万円までしか仮払いを受けることはできません。

(3) ケース3

このケースの場合、妻は、
A銀行から、750万円 × 1/3 × 1/2 =125万円
B銀行から、600万円 × 1/3 × 1/2 =100万円
の合計、225万円の仮払いを受けることができます。

4. どういった手続きが必要?

本制度は、裁判所を通すことなく、亡くなった方の名義の口座がある金融機関に連絡することによって、手続きを行うことができます。
必要な書類は、亡くなられた方や金融機関ごとによって変わりますので、各金融機関に確認が必要です。

5. 本制度利用による注意点

・本制度を利用した場合、財産を一部取得したとみなされるため、相続放棄ができなくなります。相続財産がマイナスになってしまう可能性がある場合は、利用を控えた方が良い場合があります。
・あくまでも仮払いの制度ですので、払い戻しを受けた預貯金が遺産として確定するわけではありません。

6. 家庭裁判所の判断により払戻しができる制度

いままで、金融機関に対して預貯金の仮払い求める制度についてご説明してきましたが、同時に家庭裁判所を通じて、預貯金の仮払いを求める制度もできました。
こちらの制度では、金融機関に対する仮払いを求める制度と異なり、払い戻しを受けることができる金額に上限が決まっていませんが、家庭裁判所が審理し、仮払いの必要性が認められた範囲でしか払い戻しを受けることができません。
必要に応じて、家庭裁判所を通じて、預貯金の仮払いを求める制度の利用も検討しましょう。

7. 最後に

本制度ができたことによって、一時的な生活費の引き下ろしや葬儀費用・相続税の支払いについてある程度対応することができるようになりました。
しかし、あくまでも預貯金の一部だけの払戻しを受けることができるという制度ですので、抜本的な解決には至れません。
抜本的な解決に至るためには早期に遺産の分割を終了させてしまうことが重要ですので、相続人同士での話し合いが難しいと感じましたら、相続に強い弁護士にご相談ください。

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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