2023.11.10

遺留分請求の実態

弁護士 早崎 努
 
遺留分請求の実態を会話形式でご紹介いたします。
登場人物は下記の三名です。
ア:新人弁護士
イ:ベテラン弁護士
ウ:元銀行員
 

1. 遺留分侵害請求が来た!

(1) 法律相談後の事務所での会話

ア:「遺留分侵害請求を受けたのでどう対応すればよいかとの相談を受けたけど・・」
イ:「具体的な事案はどんな事案?」
ア:「お母さんが亡くなられて、兄弟二人が相続人です。
お母さんがお兄さんに全部取得させるという内容の遺言を書いています。
弟さんから、お兄さんあてに侵害請求をされたという相談です。遺産は、不動産が主で、時価で4億円相当です。」
イ:「今回のように4分の1の遺留分侵害請求をされて、相談者であるお兄さんは金銭を払えるのかな?」

(2) 受任後の事務所での会話

ア:「さすがに、1億円も現金では払えないとお兄さんに言われてしまいました。」
イ:「じゃあ、二人で売ればどうなの?」
ア:「お兄さんは、今は売りたくないようで、売ると言わないです。」
イ 「遺産が不動産だと本件のようになかなか共有関係の解消が図れないケースが多いよね。本件では、不動産は具体的には何なの?」
ア:「錦糸町にある賃貸マンション1棟ですよ。」
イ:「そうか、じゃあ別の方法がとれるかも。ちょっと、元銀行員のウさんに相談してみよう。」

2. 銀行借入の基本的な考え方

(1) 銀行からの借り入れ?

イ:「お忙しいところ、すみません。ウさんは、元銀行員で、審査部に在籍していたこともあるし、銀行を辞めた後は、事業会社で銀行相手に資金調達をしていた経験もあります。」
ア:「よろしくお願いします。お兄さんにお金を借りてもらい、弟さんの持ち分を買い取ることを提案したいのですが、銀行で検討が可能ですか?」

(2) 融資・借入の基本

ウ:「銀行の融資の際の考え方の基本は、①資金使途と、②返済方法と、③担保です。会社に対するときでも、基本は変わりませんが、今回は個人ですよね」
ア:「そうです、開業医ですが、個人ですね。」

(3) 資金使途

ウ:「まず、①資金使途はなんですか?」
ア:「弟の遺留分侵害請求に対する対価を支払うための資金となります。」
ウ:「なるほど、あまり銀行で見かける資金使途ではないですが、それ自体は問題ないですね。」
ア:「問題とは?」
ウ:「そうですね、法律関係の原因でいえば、損害賠償支払資金なんて審査部が嫌がると思いますよ。」
ア:「なぜですか?」
ウ:「悪いことをしたやつに味方するのかと、審査部に嫌味を言われかねませんからね。」
ア:「なるほどね、資金使途も内容によりけりということですね。」

(4) 返済方法

ウ:「次は②返済方法ですが、お兄さんはどう考えているのですか?」
ア:「開業医で、クリニックは利益を上げているのですが、脳神経外科なので医療設備がそれなりにあります。
具体的には、MRIなどのリースが結構あるから、対象不動産からの賃貸収入から返済できればよいとおっしゃっていました。」
ウ:「なるほど。賃料収入はどれくらいあるのですか?」
ア:「月に3百万円ぐらいとおっしゃっていましたから、年間36百万円ぐらいになると思います。」
ウ:「経費、税金の支払いなどがあるから、36百万円まるまる返済原資となるわけではないけど、1億円の借入をしたとしても、3-5年くらいで返済できそうですね。」
ア:「どういう計算をされたのですか?」
ウ:「単に、借入見込みの1億円を36百万円で割っただけですよ。経費を引いた後の金額で割った方が良いですけどね。
今回の場合、お兄さんご本人の収入は別に考えていますが、そういいながら開業医だということを考慮にいれます。
年金受給者で、高齢で他に収入がないなどの場合は、今回の不動産のケースでも融資の採り上げを審査は嫌がる可能性が大きいと思います。」

(5) 担保

ア:「簡単に割り切れるわけではないのですね。③担保はどうですか?」
ウ:「正式には銀行で担保評価をする必要がありますが、一概には言えません。所謂時価の6-7割だと考えてください。
あと、賃貸マンションだと、築年数から要求される大規模修繕の予定などの今後の支出も考慮されますので、担保価格は固めに考えた方がよいと思います。」
ア:「築年数は、15年ぐらいですが、ちょうど大規模修繕は終わったところだと聞いています。」
ウ:「時価が4億円ということですから、1億円は、これで見れば25%です。
いくら固めに見ても、半分ということはないでしょうが、半分と見ても50%ですよね。
担保としては問題ないと思いますよ。この築年数だと旧耐震ではないですしね。」

3. まとめ

今回は、借り入れの際の基本的な考え方について話しました。
相続での共有関係の解消には様々な方法があると思います。
融資を検討するに際して、多くの相続案件は既存の担保設定がなければ、資金使途と担保のところは比較的クリアになることが多いです。
あとは、返済のところをどのように組み立てるかです。上のように収益返済できると簡単です。
銀行借入も共有解消の有効な方法ですので是非検討してみてください。

 
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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