2024.01.26
建物建替えにおける正当事由と立退料について
弁護士 与能本 雄也
1. 正当事由とは?立退料との関係
建物の賃貸借契約において、契約を解約して明け渡しを請求がなされる場合、賃貸人から賃借人に対し、立退料(あるいは明渡し料・移転料・補償金など)の名目で一定の金銭の支払がなされることがあります。
借地借家法においては、期間の満了等として、賃貸人が賃借人を解約して退去させるにあたり「正当の事由」が要求されます(借地借家法28条)。そして、その「正当の事由」の判断要素の1つとして、立退料などの財産上の給付の有無が考慮されます(同法28条)。
そして、立退料は、正当事由が完全でないけれども、一定の割合まで認められる場合において、正当事由の不足分を補完・補強し、正当事由を肯定するための要素となります。
そのため、明渡しを求める理由が、その理由単独で正当事由を具備するに近いものであれば、立退料は相対的に低額でよく、他方正当事由を具備するには遠い場合は、相対的に高額となります。
2. 建物建替における正当事由と立退料
建物を立て替える場合において、その事情によっても、正当事由の判断の傾向は変わってきます。
(1) 老朽化
建物が朽廃・滅失によって使用できなくなれば、賃貸借契約は終了しますが(民法616条の2)、それに至らない場合においても、例えば耐震性が欠如しているなどの老朽化の状態は、正当事由の考慮要素となります。
もっとも、例えば耐震性がないとしても、耐震補強工事が可能な場合、正当事由は否定されことがあります(東京地判平成22.9.7)。この場合の耐震補強が可能かどうか経済的観点も考慮されます。
他方で、耐震改修工事を行ったものの、数年のうちに立て替えるべきであることが否定されないとして、正当事由が肯定されたケースもあます(東京地判29.2.14)。
立退料については、明渡しを求める理由が、正当事由が単独で足りない場合は、その程度によって立退料による正当事由の補完が必要になるケースも多くあります。
このように、一見老朽化しているような場合であっても、直ちに「正当の事由」が認められるというような単純な問題ではなく、個別のケースごとに、具体的に検討をする必要があります。
(2) 土地の有効活用としての建替
現在建っている建物より高い建物が建つ場合など、より土地を有効活用できるというケースにおいて説明します。
土地を有効活用して収益を上げることについても、正当事由の考慮要素になり得ます。敷地の容積率が十分に活かされていないことにつき、「それのみで正当事由を基礎付けるべきではないとしても、副次的な事情として考慮に含めることは許されないものではない」と示した裁判例があります(東京地判平成25.6.14)。
つまり、このような事情のみの場合は副次的な理由と評価されてしまうことが想定されます。そのため、前述の老朽化など、他の事情も併せて「正当の事由」として主張がなされることなります。
この事情単体では「正当の事由」が認められなかったり、高額の立退料での「正当の事由」の補完が必要になるケースもあります。
3. おわりに
以上、建物の建替えにおける正当事由と立退きについてご説明しましたが、個々の事案においては、ご説明した以外の要素も含めて複合的に事情が合わさっている場合が多く、個別に総合的に考慮して「正当の事由」の判断がなされます。
このような判断や交渉・訴訟は専門性が高いとされていますので、弁護士をご活用ください。当事務所では、多数の実績がございますので、ご相談ください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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