2020.05.11

新型コロナウイルス感染症に関連した不動産トラブルQ&A(賃貸人)

弁護士 加唐 健介 / 松村 武志
 

Q.1 賃料支払猶予

賃貸用ビルを所有しています。今回の新型コロナウイルス感染症の影響で飲食店などのテナントから賃料の支払を猶予してもらえないかと依頼がありました。支払を猶予しなければならないのでしょうか?
 
A. 現時点で賃料支払を猶予する義務はないと考えられます。
この点、国土交通省から、賃料支払が困難な事情のあるテナントに対して賃料の支払の猶予に応じること等を検討するよう要請が出ています。ただ、猶予を義務付けるものではありません。
ただし、後記(Q.3)のような税制面の優遇や後継テナントの入居の見通し等も考慮し、合理的な範囲での支払猶予を検討されても良いと考えられます。

Q.2 賃料減額請求

テナントから新型コロナウイルスの影響を理由に賃料の減額を請求されました。応じなければなりませんか?
 
A. 賃貸人がテナントの休業を指示したような場合を除き、直ちに減額に応じる義務はないと解されています。
もっとも、今後緊急事態宣言に基づきテナントに対する休業指示等が出された場合、外出自粛要請が長期に及ぶなどして経済状況の低迷が長期化した場合は、民法あるいは借地借家法に基づく賃料減額請求が認められる可能性が大きくなると考えられます。

Q.3 賃料減免の場合の税務上の処理

テナントからの要請に応じ、賃料の減免もしくは支払猶予に応じようと思います。この場合の留意点を教えてください。
 
A. 新型コロナウイルス感染症の影響により賃料の支払いが困難となった取引先に対し、不動産を賃貸する所有者等が当該取引先の営業に被害が生じている間の賃料を減免した場合、その免除による損害の額は、寄付金扱いせず、税務上の損金として計上することが可能とされました。ただし、書面【ひな形】を作成して、取引先の復旧支援等を目的とすることを明確にしておく必要があります。
なお、賃料の支払猶予は損金算入の対象にはなりませんので、留意する必要があります。

Q.4 賃料減免・支払猶予に応じた場合の特例

テナントの賃料の減免もしくは支払猶予に応じた場合の特例を教えてください。
 
A. 賃料の減免の場合の損金算入(Q.3参照)のほか、下記の措置が実施される見込みです。
① 2021年度の固定資産税・都市計画税の減免
設備や建物等の固定資産税及び都市計画税について、2020年2~10月の任意の3ヶ月の売上が前年同期比 30%以上減少した場合は1/2に軽減し、50%以上減少した場合は全額を免除されます。
② 税と社会保険料の猶予
2020年2月から納期限までの1カ月以上において収入が前年同期比概ね20%以上減少した場合、国税や地方税・社会保険料の納税が1年間猶予される見込みです。
この場合、担保は不要で、延滞税は免除されます。

Q.5 所有物件における新型コロナ対策①

多数のテナントが入るビルを所有しています。新型コロナ対策としてどのようなことに留意する必要がありますか?
 
A. 「換気の悪い密室空間」とならないよう、機械換気もしくは窓の開放により、ビル管理法(建築物における衛生的環境の確保に関する法律)に定められた空気環境の調整の基準に適合した換気の実施に留意する必要があります。
なお、ビル管理法上の特定建築物(多数の者が使用・利用する延べ床面積が3,000㎡以上の建物)該当する建物については、2ヶ月に1回の空気環境測定が義務付けられていますので、二酸化炭素濃度が超過している場合等は設備の再点検が必要となります。

Q.6 所有物件における新型コロナ対策

オフィスビルを所有しています。出入口付近に消毒液を置くなどして感染予防の具体的措置を取る義務があるのでしょうか?
また、物件内に新型コロナウイルスの存在が確認された後に消毒作業を行う義務はあるのでしょうか?
 
A. 現行の法律で特に定められているもの(Q5参照)を除き、賃貸人に感染予防の具体的措置を取る義務があるとまでは言い難いと考えられます。
他方、賃貸人には修繕義務が課されているので、物件内に新型コロナウイルスの存在が確認された場合は、賃貸人の責に帰すべき事由の有無にかかわらず、消毒作業などを行う義務が生じると考えられます(賃借人がウイルスを持ち込んだことが明らかな場合は法的義務は否定されると考えられます)。

Q.7 事業継続のための措置等

ビルの賃貸事業を営んでいます。新型コロナウイルスの影響で資金繰りが厳しく借入金の返済が滞りそうなのですが、検討できる制度を教えてください。
 
A. 現時点では次のような施策が予定・実行れています。
① 持続か給付金(補正予算案成立後)
新型コロナ感染症拡大により、売上が前年同月比で50%以上減少している法人や個人事業者に対して、最大で法人は200万円、個人事業者は100万円を給付されます。
② セーフティネット保証制度
信用保証協会における保証のうち、直近売上高が前年5%以上減少等した場合に、一般枠とは別に借入債務の80%を補償する「セーフティネット5号」の対象業種に「貸事務所業」が追加されました。※市区町村長の認定が必要。
③ 金融機関に対する返済猶予等の対応要請
金融庁から金融機関に対して、賃貸事業者を含む事業者の有するローンについて、返済猶予等の条件変更等に迅速かつ柔軟に対応するよう要請がなされています。
 
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

虎ノ門法律経済事務所の弁護士コラムのページへようこそ。
弁護士相談・法律相談を専門とする虎ノ門法律経済事務所では、不動産トラブルの解決事例も豊富であり、お客様それぞれのお悩み・トラブル内容に沿った弁護士をご紹介することで、トラブル解決の最後までスムーズに進めることを目指しております。
不動産トラブルだけではなく、他の様々な相談内容にも対応しておりますので、ぜひお気軽にご連絡・ご相談ください。