2022.01.28
「家族信託」を利用してみませんか?
弁護士 加唐 健介
目次
1. こんなお悩みはありませんか?
(1) 施設入所のための自宅売却
私は、会社を定年退職して妻と悠々自適の毎日を送っています。子どもは一人立ちしていますので、今後身の回りのことができなくなったら、自宅を売却して施設に入所したいと考えていますが、いざそういう状況になったときには、認知症などで、不動産の売買契約ができなくなってしまわないか心配です。
(2) アパート管理の承継
私は、夫に先立たれ自宅で一人暮らしています。夫の遺してくれたアパートを経営しながら生計を営んでいますが、年を取り管理が大変になってきました。近くに住んでいる息子にアパートの管理を任せ、私が亡くなった後は、売却して、もう一人の息子と公平に分けてほしいです。
2. 信託とは
信託とは、特定の者(受託者)が一定の目的にしたがい、本人(委託者)の有する不動産や預貯金などの財産の管理・処分など、目的達成に必要なことをする仕組みです(信託法2条)。このうち、高齢の両親などのために、その家族が受託者となって行う場合を「家族信託」といいます。
信託の特色は、次のような点にあります。
(1) 財産管理と財産承継を同時にできる
信託契約では、生前に管理を委託する家族を決めると同時に、亡くなった後に財産を引き継がせる家族を決めることができます。さらに、その家族が亡くなった後の世代の承継者も、一定の範囲で決めることができます。
(2) 財産の積極的な活用ができる
受託者は、善良な管理者としての注意義務に反しない限り、証券取引を行ったり、金融機関から借入れを行うことも許されています。
同じく財産管理の仕組みとして任意後見がありますが、実務上、任意後見人の証券口座の開設や借入れを認める金融機関はないようであり、信託の特色の一つです。
(3) 裁判所による監督がない
同じく財産管理の仕組みである成年後見は、裁判所が後見人を監督しますが、民事信託の受託者は裁判所の監督を受けません。他方、「信託監督人」や「受益者代理人」という制度があり、第三者や専門職がこれらに就くことで、受託者を監督することが望ましいとされています。
(4) 世代を超えた財産承継が可能
同じく財産承継の仕組みとしては遺言がありますが、遺言では、次世代の財産の承継者を決めることはできるものの、次々世代の承継者を決める条項は、裁判所において無効と判断される可能性があります。信託の場合は、「後継ぎ遺贈型受益者連絡信託」(信託法91条)を用いることで、これを実現することができます。
3. 信託を用いた解決策
(1) 施設入所のための自宅売却
冒頭の(1)の事例では、本人がお子さんを受託者として、自宅を対象に含む信託契約を締結することで、将来的に本人の判断能力が低下した場合でも、お子さんが自宅の売買契約を締結すると共に、売買代金の管理や施設の入所の手続を行うことができます。
(2) アパート管理の承継
冒頭の(2)の事例でも、本人がお子さんを受託者として、本人がお子さんを受託者として、アパートを対象に含む信託契約を締結することで、以後、お子さんが本人の代わりに、アパートの管理をすることができます。アパートの家賃は、お子さん自身の収入とは区別した銀行口座を作成してそこで管理することとなります。また、亡くなった後の残余財産の分配方法を定めておくこともできます。
4. おわりに
信託、特に家族信託は、高齢者社会にマッチした柔軟性の高い仕組みで社会の関心は高まっているものの、十分に活用されているとはいえないのが実情です。
当事務所は、シニア問題のフロンティアであることを自負しています。どうぞご相談ください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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